そばにいて

 

14.誰なの? 3

 

 

 

 「ううん。マミは部活だし、絵里は先輩と図書館」

 「エリって? あのめちゃくちゃ美人な本城さんだよな? 」

 「そうだよ」

  絵里はお目当てのあこがれの先輩にテスト範囲のわからないところを

 教えてもらうんだとはりきっていた。

  そうやって少しずつ仲良くなって、十二月までには気持ちを伝えると

 言っている。

  ねえ、優花も一緒に図書館に行こう、と誘ってくれた絵里の心遣いは

 ありがたかったが、まさか部外者が今まさに恋が始まろうとしている二人

 の所にのこのこついて行くわけにはいかない、ということくらい、優花にも

 理解できていた。

  美人な本城さんとして学年中にその名をとどろかせている絵里だが

 優花は彼女の初ロマンスを大切にしてあげたいと思っている。

 「じゃあ、寂しい者同士、そろそろ帰りますか」

  メガネの奥の目を細めて、勇人君が立ち上がった。

  別に一緒に帰るのはかまわないのだが、周りの視線が痛いのが少々

 辛かったりもする。他の部員たちは二人が付き合っているわけではない

 と知っているが、そうじゃない人に時々、ギロリとにらまれることがあるのだ。

  中学時代の後輩が校門で待ち伏せしていたこともあった。今の高校で

 女の先輩に付きまとわれて困っているともこぼしていた。

  そんな勇人君の現状を考えれば、学校内で並んで歩くなど言語道断

 なのだが……。

  ほとんどの生徒たちが下校したこの時間帯ならば誰にも見られることも

 ないだろうと、ついつい気を緩めてしまった。

  優花はちょうどチャンスだとばかりに家までの時間を使って、化学の難解

 な部分を彼に質問しようと思いついた。ロビーで靴を履き替えながらカバン

 から教科書を出して、勇人君ににじり寄る。

 「ねえねえ、はやと君。お願いがあるんだけど。ここのね、化学式なんだ」

 「何? ああ、これね。これは……」

  さすが勇人君だ。優花の疑問点をすぐに察知して、かみ砕いて説明して

 くれる。なるほどね。やっぱり化学式はある程度暗記しないと始まらないん

 だとわかる。

  基本的なことでも、嫌な顔ひとつせずに丁寧に教えてくれた。伊達に学年

 トップを維持しているわけではない。特に化学と物理は先生よりも勇人君

 の方が詳しいという噂もあるくらいだ。

  部室で入試レベルの問題を三年生に交じってすらすら説いているのを見た

 時は、腰を抜かすほどびっくりしたものだ。

 「教科書に出てるくらいは全部暗記した方がいいよ。それから問題集をやって

 応用問題を押さえておけば、九十点は確実だから」

  へえ、そうなんだ。なるほど……などとのんびり感心している場合ではない。

  基本的なことをマスターするのが精一杯な優花は、取りあえず平均点を

 目指してがんばろうと、小さな目標を立てて心に誓った。

  次は日本史だ。全部暗記していたら寝る時間がなくなってしまいそうな

 くらい広範囲にわたっている。出題されそうなところのヤマをかけてもらおう

 と、カバンの中にあるはずの教科書をごそごそと探す。

  すると勇人君がきょろきょろと辺りを見回してポケットからスマホを取りだした。

  一応、学校内では携帯やスマホのむやみな使用は禁止になっているので

 人目を気にしているのだろう。

 「ゆうちゃん、ごめん! 」

  スマホの画面を見た勇人君が突然謝る。

 「一緒に帰れなくなった。副部長に呼び出されたよ。取りあえず部室に戻るよ。

 また何かわからないところがあったら、夜にでも電話してきて。じゃあ」

  そう言って、瞬く間に優花の視界から勇人君が消えていった。

  バイバイと言う間もないほど、あっという間にロビーからいなくなった。こう

 なったらいつまでもじっとここに立っていても無意味だ。

  優花は教科書をカバンにしまい、気分も新たにバス停に向かって歩き始め

 ようとしたその時だった。

 「い、し、み、ず、さーーん! 」

  誰かがはっきりと名前を呼んだ。振り返ってロビーを見渡したが誰もいない。

 「いしみずゆうかちゃーん、こっち、こっちだけどーー」

  目を凝らして見ても、何も変化はなかった。

 「やだ、マジ気づいてないし。あははは」

 「ちょっとちょっと、こっちだってばーー! 」

  靴箱の向こう側から笑い声が聞こえる。一人? それとも二人?

 「だれ? 誰なの? 」

  

 

 

 

 

 

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