起きたら知らないおっさんが横に | 注文の多い蕎麦店

注文の多い蕎麦店

人間は何を食べて命を繋いできたのか?
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人間本来の生活を取り戻します。


先日のある寒い夜。
営業を終えて賄いも食べ終わってつい薪ストーブの前でうつらうつらしてたら。
誰かに呼ばれた気がしてハッと起き上がったらですね。
店の中に知らないおっさんが立ってるじゃないですか!

一瞬え?!って思って夢なのか現実なのかもわからないまま寝ぼけ眼で咄嗟に箸を掴んで
その知らないおっさんに突進していったんですね。
そしたらそのおっさんが。

すんませんタクシー呼んでください

って言うんですよ。
また僕はえ?!ってなってふと壁時計を見てみるとPM10時15分。
ようやくこの辺りから正気が戻ってきて。

今からタクシーて・・・どこも来てくれへんで。

そうここJRバスの終点地周山の待機タクシーは夕方の7時頃には引き上げてしまうので。
夜遅くに周山のバスターミナルに辿り着いた足の無い人はどうにも動きようがなく

唯一明かりが点いてるうちの店が最後の駆け込み寺みたいになってるんですね。
それにしてもこのおっちゃん・・・

何か言動も目つきも怪しいぞ。

酔っぱらってるのかポン中かいずれにしてもまともなおっさんやないな。


おっちゃん今からどこ行くんや?

と聞くと美山だと言うのでさすがに今から美山はきついな。
美山のどこ?って突っ込んだら墓穴掘りそうだし・・・
いっそのことMK呼んだろか(MKタクシーは銭次第でどんな僻地でも来てくれる)
とも思ったのですがMKが来るまで1時間近くじじいの相手するのも面倒だしな。
と逡巡してたらすかさずじじいが。

ああこの寒空に放り出されたら僕凍え死んじゃうかもしれんわ

なんて猿芝居を打ち出すもんだからもう半ば自棄気味に。

ええよおっちゃん送ったるわ!
 

って言ったらね。

いやそれはあかん。

いや絶対にあかんで。
お兄さんもしかしたらもう気づいたはるかもしれんけど実は僕・・・

 

お金ないんです

ってハナから送ってもらう気満々やったんやないけ!
結局美山の某所まで車で30分。

走ってる間。

 

いやあ凄いいい車ですね。

いやあお兄さんかっこいいですね。

いやあこんな素敵な人が世の中にはいるんですね。

 

っておっさんの猿よいしょ攻撃に辟易しながら。
さすがにおっちゃんも後ろめたさが募ったのか。
せめてガソリン代でも。
と財布の中からなけなしの千円札を。

いやおっちゃんほんまもうええて。
また今度食べに来てくれたらええから。

 

と言うと。

ははんこいつはほんまに金受けとる気ないんやな。と見透かしたのか。
今度は財布から一万円札を抜き出して(おまえお金持っとるやないか)

いやそれはあかん。
こんな義理受けて何もなしでは今生の恥になる!

 

とまた猿芝居打ちやがるもんだから。
ほんまに一万円札ふんだくったろかな?
とも思いましたが鄭重に断ると。
こんなんいただきました。


 

それにしてもあのおっさんただ酔っぱらってただけだと思うんですが
おっちゃんの言動と目付きが最初から最後まで怪しかったので。

(美山までと言ってたのに途中から日本海行きたいとか言い出すし)

もしかしたらこいつ途中で襲ってくるかもしれんという疑惑が頭から抜けず
僕無意識のうちに・・・

店からずっと箸握りしめて運転してました。

その箸でいったい何ができるねん必殺仕事人か照れ