『フォ~ウ……』

シロー「、……ん゛っ!?

マシュ「い、今の声って……」



パ カ ッ



イオナ「えへへ、フォウさんもいるよ」

シロー「な゛っ、なんで……?」

フォウフォウッ!





イオナ「ついてきちゃった」

シロー「ついてきたて……」

フォウ「フォウ~」

マシュ「ど、どうしましょう先輩……」





シロー「……仕方ないから、事が済むまでそこで大人しくしててくれ。イオナの邪魔しちゃダメだぞ」

フォウ「フォウ!」

イオナ「フォウさんじゃまじゃないよ」

マシュ「えへへ、一緒に守らなきゃですね、先輩」





クリス「これまで回収できた物資機材の解析及び、その製造元の割り出しを進めてきたが……ようやく、絞り込めた」

シロー「っ、マジかよ!?

クリス「ああ、大マジさ」





クリス「以前に入手したコレを覚えているかね?」

リーファ「あの煙幕蝙蝠が落としたものですね」

クリス「どうも見覚えがあると思えば、以前にモリビト機関の技術交流により僅かながら供与された物品に似たものであるとわかった」

マシュ「え、えと、それって……?」





クリス「今、ニーズシティにいる『竜』が持っているフルボトルと同系列のもの、ということさ」

シロー(ザック先輩が使ってるのと、か……)

クリス「容器や前提たる運用装備の系列等の規格はそれらと共通のもの。粗製とはいえよく似通っている。

 そのうち内容成分や構造、材質はこれまで出回っていた簡易的な『ギフト』の容器と同一であると確認できた」

ヴィダール「回りくどいな。ならばそれはどこから出てきたものなんだ?」





クリスゲッコー・エンタープライゼス

 その大規模工場兼研究施設。以前に君たちが呼び出された場所さ」

アキヒロ「っ……!?」

クリス『魔力の性質変容、並びに蓄積、保存』を可能とする特殊技術として、当方モリビト機関のジェノアス系列のライセンスや『オプティマ』の技術との交換として供与されていた。

 ま、確かに『ギフト』の薬物を入れる容器として考えれば、適役ともいえる物品だな」

シロー「でも、G・Eの社長って人に会ったっすけど、正直悪い人には……」





アイオワ「相手がもしそう思わせられる人間だとしたら?」

シロー「っ……」

アイオワ「あなたが見抜けないほどの演技を持って、信頼させたのだとしたら? あの時わざわざシローを呼んだのも、ヒーローとしても活躍しているあなたにそう強く印象付けMe達に釘をさすのが目的だとしたら?」

シロー「…………!」




アイオワ「それに、スポンサーを買って出ることで自警団ヴィジランテを囲ってること、ニコルドシティの近郊に大型のファクトリーを構えていること……

 この街で多くの事件が起こっているのを鑑みる限り、悪い方に取れる材料は沢山あるわ」

シロー「…………」





アイオワ「Sorry。私は正直、シローは見る目がある方だと思ってるし、それには信頼する価値があると思ってるわ」

クリス「それにまぁ、わざわざそんな技術を唐突に持ち出してきたことや、我々が回収した時点で奪い返しに来ない様子等々、気になる点がないわけでもない」





クリス「だが相手が本当に犯人だったとして、『貴方は犯人ですか?』と聞いて『はいそうです』と答える輩などそうそうおるまいて。

 ましてや相手は大企業、そうと聞いた矢先に証拠を端から処分されてもなんらおかしくはない。

アイオワ「だからだからこそ、確実に真実を掴まなければならないの」





アイオワ「悪意を振りまく根幹を叩き潰すために。

 ……OK?」



カンッ カンッ


カンッ



 「相も変わらず異常なし。セキュリティの方も万全なんだろ?」

 「それでも見回るのが俺達の仕事だ。万が一があっては事だしな」

 「まぁ確かに。この前の事件のこととか……」



バ ッ !



 「誰だっ!




 「なにか居たか?!

 「…………!





 「あ゛ーっ! ゴキブリっ! いまゴキブリいたっ!

 「マジかよ。カルディアと見間違えたんじゃね?」

 「ヤメヤメヤメほら早く行こうぜ! オレホントゴキブリムリなんだよ!

 「女子かよ」


カンカンカンッ・・・




シロー「……行った、みたいだな……」

マシュ「み、見つかっちゃったかと思いました……」

イオナ『セキュリティ解除できたよ』

シロー「ああ、助かる」





シロー「しっかし今さらだけど……ホント、イリーガルだな」



ガ シャ ン ッ !



 「ふっ……ふっ……!



す た っ



リンさん「いい加減にしておけ。機材を持ちだして暴れるなど……曲がりなりにも違法行為、警察沙汰なんだぞ」

 「っ……

リンさん「気持ちは察せられるが……知っているだろう、誤魔化すにももみ消すにも限度がある。

 何より……」





リンさん「お前のやっていることは、ただの八つ当たりだ」

 「っ、なにを……!

リンさん「落ち着け、気持ちは察せられると言っただろう」





リンさん「……我々とて、そう気持ちが違えているわけではないんだ」

フリーズチャージ…………!

リンさん「責を背負い込む気持ちはわかる。だがこれは、君一人の責任ではない……わかってくれ」





リンさん「マスターが待ってる。帰るぞ」

フリーズチャージっ、……! ……はい……」





シロー「ヴィダ、調子良さそうだな」

ヴィダール「む、そう見えるか?」

マシュはい! すごくゆったりした動きでした!」

ヴィダール「……それは褒められているのか?」





リーファ「アームを力任せに振り回すなら誰にでもできますが、得物のリーチを正確に認識して四肢の挙動を動作させ、周囲の空間に対しミリ単位でその動きを制御する。

 さっきやってもらったゆったりした動きには、そういう意味があるんですよ」

アキヒロ「な、なるほ、ど……?」





リーファ「動作確認であると同時に空間認識でもあり、それらを実現する技量がないとできないことでもあるんです」

マシュ「わぁ、やっぱりすごい動きだったんですね!」

ヴィダール「む……」





ヴィダール「……そうなら、最初からそうだと言えばいいではないか」





リーファ「ふふ、てっきり気付いているものかと」

ヴィダール「む……無論、気付いてはいたがな」

シロー(気付かずやらされてたのか……まぁ、凄いのには違いないけど)





ヴィダール「調整に随分と時間がかかった気がするが……これで、これまで以上に闘える。頼りにするといい」

マシュはい!

シロー「ああ、頼もしいよ」

アキヒロ「…………!」





アキヒロ「負けねぇ……!」

ヴィダール「無論、こちらこそだ」

シロー「お、おいおい……」

マシュ「まぁまぁ……」

リーファ(オーバーホールをしても相も変わりませんね)





リーファ「それで、何か御用ですか?」

シロー「はいす。アイオワさんとクリスが呼んでるっす」

リーファ「となると……情報共有の会議ですか?」

シロー「みたいっすけど……」





シロー「今回は、全員でだそうっす」



ズ ッ ・ ・ ・




ヴィダール「…………」


ク ッ

す ぅ っ ・ ・ ・

ヴィダール「…………」



び た っ


リーファ「ふふ、上出来です」

ヴィダール「む……そうか……」





リーファ「仕上がりは上々のようですね」

ヴィダール「ああ、時間をかけた分にはな。

 ……しかし」





ヴィダール「準備運動にはなるかもしれんが……こんなことをして意味があるのか?」

リーファ「さぁ、そう言っている分には意味はないでしょうね」

ヴィダール「む……嫌味か?」

リーファ「準備運動になっているのでしたら、意味はあるでしょう?」

ヴィダール「む……」


ガシャッ




ヴィダール「確かにな」





シロー「ん゛っ、う゛~……」

マシュ「せ、先輩だいじょぶですか?」

シロー「ああまぁ、なんてーか……イマイチ疲れが抜けてないだけっぽい」





アキヒロ「4人そろって廊下に転がってたが、なにがあったんだ?」

シロー「……ぶっちゃけわからん。その辺の記憶がなんも思い出せん」

マシュ「花丸さんが足を掴まれて転んじゃったのは覚えてるんですけど、その後は……」





シロー「イオナもなにあったかわかんないって言ってたし、カメラも録画できてなかったし……」

マシュ「マリーさんも花丸さんも覚えてませんでしたし、何があったんでしょうか……」

アキヒロ「ま、まぁ、無事だったんならいいんだけどよ……」





シロー「それで、ヴィダとリーファさんは……」

アキヒロ「トレーニングルームにいるらしい」

マシュ行きましょう!






クリス「ふむ、見覚えがあるような気がすれば……やはり、な。

 情報提供感謝しよう」

ザックおう、力になれりゃなによりだ! 他に力になれることはあるか?

クリス「いぃや、今はこれで十分さ。なによりなにより」





ザック「なんなら、オレらでそっち行ってもいいんだぜ?」

クリスふむ、それは有り難いが……こちらの心配は無用さ。ニーズシティそちらに専念してくれたまえ

ザック「でも人手足りてるか? 何人か増えたって聞いたが、正直きちぃだろ」

クリスふむ、マンパワーはいくらあっても足りないというのが相場であるが……ま、今すぐには問題ないだろう





クリス「頼もしいヒーローたちもいるのでな」

ザックはっははは! そういやそうだったな!

クリス「だがしかし、必要であれば躊躇いなく救援を乞うとしよう。その時は力を貸してくれたまえよ?」

ザックはっはははは! おう! そんときゃ便利に使ってくれ!








アイオワHi! 何かわかった?」

クリス「ふむ、ようやく尻尾を掴んだと言うべきかな?

 確信に至ってはいないが……」






クリスギフトこれの出所がわかった。そこから根を引っ張れれば、源泉へとたどり着ける可能性もある」

アイオワWao! すごいじゃない! Congratulations!

クリス「精査のほうは任せるとしよう。ふむ、忙しくなってくるな」





アイオワ「……その割には、浮かない顔じゃない?」

クリス「ふむ……詳しくは後に話すが……」







クリス「なにせ、初めて見たわけではない技術が使われているようなのでな」





フォウ「フォーウ」

シロー「ん、マシュ……? いないな。千歌たちとどっか行ってんのか?」





フォウ「フォウフォウ」

シロー「ん? ……煮込み、てか豚汁か? 曜あたりが作ったのか?

 ……そういや、ちょっと小腹すいたな」





シロー「……まぁ、一口くらい味見してもいいだろ」

フォウ「ファー」



く っ





シロー「!?

フォウファッ!?





シロー(なっ、ん、え゛っ……おいコレ、なに入ってんだ……?!

 素材はふt、いやそうじゃない、えっ、ホントなに入ってんだコレ……!?)





シロー「……マシュが食うかもしれないし、コレそのままほっとくのも何だし……悪い気するけど、味整えとくか」

フォウ「フォウ!」

シロー「え~と、ベースは豚汁っぽい……よな? 味噌っぽい感じするから、とりあえず醤油とみりんに……あとヘンな匂いした気するから、ネギと生姜も加えて、と……」





マシュ「あっ、せ、先輩おかえりなさい!

シロー「ぅわっ!?

「へへ、どしたの大きな声出して」

シロー「い、いや……」





千歌わっ! キラパティのスイーツだ! おみやげおみやげ?!

鞠莉「それじゃぁ丁度いいわね。みんなで食べましょ♪」

シロー「あ、ああ……そう、だな」

「?」





 こうして、シローの手により調整、調味を加えられた料理は奇跡的に大好評を博し、

後に「シャイ煮」と名付けられ、大勢の人達に振る舞われることとなる。






 しかしその結果、大規模な悲劇を振りまく結果になるのだが……

それはまた、別の話……






シロー「ふ~……んー……」

フォウ「フォウ~」



・・・・・・・・・・・・・







イチカ「え? 『コトワリ様』?」

シロー「ああ。ここ最近浦女で流行った都市伝説らしいんだけど、知ってるか?」

イチカ「う~ん……聞いたことない、かな?」





イチカ「ひまりんとあおちゃんは知ってる?」

アオイ「ん~あたしは聞いたことないな。ゆかりさんかアキラさんなら知ってるかもしんないけど、ナンとかサマなんて話してたことないしなー」

ひまり「わたしもです。キラパティのお客さんが話してれば聞いたことあるかもですけど……」

シロー「そう、か……う~ん……」





イチカ「今度シローが来るまでに調べとこっか?」

シロー「いや、たぶんもう大丈夫だと思う。助かるよ」

アオイ「まだなんの役にも立ってねーって」

シロー「ははは、そんなことないって」





シロー「ならなんかお土産買ってくか。今日のお勧めは?」

ひまりはいっ! 今日はりすプリンとらいおんアイス、スワンシュークリームです!」

シロー「お、イオナが喜びそうだな。もらってくよ」

イチカうん! おいしく召し上がれ!



・・・・・・・・・・・・・







シロー(イチカ達が通ってんのは『いちご坂中学校』『いちご坂高校』。あとキラパティに来るまでに『秀尽学園』でも聞き込みしてきたけど……

 『コトワリ様』なんて話は聞かなかった)





シロー(つまり『コトワリ様』自体が、浦女……『浦の星女学院』の内部でのみ流布された噂話……ってことになる。

 まぁ、学校の噂話なんてそんなもんかもしれないけど……逆に、特定箇所だけで流布され外部へ漏れ出ない秘匿性のある噂話……ガクセイ特有の面白半分さを加味しても、拡散も信憑性も高い、か……)






シロー(てっきり、ギフトを使って騒ぎを起こす中で、あの赤い剣の実験をしているんだと思ったけど……

 そう、ではない……? もっと別の、目的があった? 噂話を流布して……?)





シロー「だとしたら、それって……なんなんだ?」

フォウ「フォウ?」