そばにいて
18.バスターミナル 1
「えっ、真澄ちゃん……。なんで。なんで、はやと君のこと知ってるの? 」
吉永君の顔色を窺いながら訊ねる。
「それは……。いや、そんなことより、俺の訊いたことの答えは? 」
やっぱり吉永君は不機嫌だ。
「わ、わかった。あの……。はやと君はね、途中で先輩に呼び出されて
一緒に帰れなくなったの。って、ねえ、真澄ちゃん。どうしてわたしが
はやと君と一緒だったって知ってるの? はやと君はロビーのところで
部室に引き返したんだよ。真澄ちゃんはその時、部活でしょ? だったら
グラウンドだよね? はやと君から聞いたの? それとも……」
どう考えても腑に落ちない。優花は徐々にムキになっていく。以前の
エレベーターホールでの吉永君と勇人君との諍いの時といい、さっきの
サリたちといい。どうして誰もがすぐさま勇人君との関係を疑い引き合い
に出してくるのか、合点がいかないのだ。
勇人君とたまたま一緒にいるだけでそんなに騒がれるのは優花の本意
ではない。決してずっとひんぱんに一緒に行動しているわけではない。本当
に一日のうちのほんのわずか数分だけの接点しかないのになんでだろう。
理不尽さへの思いが相当態度ににじみ出ていたのだろう。吉永君は
ふうっと大きなため息をつき、しぶしぶ説明を始めた。
「……ったく、しょうがないな。なんか、ゆうのこと、ずっと監視していたみた
いに思われるのだけは避けたかったんだけど。これだけは最初に言って
おく。本当に偶然そのことを知ったんだ」
「わかった。偶然だね。うん。それで? 」
優花は彼の一言一句を聞き逃すまいと、彼との距離を一歩だけ縮めた。
「トラックを何周かランニングした後、膝に違和感があって、テーピングを
しようと思ってロビー前のベンチに座っていたんだ。そしたら、二人の姿が
見えたんだよ」
照れくさそうに、いや、いかにも面白くない風な態度で、街路樹の根元に
生えている雑草を足先で突きながら、吉永君が言った。
「そうだったんだ。で、膝の具合は? 」
「大丈夫だ。一度深刻な事態一歩手前までいったことがあって、それからは
気を付けるようにしているから」
「そっか」
「どう? 俺の説明、納得してくれた? 」
「うん。でもね、はやと君とのこと誤解しないでね。わたしが部室に本を取りに
行ったら、たまたまそこにはやと君がいて、一緒に帰ろうってなって、それで」
優花がすべて言い終わらないうちに、吉永君がさっさと前を歩き出す。
「なんか、ゆうの言い方、言い訳みたいに聞こえるけど。でもな、別に勇人が
誰と一緒に帰ろうが、ゆうが放課後誰と何をしようが、俺には関係ないんだ
けどな。ただ……」
「ただ? 」
歩みを止めた吉永君が、優花に背中を向けたまま黙ってしまった。周りは
すっかり暗くなっているのに、夕焼けの残り空がビルの窓に不気味な赤色
を反射して映しだしている。信号が赤になり、車の流れが止まる。あたりに
つかの間の静寂が訪れた時、再び彼が話し始めた。
「秋の日暮れは早い。中間テストが終わって、部活で遅くなる日は……。
勇人と一緒に帰れ。あいつがダメなら、必ず仲のいい誰かと一緒に帰れ。
いいな」
「真澄ちゃん……」
「今日みたいなことは、もう二度とごめんだからな。どうせ一人で帰るところを
さっきいたあの女たちに、呼び止められたんだろ? ゆう、そうなんだろ? 」
吉永君の背中が小さく上下する。
「うん、そう……」
「いったい何を言われてあいつらにのこのこついて行ったのか。俺は部外者
だから、それ以上は訊かないが。でもな、それって、おまえらしくないよな。
……なあ、ゆう」
彼がくびだけこちらに向けて、彼がそんなことを言う。優花は、はいでもうん
でもなく、曖昧にうなずくことしかできない。
「俺……」
さっきから彼の様子がいつもと違うことにうすうす気づいていた。慌てて彼の
横に並び、顔をのぞき込んだ。
「何? 真澄ちゃん、どうしたの? 」
「あのな。いや……。別にいいよ。何でもない」
「やだ。なんで言いかけてやめるの? 教えてよ。何? 何があったの? 」
「今日のゆう、ホントにしつこいな。そんなに知りたいのか? ん……。あまり
言いたくないんだけどな……」
優花は固唾を飲んで、出てくる言葉を待った。
「実は、俺のじいさんが……」
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