「らんたん」柚木麻子著
だいぶ前に新聞の書評で見て、すぐに図書館で予約したのに、待ち人数100番以上で!
読めたのは半年後…。
結構分厚いんですが面白くて、読み終わるのは早かった。
…と言うところまで書いて、放置していたら年越ししてしまったよ
恵泉女学園の創立者である河井道の生涯を、恵泉女学園中高の卒業生・柚木麻子さんが小説にしたもの。
伊勢神官の娘に生まれた道が、英語教育を通じてキリスト教に惹かれていく。
明治期の女というものの置かれた立場。
教育者だったり、作家や政治家、財界人だったりの思惑、思想、理想に啓発され、反発し。
また世間の「こういう人はこうあるべき」という息苦しいほどの先入観や因習と戦い、足掻きながら学園を創設していく物語。
河井道の類まれなる志の強さとか、社交性、何かをするのに人を巻き込んで成し遂げていく能力と熱量に圧倒されます。
また、綺羅星の如く明治のスター級の人物が登場するのもお楽しみ。
伊勢宮司の娘だった彼女が北海道へ家族で移り住み、紆余曲折あって津田梅子のもとで英語を学び、新戸部稲造の庇護を受けアメリカへ。
その途中で出会うのは有島武郎。
大川捨松を通じ、自由にならない上流女性の生き方に思いを馳せ。
徳冨蘆花の「不如帰」での女性の描かれ方に憤慨する。(この辺が後々の村岡花子の、女性や子どものための文学の伏線に)
留学先で野口英世と共に学んだり、帰国後学園開設での資金繰りに飛び回ってまわっている時には、広岡浅子も登場✨(「あさが来た」ですよ!)
英語塾の同窓などで、伊藤野枝、波多野秋子他女性活動家たちが出てくるかと思えば…
YWCA(当時からあったんだ)の会を通じて、村岡花子、白蓮まで出て来て。
白蓮は最後は恵泉で和歌まで教えちゃう。。
朝ドラ好きとしては、こうした人間模様も読んでいて非常に楽しかった。
むしろ、このまま朝ドラの原作にできないかしら
一貫して描かれるのは、
人が、個人が性別・生まれのしがらみに縛られず自分らしくあることを追い求める姿。
旧弊な因習(時に武士道や家父長制度)に縛られた当時の日本に対して、
1人の女の子がもっと自由に息のできる思想としてキリスト教の光に惹かれ、理想の王国=学園を作ろうとする物語と言い換えてもいいんじゃないかと。
キリスト教個人主義というものがどういうものかをするすると平易に解きほぐして、ダイジェストで、、説明された気がする。
て、本当にキリスト教主義と当時の日本の比較文化論なんてぶてるような勉強はしてないんですが…
今の世の中にもつながる、いまだに残る差別意識にも共感するところが多々ありました。
戦時中、さすがの河井道も体制に負けそうで、戦争協力しないようになんとか耐えようとするんですが、結局軍に協力的な動きをしてしまって悩むところがあります。
するとね、死んだ有島武郎(の姿を借りた、彼女自身の良心?)が、彼女に真理を迫ってくるんですよね。
矛盾があるぞ、お前の理想など脆いものだと。
主人公が絶対正義ではない(苦しい言い訳して葛藤があった)のも、良かったと思います。
色んな情報に圧倒されて読み切ってしまって、気づいたら終わってしまっていた感はありましたが
作者の柚木さんはこの学園がとてもとても好きなんだと思う。
ほぼ私と同年代の方なので、創立者と実際に会っていなくとも、学園のスピリットは(らんたんの明かりのように)教え子たちにしっかり息づいているんだろうな、と思った次第です。
読了と相前後して恵泉デーにお邪魔しました。
きな子が見学している間、個別相談へ。
お相手をしてくださった先生に「らんたん」を読んだお話をしたら
「柚木さんも今日来校してますよ」
と仰っていました。
お見かけできたらよかったのに⇦ミーハー
※注)個別相談は真面目にしていただきました。
小説を読んだ後に、実際にその舞台になった場所に来てみると、(今の校舎と当時の校舎はもちろん全然違うのでしょうが)
戦中戦後、この敷地でどんなふうに主人公たちが過ごしていたのかな、と思うと感慨深かったです。
他の学校でもこういった本があればいいのにな。
探すとあるかしら。
「ミカドの淑女」はちょっと違う