能楽キャラバン 田村 班女 西行桜 小鍛治 | 翡翠のブログ

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今日は、「能楽キャラバン!in 大垣」を観に大垣市民会館へ。通し券にすると4000円で4本のお能を観られるというすごい企画です。今年の舞台の2舞台目ですが、見た演目は一気に増えました。

 

【一部】
◆能 観世流「田村 替装束」
シテ 深野貴彦
ワキ 有松遼一
ワキツレ 岡充・原陸
アイ 鹿島俊裕
笛 山村友子
小鼓 船戸昭弘
大鼓 河村裕一郎
主後見 青木道喜
後見 梅田嘉宏
地頭 浦田保浩
地謡 越賀隆之・片山伸吾・田茂井廣道・宮本茂樹・河村浩太郎・樹下千慧・寺澤拓海

 

〇清水寺で僧が出会った少年は、坂上田村麿[田村丸]が清水寺を建立した謂れを語り、春の宵の桜を楽しむ。夜半、読経する僧の元に武者姿の田村麿の霊が現れ、観音様の加護の元、鈴鹿山の朝敵を討ちとったことを話すという話。

「田村」は今回初めて観ました。「箙」「八島/屋島」とともに、勝修羅三番のひとつとのことですが、屋島の義経が勝将でありながら、死後に修羅道に堕ちたことも語られるのに比べると、少し趣が違ってストレートな勇ましさでした。舞に勇ましい回転が多く、特に宙を飛びあがっての回転して着地する動きがあって、すごくかっこよかった。席もすごく良く、1列目だったので、柱に向かってシテが進んで来ると迫力でした。

今回、「替装束」という小書きだったのですが、、面が平太から天神に、法被が狩衣に、烏帽子が唐冠に、太刀が背中に背負った剣に変わり、日本的武将でなく帰化人の征夷大将軍を表す演出だそう。確かに、刀を背中に背負っていました。知らなくて、小さいころに刀好きの私は、仮面の忍者赤影の真似で、いつも背中に刀を差していて母に嫌がられたなあなんて思い出して観てました。

舞台が桜の季節の清水寺というのが良い。これまでに何度か清水寺には仕事のついでに行ったことがあり、桜の季節であったこともあります。舞台を観ながら清水寺が思い起こされましたし、次回、清水寺に行った時には逆に、能「田村」が思い起こされるかも。演目に由緒ある場所をめぐるとか、由緒ある場所で上演されるのを観るとかも楽しそうです。

 

◆能 観世流「班女 笹之伝」
シテ 浦田保親
ワキ 福王知登
ワキツレ 矢野昌平・村瀨慧
アイ 野村又三郎
笛 森田保美
小鼓 後藤嘉津幸
大鼓 河村眞之介
主後見 大江又三郎
後見 大江信行
地頭 河村和重
地謡 河村晴久・分林道治・味方團・河村和貴・大江広祐・谷弘之助・浅井風矢
狂言 和泉流「重喜」
シテ 野村又三郎
アド 野村信朗
後見 藤波徹

 

〇美濃国野上(今の岐阜県不破郡関ヶ原町野上)の宿の花子という遊女が吉田少将と約束を交わし扇を交換する。宴席に出ない花子は宿を追い出され、戻らぬ少将に裏切られたと思い哀しみ狂う。東国から戻った少将は花子が追い出されたことを知って落胆するが、偶然、都で花子に出会い、互いの扇を見て再会を喜ぶという話。

以前に一度観たことがあるのですが、そのときも、今回も、ちょっと私の鑑賞経験値が低く、まだまだ、三番もの、「鬘物」と呼ばれる美しい女性の舞は、美しいなあとは思うけれど、味わいきれず途中で眠くなってしまいます。ただ、登場する場面が岐阜の関ケ原や、行ったことのある京都の下鴨神社、糺の森であることは、これもまた想像力が働き良かった。今回、大垣での公演なので選んでくださったのかな。

 

【二部】
◆能 観世流「西行桜」
シテ 橋本擴三郎
ワキ 宝生欣哉
ワキツレ 則久英志・小林努・宝生尚哉
アイ 野村信朗
笛 竹市学
小鼓 林吉兵衛
大鼓 石井景之
太鼓 井上敬介
主後見 片山九郎右衛門
後見 橋本忠樹
地頭 井上裕久
地謡 吉田潔司・味方玄・浦部幸裕・鷲尾世志子・河村和晃・樹下千慧・寺澤拓海

 

〇都の西、西行の庵には桜が美しく咲くが、西行は静かに暮らしたく今年の花見を禁止とする。しかし都からわざわざ見に来た者たちを無下にできず、やむなく受け入れるが、「花見んと群れつつ人の来るのみぞ、あたら桜のとがにはありける」(桜の罪、桜のせい)と歌を詠む。すると西行の夢に、老木の桜の精が現れ、花には罪はないと訴え、春の夜の美しさを惜しみ舞を舞う。

こちらも、京都の桜、夜桜の美しさを謡う演目。1月なので、まだ桜の季節には早いとはいえ、季節の先取り。桜の季節になったら桜を、また夜桜を見て思い出しそうな、美しい桜がイメージされる曲でした。

「西行桜」も観るのは初めて。以前に読んだ藤沢周「世阿弥最後の花」で世阿弥が見つけた「老木の花」として「西行桜」が描かれていて、観てみたいと思っていた演目でした。

 

これもまた、「班女」同様、舞が美しいながらも動きは抑え目(なので、時々眠くなるのが申し訳ない)ですが、舞台に桜の花の作り物があり、中にはシテが隠れていて途中から登場すること、前半は花見に都から来た人たちが登場してにぎやかなのが、後半は桜の精と西行だけで静かにと展開が面白い。桜の精は衣装も控えめで、気品あるたたずまいでした。

 

◆能 観世流「小鍛冶 黒頭」
シテ 吉田篤史
ワキ 原大
ワキツレ 原陸
アイ 松田高義
笛 左鴻泰弘
小鼓 林大和
大鼓 井林久登
太鼓 加藤洋輝
主後見 橋本雅夫
後見 橋本光史
地頭 杉浦豊彦
地謡 古橋正邦・河村博重・松井美樹・松野浩行・大江泰正・谷弘之助・浅井風矢

 

〇夢のお告げを受けた一条天皇の勅命により、刀匠の三條小鍛冶宗近は剣を打つよう命じられるが、自分と同じくらいの腕を持つ相鎚を打つ者がいないことに困り、氏神の稲荷明神に参詣する。すると少年が現れ、中国の故事や日本武尊(やまとたけるのみこと)の物語を語り、刀を打つ準備をして待つよう伝え消える。宗近が帰宅し、準備をして礼拝していると稲荷明神のご神体が狐の精霊の姿で現れ相槌を務める。無事に剣が鍛え上がり、表には「小鍛冶宗近」、裏には「小狐」の銘が刻まれた名剣「小狐丸」が出来上がるという話。

「小鍛治」も今回初めて観ました。前から観たかった演目で、今回、一番楽しみな目的でもありました。

まず、稲荷大明神の心霊、つまり狐の使いというところ。ただ、お能なので、そこまでキツネキツネはしていませんでした。狂言だったら、キツネの衣装を着ていたりしそうなのですが。頭の上には銀の狐を戴く狐戴を付けるらしいのですが、今回はそれも無しだったし。今回、「黒頭」という小書き付きで、通常だと前半は黒頭の少年、後半は赤頭の装束なのが、「黒頭」は前半は神秘的な少年となって稲穂を持ち、後半は黒頭になって内在する力の強さを表し「働」も変化に富むなど演出が変わるのだそう。

稲荷の境内で少年が語る話では、ヤマトタケルの草薙剣の場面が語られ。元々、熱田神宮に関係の深い「草薙」の演目は、刀が登場することもあって大好きな演目。夜討曽我のような打ち合いはないですが刀を振っているなあと。今回は、境内での少年は稲穂を刀の代わりにして物語っているのですが、でも「草薙」の演目を思い出して楽しかったです。

刀鍛冶の場面では、舞台上に一畳台が登場して、かな床、刀身、槌などが置かれるし、宗近と稲荷明神が刀を打ち合うところが、動きがあって楽しい。この場面、本当は京都が舞台のようですが、以前に関市に刀鍛冶を観にいったことがあって、火花の散る素晴らしく美しい様子だったので、今回もそれを想像しながら観ました。

さらに最後に打ち上がった刀を持って明神が舞う場面は、草薙のようなゆっくりな舞ではなく、速いスピード感ある舞でカッコよく、見ごたえある素晴らしく面白く楽しい演目でした。

 

4本の演目が、勇ましかったり、優雅だったり、美しかったり、それぞれバラエティあって、贅沢なエンターテインメントという感じでした。それなのにお値段はお得で、本当にありがたい嬉しい企画でした。