声は聞こえなくとも心は届く | 注文の多い蕎麦店

注文の多い蕎麦店

人間は何を食べて命を繋いできたのか?
純粋に生きるための料理を実践し
自然に回帰することで
人間本来の生活を取り戻します。

パンチパーマでリーゼント。
短ランにボンタン、鋭い目つき。

新しい転校生。
確か中学2年のときだったでしょうか。

地方からやってきた刃のような少年。
その風貌と蹲踞とした態度に周りは戦々恐々。

恐る恐る。
どっから来たん?

・・・

どこに引っ越して来たん?

・・・

無言のままじっと見つめるその瞳。
綺麗な目でした。
その尖った風貌に似合わない澄んだ瞳。

ふいに微笑む彼。
予想だにしない反応に慌てる僕。

僕耳聞こえへんねん。

はにかんだ笑顔でそう応える彼。

え?・・・
思わぬ展開です。

実際のところ。
彼。完全に聞こえないわけではなかったんですけど。
補聴器さえつければ微かに聞こえる程度の難聴。

ただいかんせん思春期真っ盛り。
くだらないプライドは
彼から補聴器を遠ざけ。
たとえ聞こえなくとも皆と変わらぬ姿でありたい。

もともと僕も口数の多いほうではなく。
無理に話しかける必要のない彼との空間。
居心地の良さに甘え
彼と一緒の時間が自然と増えることに。

後でわかったんですけど。
彼のパンチパーマは実は天然。
まああの目つきなら完全に養殖と間違います(笑)

そんな彼には大きな武器が。
100m11秒台。
地方の公立中学に似合わない快速ランナー。

もちろん地元陸上界の注目は半端ないもので。
とにかく彼の素行には厳しい視線が集まることに。
なんせトップアスリート。
スターの原石です。

悪い蝿が群がらないように。
間違っても道を踏み外さないように。
そういう意味から言うと
彼の相手にとって僕は適役だったわけで(笑)

とはいってもやはり根はやんちゃ世代。
彼とはいろんな非道を繰り返しました。

忘れもしません。
あの夜のこと。

続く。