そばにいて
15.ミコとサリ、そして、ヒロ 2
「わたし、あの……テスト勉強しなくちゃならないし、母が働いている
から、夕食の準備も手伝わないと……」
優花は同行できない理由をあれこれ述べてみる。
「テスト勉強? まだ一週間も先だよ。誰も勉強なんかしてないって。
あんたさあ、そっち系? 」
「そっち系って……」
「おべんきょ女子? 麻美と友だち続けるには、勉強も必要ってわけ
なんだ。男にも差をつけられ、勉強も向こうが上。あんたって、結構
崖っぷちな人生だよね」
「そういうわけじゃなくて……」
「言い訳はもういいからさ。ねえ、一緒に行こうよ。あんたに会わせたい
人がいるんだ。鳴崎と何でもないなら別にいいじゃん。いこ、いこ! 」
ミコの手がさっきよりきつく腕を締め付ける。彼女の目には怪しい光
が宿り、それはもう、ここからは絶対に逃げられないぞと優花に言って
いるように見えた。
「わかった。そこに一緒に行くから、だからお願い。この手、離して! 」
ようやくミコから離れた優花は、二人の目に見えない包囲網にガッチリ
と捕らえられたまま、バス停とは反対の繁華街の方向に向かって
ゆっくりと歩き始めた。
夕刻の繁華街は学校帰りの高校生たちが、特別に何かをするという
こともなく、あちこちに仲間同士のかたまりを作ってひたすらスマホの
画面と向き合っている。
話し方を忘れてしまったのかと思えるくらい、仲間同士に無関心な
集団もいる。彼らのコミュニケーションの手段は今や手元のスマホ
のみのようだ。
制服はどこもよく似ていると言われるけれど、高校生たちはその違い
をはっきりと区別して見ている。スカートのプリーツの数やブレザーの
微妙な襟の角度、胸のリボンに至っては、チェックのほんのわずかの
配色の違いすらすぐに見分けられる。
学校指定のバッグも同じ紺色の類似品であっても、光沢や縦横の
わずかな比率の違いで、一瞬にしてどこの高校なのかわかってしまう。
ということは逆に優花たちもどこの高校生なのかは誰の目にもバレバレ
というわけだ。
合服の人もいれば、冬服の人もいる。優花の学校は今は移行期間中
なのでどっちを着てもいいのだが、冬服人気が圧倒的なので、ほとんど
の生徒がすでにブレザーを着ている。
中にはグレーのニットベスト。胸元に覗くリボンがキュートだと評判
だったりするのだ。
ミコとサリはこの界隈で顔が利くのか、すれ違いざまに次々と声をかけ
られる。遊び人風の人もいれば普通の高校生もいる。フリーターっぽい
大人もいた。
優花を取り囲むこの二人は、一見遊び人風に見えるのだが、そんなに
スレているようには思えない。サリの長いカールした髪の間から小さな
ピアスが見え隠れしているけど、ショートカットのミコにはピアスはない。
背の高いミコのスカート丈はかなり短めで長い足がすらりと伸びている
けど、サリは優花と同じくらいのスカート丈で、風紀検査は一発合格に
違いないくらい、普通の着こなしだ。
ただ二人のスマホのケースが派手で大きかったのには度肝を抜いた。
大通りを曲がって路地に入ったところにコンビニがある。その店の前で
立ち止まり、ミコが例のキラキラした派手で大きなケースを付けたスマホ
を取り出し、画面をチェックする。
「サリ、この子見張ってて。あたしが中に入ってヒロを呼んでくる」
ミコがそう言って、ローファーのかかとを踏んだまま、スマホを片手に
店の中に入って行った。
会って欲しい人というのは、きっとそのヒロという人に違いない。多分
男子なのだろう。さっきの二人の話している様子で、だいたいのことは
察知していた。
会ってどうすればいいのか。まさか。紹介……とか?
でも優花には自信があった。万が一そんなシチュエーションが彼女の
身に起こったとしても、相手にがっかりされてすぐに終わる自信が。
ミコにサリ、悪いけどあなたたち、根本的に人の選び方、間違ってるよ。
優花は心の中で、こっそり二人に向かってつぶやいた。
「よお、サリ。今日は早いな。何? さっきのライン」
ミコと連れ立って、見知らぬ男子が店から出てきた。
どこの制服だろう。優花の学校のと似てないこともないけど、ネクタイの
色がわずかに違う。ブレザーのボタンの種類も。
もしかして、付属の人? ここからそう遠くはないところに、私大付属の
男子校がある。そこの人かもしれない。
優花は息をひそめて、その人の顔をちらっと覗き見た。
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