迷子になる | 東四ヶ一の庄

東四ヶ一の庄

実家を離れて40数年。もう帰ることはないだろうと
思っていたこのまちに戻ってきました。
「東四ヶ一の庄」とは、私の愛読書『ホビットの冒険』
『指輪物語』の主人公の家があるところです。

天気がいいので歩きに出かけた。(やらなきゃいけないことはたくさんあるのに)

 

子どものころから歩くのが好きだった。歩いていて知らない道を見つけるとついそっちに曲がってしまい、学校から帰るのにえらい時間がかかって怒られたりもした。

こんな話を人にしたとき「糸の切れた風船みたいだって言われてたでしょう」と言われた。

いいえ、私は糸の切れた風船なんて言われたことはありません。

きっぱりと否定した。(「梨のつぶて」とか「鉄砲玉」と言われたことならある)

 

あちこちの角を曲がり、学校のグラウンドらしきものの横に出た。ああ、これはあの小学校だな、と思ったら、工業高校のグラウンドだった。

 

えっ。

 

するとここは、思っていたより遠くて、思っていた方角とは違うのではないか。この道はあの道の続きだと思っていたのが、もしかしたら全然違う道だったのだ。

しかし、全ての道はどこかに通ず。

軌道を修正し(正しいような気がする方向に)歩いて行くと、やはり心をそそる小道があって、ついそっちに曲がってしまう。まあ、概ね方角が合っていればいいだろう。

 

狭い道で犬に吠えられたりなどしながら歩いて行くと、ふと富士山が見えた。

富士山に向かって歩いていけば家にもどれる。

とすると、この道は車線が減って細くなったあの道だったのか。

 

このあたりの子は、人に道を教えるとき左右ではなく東西南北を使うと聞いたことがある。

「あの角を南に曲がって、二つ目の信号を東へ……」という感じ。たしかに、同級生でそういう子がいた。これは全て、富士山が北の方向にゆるぎなく聳えているからではないか、と思った。私は東西南北派ではない。右へ、と言いながら左手を出していたりすることもある。

 

道端にスズメノエンドウがあった。写真を撮っていたら、歩いてきたおばあさんが「これはまったくやっかいで、横からどんどん根が出て」と言うので、これはカラスより小さいからスズメノエンドウといってと言いかけると「ほんとに雑草は困ったもんだ」「そうそう。困ったもんだ」と、いつのまにか出現したもうひとりのおばあさんと意気投合して去って行った。

 

引っ越す前の土地で、私は自然観察のグループに参加させてもらっていた。歩く鳥類図鑑、生きた植物図鑑のような人たちの中で、私は「これなんですか」「これ食べられますか」と、聞いてばかりいた。とても楽しかった。

私は雑草が好きなのだ。

 

スズメノエンドウの横にスーパーマーケットがあり(だからこそ昼前におばあさんたちが歩いていたのだ)初めて知ったそのスーパーで昼食用のパンを買って無事家に帰った。

迷子になるのは嫌いではない。

 

スズメノエンドウ。カラスノエンドウのような赤紫ではない、地味な花。