声は聞こえなくとも心は届く2 | 注文の多い蕎麦店

注文の多い蕎麦店

人間は何を食べて命を繋いできたのか?
純粋に生きるための料理を実践し
自然に回帰することで
人間本来の生活を取り戻します。

まあ時代の流れといいましょうか。
ある程度の年代に達するとね。
何かこう人から外れた道を歩きたい。
世間から落ちこぼれたような生き方をしたい。

なんてことがかっこいいと思えるような季節がありまして。
僕だけでしょうか(汗)

彼とはいろんな悪巧みを試みたんですけど。
ある時ですね。
どうしてもバイクに乗りたくてですね。
当時は結構簡単に直結できるマシンもありまして。

暗くなるのを待って駅前のデパート。
駐輪場を物色。
あるわあるわ。直結可能な走る自転車。
たった5分です。
今思えばわざとそんな簡単な仕組みにしてたんでしょうね。
それだけ人間の良心は信用されてたと。

もちろんヘルメットなんていらない。
交通規則なんてクソ食らえ。

盗んだバイクで走り出す。

ただそのフレーズ。
その感慨に耽るだけの行為。
僕はね。

彼は違いました。
行きたいとこがあるねん。

え?どこ??

向かった先は徒歩でも行ける近さの
中華屋さん。

何や。腹へってんのか?

違う違う。

と。いきなりアクセルを吹かし出す彼。
ぱふううぅぅん。ぱふふふぅぅぅん。

主婦層向けの原動機付バイク。
空疎なマフラー音が乾いた路地に響き渡る。

ぱふふふぅぅん。ぱふぱふぱふふううぅん。

やめとけよ。
恥ずかしいやんけ。

彼はいたって真剣な眼差し。
見つめる先は中華屋の店内。

実はこの店にはね。
1年上の女の子がバイトに入ってまして。
彼とちょくちょく食べに行ってたんです。
500円玉握り締めて。
天津飯(笑)

知りませんでした。
彼の想いがそんなに強かったとは・・・

で。ちょっとでもかっこいい姿を見せ付けたい。
俺はバイクにだって乗れるんだぞ。
主婦専用のオンボロ原付ですけど(苦笑)

続く。