9月30日
永井荷風は江戸情緒の残る場所を、つげ義春は忘れ去られたような侘しい場所を、江戸川乱歩は風俗の最前線からキワモノに至るまで、モダニズムと土俗がごっちゃ混ぜのオモチャ箱的様相を呈していた浅草を好んで散歩しました。
三者三様、散歩の嗜好はそれぞれです。
しかし、彼らの散歩は、きっと、風景を楽しむだけのものではなかったのでしょう。
この三人は皆、各々の散歩の途中で、何かしらおもしろいもの、興味をそそるものなど、気になるものを見つけたり思いつくと、それを膨らませて、自分を喜ばす見世物をつくっていたのではないだろうか。
もしくは、散歩に出る前から既に題材は仕込まれていたのかもしれない。
散歩というのは、三人にとっては楽しい創作の場でもあったんだろうと僕は思うのです。
例えば乱歩の場合、
乱歩の作品にはグロテスクな殺人現場がよく出てきますが、乱歩は現実の事件現場を見ると嘔吐をもよおすほど気分が悪くなると言ってます。作り物の無惨絵は好きだけれど、本当の血には興味がないのです。
また、物知りで話の上手い人から事実談を聞いても、おもしろいと思ったことが一度も無いとも。
自身を「救い難き架空の国の住人」と称しているように、乱歩は現実に興味が無く、フィクションを生きたのです。先回のブログで「押絵と旅する男」を紹介させていただいた折に、「私はもしかしたら日常の中で別の世界を隙見したのかもしれない」という文章を載せましたが、僕はこの一文こそ、乱歩を象徴しているように思います。
猥雑な浅草を歩きながら、その空間に裂け目をつくり、想像力でもって、フィクションの世界に入っていく。
つまり、自分の脳と町の間に対応関係を作り、それをもう一度加工することによって自分にとっておもしろい世界をつくりあげたのではないか。
現代のデジタルな高度資本主義の街は、もはや人間の顔をしていないように思えます。
そんな街を見て、「もっと間の抜けた感じがいいんだけどな」と思うんですが、これは決して批判ではなくて、却下されるべき少数民族である僕の個人的な願望にすぎません。
でも、まだまだそんな僕にとってもおもしろいところは残ってます。
今だ微かに残るそんな場所を求めて歩くのも楽しいんですが、しかし、実はそれ以外にも散歩の楽しみ方はいろいろとございます。
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30s ホースハイドカーコート
9月27日
江戸川乱歩の作品で評価が高いのは短編です。
「D坂の殺人事件」や「屋根裏の散歩者」などの代表作と呼ばれているものもやはり短編です。
短編のおさまった本を二冊ほど手に入れると、乱歩の代表作はほぼ網羅出来ます。
愛読書というのは、ストーリーはもちろん分かってますので、適当にちょっとだけ拾い読みしては、雰囲気を楽しみます。
乱歩の作品は幻想小説と捉えられることも多いですが、その中で一番の傑作は?と聞かれたら、僕は「押絵と旅する男」をあげたい。
ご存知の方も多いと思いますが、以下に、かなりはしょってはおりますが、おおよそのあらすじをご紹介します。
それは、私が魚津に蜃気楼を見に行った帰りの夜汽車の中で、同じ車両にたった二人っきり居合わせた西洋の魔術師のような外見をした、妖しげな老人から聞いた不思議な話です。
しかし、その話を親しい知人にしても、「そもそも、お前は魚津へなんか行ったことないじゃないか」と言われるのだ。そう言われると、自分でも確かに魚津に行ったという確信が持てない。
もしかすると私は日常の中で別の世界を隙見したのかもしれない。
その老人は、押絵の入った額縁の表側を汽車の窓に向けて立て掛けていた。
それを離れたところから見ていた私は、老人の風貌といい、その光景が気になり、どうしてか老人の前に移動し、腰をおろした。
すると老人は、さも、私を待っていたかのように押絵を見せて、「あなたはこの二人のほんとの身の上話を聞きたいのではありませんか」と言った。
その額縁には持ち主そっくりの白髪の老人と、その老人の膝にしなだれ掛かる若くて美しい娘の押絵が入っていた。
私の兄の様子がおかしくなったのは、彼が二十五歳の時でした。仕事もせず、毎日ふらりとどこかへ出かけていっては、帰って来て、飯も食わず、家族と話もせず、部屋にこもって物思いに耽ることが続きました。心配した両親は、兄がどこへ出かけるのか、つけて行ってくれないかと私に頼みました。それで私は気付かれないように兄について行きますと、兄は浅草の凌雲閣の最上階に登り、そこで一生懸命双眼鏡を覗いているのです。不思議に思った私は一体何してるのかと聞きました。すると兄は躊躇しながらも、実は娘を探しているのだと答えました。兄は以前、凌雲閣から双眼鏡で見かけた娘に恋をしてしまい、それ以来というもの何も手がつかないのだといって双眼鏡を覗き続けるのです。
しばらくすると、突然兄が「あっ」と声を発しました。
「さあ行こう!娘を見つけたのだ」
兄はのぞきからくり屋の前に来て、のぞきの眼鏡を覗きました。
「この中にいるよ」
それは八百屋お七ののぞきからくりだったのです。つまり、私の兄は押絵のお七に恋をしたのです。
その場にいつまでも立ちすくんでいる兄を「恋をしたといっても、相手は押絵なのだから仕方ないではないか」とさとしても、「あきらめられない、娘と話がしたい」といつまでもそこを離れないのです。
すると、兄は「良いことを思いついた、これを逆さまにして僕を見ておくれ」と、双眼鏡を私に手渡しました。
その頼み方があまりにも執拗なので、仕方なく言われた通り覗き込むと、兄の姿が小さく闇の中に浮かび上がります。しかし、次の瞬間、その姿が闇の中に溶け込んだ。兄は消えてしまいました。
驚いた私はメガネを外し、兄が消えた方に走り出しましたが兄の姿はない。
兄はそれっきりこの世から姿を消してしまったのです。
探し疲れて、からくり屋の前に戻った私は、最後の慰みにと、からくりの眼鏡を覗かせてもらいました。
すると、その中で兄が嬉しそうな顔でお七を抱きしめていたのです。
兄は双眼鏡のレンズのからくりを用いて押し絵の娘の大きさにカラダを縮め、押絵の中に忍び込んだのか?
のぞき屋にいくらでも金を出すからこの絵を譲ってくれと約束して、私は家に帰り、一部始終を両親に伝えました。しかし、両親は私の話を全く信じませんでした。その後も兄は家に帰って来ず、両親は家出をしたのだと言いましたが、私は母に無理矢理お金をねだって、この絵を手に入れたのです。
悲しいことにつくりものの娘は歳を取らないが、人間の兄は歳をとり、寿命もあるのです。あれから数十年、可哀想に、二十五歳の美少年はこのようにすっかり白髪の老人になってしまいました。
今日はこの兄と一緒に旅をしているのですよと老人は言った。
老人は次の停車駅で降りた。
窓から老人を見送ると、その後ろ姿は、押し絵の老人そのものの姿で闇の中へ消えていった。
押絵になる為にレンズのカラクリを用いた発想もさることながら、乱歩は3つの謎でストーリー自体もからくり仕立てにしています。
不思議な身の上話、押絵の老人と持ち主の老人がそっくりであること、そして、実は私が魚津になど行ったことがないかもしれぬという謎。
この作品はストーリーもさることながら、情景描写がとにかく秀逸なので、何度読んでも飽きないです。
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60年代の無地スウェットですが、おそらくアクリル素材ではないかと思います。
着心地が柔らかく暖かいです。
それと、画像では茶の単色に見えますが、よく見ると杢になってます。
分かりずらいかもしれませんが、茶と緑の杢になってます。
四本針のラグランスリーブです。
リブ
地味に見えるアイテムですが意外と珍しいんじゃないかと思います。
色も秋らしいです。
size S〜M 9800円+tax
9月24日
高校生くらいになると、周りのちょっとませた奴が夢野久作の「ドグラマグラ」をおもしろいと言って読み出すので、僕なんかもつられて本屋に行って買ってきて何度か読もうとするんですが、その度に、せいぜい最初の10ページか20ページぐらいで放り投げてしまいます。
どうも肌に合わないのか、読むのが苦痛になるのです。
それで、当時、俺は相変わらず、江戸川乱歩の方がずっといいやなんて思っていたのかな?
しかし、日本の三大奇書と謳われる「ドグラマグラ」を読んでもいないのに、つまらないとバッサリ切り捨てるのはいかがなものかと思いつつ、数年前にやっと、我慢に我慢を重ねて2年がかりで読破しました。が、結果はやはりつまらなかった。
あまり読んだことないんですけど夢野久作の作品の舞台は陰々滅々とした九州の炭鉱町のような田舎が多い印象です。それ対して、江戸川乱歩の舞台は浅草などのいわゆる都会が多く、雰囲気もカラッとしています。
どちらの作品にも頭のいかれた奴が登場して、そいつらがいかれたことをしでかすわけなんですけど、夢野久作の場合、そいつらは田舎の暗闇の中でうなだれているというイメージ、かたや、江戸川乱歩の場合は都会の闇の中で声をたてて笑っているというのが僕のイメージで対照的です。
つまり僕にとって、夢野久作は陰、江戸川乱歩は陽です。
江戸川乱歩の作品のタイトルには写真にある蜘蛛男を始め、恐怖王、陰獣、地獄の道化師、黒蜥蜴、人間豹、吸血鬼、黄金仮面など、都会に生息する魔物が多く登場します。乱歩さんの場合、エロやグロがちょっと過ぎる場合もありますが、先ず、この魔物が僕の好物です。長編も多いですが、ストーリー展開のテンポが良いので、意外に退屈せず読み続けることが出来ます。それと情景描写が秀逸な為、都会の町を徘徊してる気分になれますので、僕としては散歩小説としても楽しめます。
さらに乱歩お得意の見せ物小屋、ちんどん屋、サーカス小屋、手品師、道化師、鏡やレンズを使ったからくり、変装など、僕好みのものが作品を盛り上げてくれます。
ただひとつ、個人的に残念なのは、乱歩には笑いが無いこと。だけど、もし、乱歩に笑いがあったとしたら、こんなに著名な作家にはなってなかったかもしれません。笑える小説を書く有名な作家って不思議といませんからね。
そんなことで乱歩とのお付き合いは長くて、今だに、時々、夜の町で乱歩ごっこに興じたりしてます。
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60年代のコットン製ボックスシャツです。
普通のシャツで、特筆するディテールはございませんが、つくり、使い勝手良いです。
ボックスタイプですので着やすく、比較的薄手で、これからの季節にも重宝します。
size M 12800円+tax
9月22日
江戸川乱歩との出会いは幼少の頃に見た紙芝居、怪人二十面相に遡ります。
珍しい宝石や骨董品を狙う盗賊、怪人二十面相と、明智小五郎のもと、小林よしお率いる少年探偵団が闘う物語です。他のヒーローものにない独特のおどろおどろしさに惹かれたものでした。
乱歩の口上にもあるように二十面相は血が嫌いだから人を殺さないとはいうものの、所詮盗賊という悪者なのだから、いざとなれば何をするかわからない。皆んなにはそのように恐れられてました。
しかし、そもそも、僕には紙芝居屋の男自体が怪しかった。大人からは気味悪がられ、子供からは金を巻き上げるこの男こそ、実は怪人二十面相じゃないのかと当時の僕は疑ったものだ。
夕暮れ、ひとり、家に急ぐ薄暗い道で、二十面相が出るかもしれないという恐れと期待、ゆめとうつつが交差した。
しかし、当時の紙芝居の内容など全く覚えていないんですよね。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん、わしの孫のジャックと遊んでくれないかね」
公園のベンチで小さな子供を膝に乗せた老人が、学校帰りの少女に話しかける。
「お母さんが待ってるから早く家に帰らないといけないの」
「キャッハハハハ!僕の名前はジャック、おねいちゃん、仲良く遊ぼうよ!」
「まあ、かわゆい。…じゃあ、少しだけね」
と、少女、さなえはジャックと遊びだす。が、その途中でジャックが人間ではなく、人形であることに気付いた。
「わしは人形師なのだよ。人間を人形にすることも出来るのだ。お嬢ちゃんも人形にしてあげようか」
と老人が答えた。
「やあよ、あたち」
「わしの家には人形が他にもいっぱいいるのだよ。綺麗なおねいさん人形もいるよ。近くだから遊びに来ないかね」と、老人は無理矢理少女を車に乗せて連れ去る。
連れてこられた人形の館で仲良くなった綺麗なおねいさん人形のべに子は、「十八歳の美しさを永遠のものにするために、私は自ら、人間から人形になることを選んだのよ」と少女に言う。
その頃、少女の家では、娘が人さらいにあったと大騒ぎであった。
そこへ運送業者が荷物の配達に来た。
棺桶に入れられた少女さなえが、人形の館から送り返されて来たのだ。しかし、よく見るとそれは、さなえそっくりの人形だった。
戸惑った父親は私立探偵の明智小五郎に相談に行くが、その最中に、あら、不思議。家では人形のさなえが人間のさなえに戻っていた。
しかし、これは、これから起こる恐ろしい事件の形而上学的な予兆に過ぎなかった。
数日後、少女さなえの家を人形売りの男が訪れ、
「この美しい人形は、たったの一万円ですよ」、お買い得だから買わないかと母親に迫る。
その人形を見た少女は「誕生日のプレゼントもクリスマスのプレゼントも要らないからこの人形を買って欲しい」と母親にせがむ。
その人形は少女が人形の館で仲良くなった綺麗なおねいさん人形、べに子であった。
しかし、べに子は宝石商を営む父親が大事に家の金庫に保管していた家宝の王冠を盗んで逃走する。
そしていよいよ、明智の指示のもと、少年探偵団が動き出す。
運送業者を通して、人形の館のある場所を突きとめた少女探偵まゆみは館に忍び込む。が、無数の人形に囲まれ、あっさりと悪魔人形ジャックに捕まる。
「放しやがれ!バケモノ」と、必死に抵抗する少女探偵まゆみを抱え、ジャックは暗い廊下を走り出す。
「滅多にお目にかかれねえ生娘をそうやすやす手放せるかよ。どうれ、とりあえず寝床まで運んでいくか。見た目より肉付きがいいな、ねえちゃん!けっこう、けっこう、ガリガリよりはずっといいや。なあに、とって食うわけじゃねえや、実はとって食いたいんだけどよ、キャッハハハハ!」
すると、そのジャックの前に巨大な道化師の人形が立ちはだかる。
「その女は俺のもんだ!よこせ!」
と、まゆみの取り合いでふたりの争いが始まる。
まゆみは、その争いを呆然と見る。
が、どちらが勝とうが少女探偵は絶体絶命!
道化師がジャックの両腕をもぎ取った。
「ケツの青いガキがシャシャリ出て来る幕じゃねえ!ザマみろ、これでテメエは、女のケツも撫でられねえだろう!」
道化師は少女探偵の方を振り返り、近づいて来る。
「俺と一緒に踊ろうぜ、ねいちゃん!お前は踊りが好きか?それとも金か?」
「ケッケッケェー!」
さあ、少女探偵まゆみの運命やいかに。
と、まあ、こんなことを考えつつ、今日も私は夜道を歩いているのですが、
夜の散歩には絶好の季節になって参りましたネ。
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60年代、ランタグ搭載のビンテージスウェットです。
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目立つダメージも無く、サイズも良いです。
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9月19日
隠すつもりもなく、知りたがる人もいませんが、評判の悪い古着屋の男というのは世を偲ぶ姿で、我々の裏の顔はボランティアです。
今日は御年九十歳になられるKさんのお宅に伺いました。
作業を終え、ひと段落すると、昨日までに比べるとやけに涼しいことに気付きました。
もしや、秋の訪れか?
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このシーズンに大変良いアイテムです。
個人的に大好きなアイテムで、コーナーまで作ってるんですが、ほぼ売れてません。
飾りっ気も一切無く、何でもなさげですが、そこが良く、でも、意外と希少です。
その中で特にお気に入りのこの一枚は、色褪せと薄汚れがあり良いアジを出してます。
いろいろございます。
気になる方、宜しくお願いします。




















