歩く速さで見えるもの | 東四ヶ一の庄

東四ヶ一の庄

実家を離れて40数年。もう帰ることはないだろうと
思っていたこのまちに戻ってきました。
「東四ヶ一の庄」とは、私の愛読書『ホビットの冒険』
『指輪物語』の主人公の家があるところです。

私は普通自動車の免許を持っていない。(中型2輪の免許ならある)

今時、車の免許がないというのは希少な部類かもしれない。(希少なだけで価値はない)

 

幸い歩くのは好きだから、歩けるところにはできるだけ歩いて行きたい。自分の足で歩いていると、考え事もできる。(人間は考える足だというし)

 

歩いていると、見つかるものがある。

タチツボスミレ。品のいい淡い紫。

 

東日本大震災の直後、常磐線が運行停止になった。地震や津波の被害もあったけれど、福島の原発事故で人が立ち入れないところもあった。私は茨城県北部に住んでいた。

通勤のためには3駅分をバスに乗るしかなかった。最寄駅から直接勤務先まで行けるバスはなく、ひとつ先の駅まで行って乗り換えなくてはならなかった。そのひと駅先まで行くバスがすさまじく混んでいた。

 

なので、ひと駅歩くことにした。電車の走行距離だと4.9㎞だけれど、線路ではなく道を歩かなくてはならないからもう少し長かっただろう。雨でないときは自転車を使った。(原発事故の放射能が雨と一緒に落ちて来るから雨には濡れないようにせよ、と言われた)

夜の帰り道は時々わびしい気持になったけれど、ひと駅歩くのは案外慣れるものだった。

 

震災前までは、ちょうど駅と駅の中間あたりの、あるバス停にいつも白い犬がいた。「バス停犬」と名付けて(本名はセバスチャンとかジョージ2世とか、何か立派な名前だったかもしれない)姿が見えるとなんとなく嬉しかったものだ。

大きな白い(ちょっと汚れていた)犬で、バス停の横にきちんと座っていたり、時には寝ていたりした。バスを待つ人たちも、犬を含めてバス停だと思っているかのように、普通の顔で犬と一緒に並んでいた。

あのころ私はそのバス停の近くに来ると、いつも白い犬を探した。

 

バス停犬は、震災後いなくなった。

 

一人歩きをする犬そのものを今は見かけないけれど、車が通り過ぎる道路にもいろいろな生き物がいて、いろいろな草があり、花が咲いている。

 

あるとき、歩道の真ん中で交尾しているカナヘビを見た。(場所をわきまえないカナヘビだ)めったに見られるものではないと、しゃがんでじっくり観察した。単独行動中のカナヘビなら、そんなに近づいたら逃げてしまうのだろうけれど、場合が場合なだけに逃げなかった。そのうち、どうなっているのか気になって、近くに落ちていた棒でひっくり返してみた。

とたんに、2匹は離れて別々の方向へ走り去った。(これは本当に悪いことをした)

 

道でなくても、歩けるところは歩く。

狭い水路の両側に十分歩ける幅があり、こういうところを見ると歩きたくなってしまう。

左の塀の角に、猫のシルエットが見える。

 

近づいてみると、ダークサイドの黒猫。

これ以上近づいたら溝の中に逃げるぞ、という体勢。

 

水路は狭い川につながり、そこにコサギがいた。

水上と水面と、鏡のコサギ。

 

家に帰って、たまたま庭の方にまわった。

ほったらかしにしていた庭に、星のようにハナニラが咲いていた。