そばにいて

 

 

15.ミコとサリ、そして、ヒロ 3

 

 

 

  あれ? そんなはずはない。優花はもう一度目をこすって彼を見た。

  吉永君、だ。どうして彼がここに。え、なんで?

  優花は大きく瞬きを繰り返し、次第に距離を縮めてくるその人をじっと

  見た。

 

  あ、違う。

 

  やっぱり違った。吉永君じゃない。

  よく見てみると、あごのラインだって違うし、口元の形も別人だ。声も

 この人の方がやや高めで髪も彼より長い。

  見れば見るほど違いがはっきりしてくる。

  なのにどうしてこのひとが吉永君に見えたのだろう。全然違うのに。

  けれど、優花は残念な寂しい気持ちになる。もっと似てればよかった

 のに。いっそのことそっくりな人だったらよかたのに、と。

 

 「なあ、何だよ。さっきのライン」

  少しイライラした口調でその人が訊ねる。

  しきりにスマホをいじっていたサリがようやく顔を上げた。

 「書いてあるとおりだけど。ミコがさ、この子、ヒロにどうだろって言うから」

  サリがさも面倒そうに答えながら、優花の前に彼を突きだす。

  やはり思った通りだ。この人の相手として紹介されるのだ。

  すると、上から下まで全身を舐められるようにその人に見られる。優花

 は反射的にブレザーの裾を引っ張って、左右の膝をくっつけた。その人の

 じっとりとした視線がどこか気持ち悪さを増長させる。

 「ふーん。なるほどね。で、誰? このかわいい子」

 「あたしたちと同じ高校の同級生。ヒロのカノジョにどう? この子、今さ

 フリーなんだって」

 「あっ、そう。別にいいけどー。ねえ、カノジョ。名前は? 」

  最初吉永君に似てると思ったのは大きな間違いだった。しゃべり方が

 とてつもなく……軽い。

 「ちょっと、あんた。 名前くらい自分で言いなよ」

  突然サリに背中を突かれ、前に出た。

 「あ、ごめんなさい。わたしは、その、石水……です」

 「イシミズさん? ふーん。俺、ヒロ。広川太郎って言うんだ、そこの付属の

 でもさ、太郎じゃシャレになんねーから、ヒロって呼ばれてる。で、イシミズ

 さん、ホントにカレシ募集中? 」

 「い、いえ、別に募集中とかでは……」

  優花は目の前で薄ら笑いを浮かべるヒロが不気味でならない。

 「俺、メンドくせえの嫌だけど。でもまあ、今までにないタイプだし、イシミズ

 ちゃん、よろしくな」

  ヒロが急に横に来て、優花の肩を引き寄せるようにして抱いた。

  そんなの、困る。嫌だ。やめて! と優花が身体をすぼめて固まっていると 

 耳元に生暖かい吐息がかかるほど密着してくる。

 「ひ、ひやあーーっ。や、やめて下さい! 何するんですか? 」

  優花は身体をよじるようにひねって、なんとかヒロから離れた。

 「何、慌ててんの? おもしれえな、イシミズちゃん」

  ヒロは肩を小刻みに揺らしてクックックと笑いをこぼす。

 「ヒロ、悪ふざけはやめなよ。この子、まだそういうの、慣れてないみたい

 だし。嫌がってるじゃん! 」

  サリがぐいっと優花の腕をつかんで、自分の方に引き寄せた。

  あれ? もしかしてサリは助け舟を出してくれたのだろうか。

 「なんだよサリ! おまえが俺にくっつけようと思って、こいつを連れて

 来たんだろ? イミわかんねえし」

 「言っとくけどさ、一応、この子も今日からうちらの友達なんだし、初めくらい

 優しくしてやってよ」

 「わかったよ、ったく、うるせえなあ」

  優花は下を向いたまま二人のやり取りを聞いていた。

 「でもな、イシミズちゃんって、よく見ると、すっげーーかわいいし。おまえら

 みたいにケバくないのが新鮮っつーか。俺のツレもきっとびっくりするよ。

 それで、これからどうする? ゲーセン? それともカラオケ? 」

 「あたし、のど乾いたし」

  黙って成り行きを傍観していたミコが、スマホを見ながら言った。

 「なら、カラオケで。いつものところにしようぜ。俺、サービス券持ってるし。

 他のヤツも呼ぶわ」

  ヒロもスマホをポケットから取り出し、目にも止まらぬスピードで親指を上下

 左右に滑らせる。

  これからこの人たちはカラオケに行くらしい。ならば、もう家に帰してもらえる

 かもしれない。優花はかすかな期待をいだいた。

  その時、思い出したようにサリが優花を見た。そして決まり悪そうに視線を

 逸らせて言った。

 「言っとくけど……。あたし、あんたを許したつもりはないから。鳴崎君のこと

 何でもないっていう証拠にヒロと付き合ってよ。あいつ、あんなだけど、根は

 いいやつだから。それはあたしが保証する」

 「でも……。わたしは付き合うとか、そういうのは……」

 「んーーっもうっ! なにうじうじしてんのよ。とにかく、あんたと鳴崎君を遠ざ

 けるためには、こうするしかないんだから。つべこべ言わずに、あたしの言う

 とおりにしてよっ! 」

 「そんなあ。だってわたし、ヒロさんとは今日、初めて知り合ったばかりだし

 そんな、いきなり付き合えって言われても……」

 「なら、この後、もっとあいつのこと知ればいいだけだし。さ、一緒にいこ。

 あんたもカラオケに! 」

 「さ、サリさん! 」

  無理やり仲良し風に腕を組まれて、まるで連行されるかのように大通りを

 歩いていく。今どきの高校生三人組と、地味で場違いな一人という妙な取り

 合わせの四人組は、誰の目にも異様に映るのだろう。

  通り過ぎる何人もの人が不思議そうに振り返る。

  優花は自分の身に巻き起こっていることがまるで夢の中の出来事のように

 感じられた。でも腕をぎゅっと絡めているのは間違いなくあのサリだった。

  真っ直ぐに顔を上げることなど怖くて出来なかった。配色よく埋め込まれて

 いるテラコッタの地面を見つめながら、サリの歩調に合わせてしぶしぶ歩みを

 進める。

  腕時計をチラッと見ると、五時を指していた。もうそんな時間だ。

  行きたくないけれど、こうなったらもうあきらめるしかない。一時間だけ我慢

 しようと気持ちに折り合いをつける。そして、きっぱりとヒロにこの交際は無理

 だと断ればいい。勇人君と何でもないことの証明は他の方法でも出来るはず。

  それを見つけて、サリに納得してもらえばいい。それにサリだって、本当は

 いい子なのかもしれない。さっきもヒロの行き過ぎた態度をとがめ、かばって

 くれたではないか。

  そう思ったとたん、急に心が軽くなり、緊張感がほぐれたような気がした。

  ヒロに突然肩を抱き寄せられた時は、苦しくて息が止まりそうだったけれど

 もう大丈夫だ。勇気を出して顔を上げ、前の方人の流れを見たその時だった。

 「ゆうか? 優花だよね。ゆうかーーーっ! 」

  誰かが名前を呼びながらこちらに向かって来る。よく目を凝らして見た。誰

 だろう。その人は胸元にカバンを抱き寄せるようにして優花の前に駆けて来た。

 「やっぱ、優花だ」

  麻美だ。私服姿の麻美が大きなカバンを胸元に抱えて立っている。

  その走ってきた麻美の後方から、もう一人、よく知っている人がやってくる。

  その人は。今、この場を一番見られたくない人……。

  吉永君だった。

 

 

 

 

 

 

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