そばにいて
14.誰なの? 1
いつまでも笑い続ける勇人君にあきれながらも、優花は彼の少し
後ろを歩いてついていく。するとどうだろう。自然と笑いがこみ上げ
て来たと思ったら、こらえきれなくなってプッとふき出してしまった。
それを見た勇人君がまたもや大笑いし、優花もつられて笑う。
失恋した者同士、笑っている間だけでも悲しい出来事を忘れて
いられるのだ。家までの道のりが、このままずっと続けばいいのに
と思ってしまう。
息をはずませながらマンションのエントランス前で部屋番号を打ち
込み、家の中にいる家族にロックを解除してもらった。
最上階に住んでいる勇人君ときたら、優花が開けてもらったドア
なのにすり抜けるようにして素早く中に入って行く。
「あーー! はやと君、ずるいーーーっ。 開けてもらったのはわたし
なのに、先に入ってる。待ってよ」
「へへへ、ラッキー! こうやって誰かが開けてくれたところで、待って
ましたとばかりにダッシュで通り抜けるのが、オートロックの醍醐味
なんだよな」
「なに、それ。小学校の頃と、ちっとも変わってないじゃん」
「だろ? お互い、あの頃から全く成長してないってことで」
「やだ。わたしまで一緒にしないでよ。はやと君ったら、案外子ども
っぽいんだね」
「いや、いつまでも少年の心を忘れずに持ち続けているってこと」
勇人君とじゃれ合うようにしてエレベーターホールになだれ込む。
そして優花の足がピタッと止まった。
「え…………。なんで……。どうして……」
優花の視線と、よく知っている二人の視線がパチッとぶつかった。
「ま、真澄! え? おお……ぞの? 」
背中側からエレベーターホールに入っていた勇人も前に向き直り、目の前
の二人に吃驚して立ち止まる。
優花も驚きのあまり声も出ない。
「優花? 優花じゃない。それに、鳴崎君も! 」
吉永君の横でこぼれんばかりの笑顔を見せる麻美が、二人の名を
呼んだ。
「優花、昨日はありがと。あたしさ、真澄君にくっついて、こんなところ
まで、来ちゃった。ふふふ……」
真澄、君? 麻美がほんのりと頬を赤く染め吉永君のことを恥ずか
しそうにそう呼んだ。彼の腕にしがみつきながら、すぐそばにたたずむ
彼を幸せそうに見上げて。
優花は目の前で繰り広げられる光景にただただ驚くばかりだ。
「お、おい、大園。やめろよ……」
すると吉永君が身体をよじり、麻美の手を振りほどいたのだ。
「真澄君、どうして? あたしのこと、いや? 」
麻美が行き場を失った自分の手にもう一方の手を添え、怯えるよう
な目をして彼に訴える。
「あ、いや……。別に深い意味は……」
「真澄君、ごめんなさい。場所もわきまえずに、あたしったら……」
しまったというような顔をした吉永君が、うなだれる麻美から気まず
そうに目をそらす。
その時だった。急に勇人君が吉永君の前に立ちはだかり、彼の腕を
上方に向かってひねり上げたのだ。
「真澄、彼女に乱暴なことするな! 付き合ってるんなら、もっと優しく
してやれよ!」
「はやと……。おまえ、いったい何言ってるんだ? 俺、そんなに乱暴な
ことはしてないつもりだけど? おまえのその手、いい加減離せよ」
「あ、ああ……」
勇人君はあわてて手を離した。
「おい、はやと! お前の方こそ、やけに楽しそうじゃないのか? 」
ひねられていた方の腕を回してほぐすようにしながら、吉永君が皮肉
っぽく言った。
「なんだって? 僕のどこが楽しそうに見える? 」
「そこにいるそいつと、よろしくやってるんだろ? おまえらさっきから公園
にいたよな。な、はやと! 」
そいつと言った時、吉永君がほんの一瞬だけ優花を見た。けれど優花が
視線をそらせる前に、彼は勇人君とにらみ合う形に戻ってしまった。
彼は言ったのだ。よろしくやってる、などと。とても吉永君が言ったとは
思えないくらい、優花の胸をえぐるような言葉だった。
「真澄、おまえ、どこを見てそんなこと言ってるんだ? 僕とゆうちゃんが
どうなるって言うんだよ。おまえこそ、そんなにゆうちゃんのことが気になる
んだったら、しっかり自分の手元につなぎとめておけよ! 」
勇人君のどこにこんなエネルギーが隠れていたのかと思うほどの権幕で
吉永君に詰め寄る。
「こいつ、言わせておけば……」
吉永君にもスイッチが入ってしまった。
「何をっ! 」
「二人とも、やめてーーっ! 」
優花は今にも掴みかかろうとしている吉永君と、挑発的な態度で歯向かう
勇人君の間に入って、自分でも信じられないくらいの大きな声で叫んでいた。
何事だろうと、不審な表情を浮かべた管理人が、小窓から顔をのぞかせる。
きょろきょろとあたりを見回した後、再び小窓が閉まった。
「なんでマミの前で、けんかなんかするの? マミが、マミが、かわいそう……
だよ……」
優花は誰に言うでもなく、消え入りそうな声でつぶやく。
ふと横を見ると、青白い顔をしている麻美が、視線をさまよわせてガタガタ
震えながら壁際に立ちすくんでいた。
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