そばにいて
13.夕焼け空の下で 3
「バス内でのいい感じの二人から急転直下、その日の夜には違う女子と
付き合うって言い出すし。真澄のやつ、意味わかんないよ、まったく」
勇人君が頭を抱えて、はあー、はあーと長いため息を何度もついた。
「はやと君、ごめんね。わたしって、はやと君から見れば、相当ひどい人間
ってことになるよね」
勇人君の麻美への気持ちを知らなかったとはいえ、彼にとって優花の
とった行動は最低最悪以外の何者でもない。彼の好きな人を親友である
吉永君に押し付けたのは、まぎれもなく優花自身なのだから。
「まあね。でもゆうちゃんは何も知らなかったんだし、こればっかりは不可
抗力としか言いようがないよ」
「本当にごめんね。はやと君……」
優花は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。部活でも、自分のことは二の
次でみんなのために地味な裏方を一手に引き受けてくれている勇人だから
こそ、彼が苦しむような結果を招いたことが悔やまれてならない。謝って済ま
される問題ではないのだ。
「もたもたしていた僕も悪かったんだ。彼女に振られたらどうしようって弱気に
なってて、なかなか告白できなかったんだ。それに大園が僕のことを特別な
気持ちで見てくれていないってのも、薄々気づいてたしね。ああ、人生初の
大挫折だよ。まいった、まいった」
勇人君は今でこそ文化部所属の草食系男子の筆頭に見られがちだが
中学時代はサッカー部のキャプテンで、運動神経も抜群だった。人気者の
勇人君は、当時付き合っていた彼女もいたはずだ。挫折なんて言葉とは
無縁の人生を歩んで来たのは誰もが知るところだ。
なのに、麻美に告白できないくらい弱気になっていただなんて、優花には
到底信じられない。もしも優花が勇人君だったなら……。
生まれながらに持っている物を最大限に活かして、もっと自信に満ちあふ
れた人生を送れそうだ。そして好きな人にも尻込みすることなく堂々と告白
していると思う。
吉永君もそんな生き生きした明るい性格の優花であれば、本当に好きに
なってくれていただろうし、このような複雑な事態を招くこともなかったと
思える。
「でもさ、はやと君は偉いよ」
肩を落として元気を失くしている勇人君に向かって励ますように言った。
「なんで? こんな煮え切らない男なのに? 」
「だって、頭も良くて見た目もかっこよくて、みんなから一目おかれてる立場
なのに、それをちっとも鼻にかけなくて、それに自分に嘘をついていないし」
「おいおい、えらい褒め言葉だね。ゆうちゃん、あまり関心のない男に向か
って、そんなこと言うもんじゃないよ。僕は昔からゆうちゃんのこと知ってる
からそれなりに聞き流せるけど、そうじゃなければ、自分に気があるのかな
って誤解されかねない」
「ええっ? そうなの? でも、ホントのことなのになあ……。そう言えば
わたしって、いろんな面で案外誤解されやすいんだよね。勉強になった。
はやと君、ありがとう。これから気を付ける」
男女のことなんてよくわからないことばかりだ。思ったことを軽々しく
口にしてはいけない、ということだろうか。
「で、さっきの話に戻るけど。ゆうちゃんは自分に嘘をついているの? 」
「え……? 」
なんでそうなるのだろう。確かに、優花が吉永君のことを好きなのは
はやと君には内緒のままだ。見破られているけれど、認めてはいない。
それに、まだこんなにも吉永君のことが好きで忘れることなんてでき
ないままなのに、好きではないなどと言って、強がっている自分がいる
のは事実だ。
「嘘ついてるよね? 」
「いや、そんなことはないって……」
「ホントに? なんか無理してない? やっぱ真澄のことが気になるん
じゃないのか? 」
はいそうです、と言いそうになるのをぐっとこらえる。ここは、否定し続ける
しかないのだ。
「違うって。ホントに違うんだってば! 」
「わかった、わかった。もういいって。それにしても意味不明だよな。おまえ
も真澄も……」
勇人はブランコから降りると、ショルダータイプのスポーツバッグを背中に
回して腕を組み、あきれたように首を横に振った。
彼も失恋したばかりで辛いはずなのに、他人のことを気遣ってばかりいる。
勇人君が男女問わず人気者な理由がわかる気がする。
「さあ、日も暮れてきたし、僕たちもそろそろ帰ろうか」
「うん、そうだね」
砂場で遊んでいる子どもが黄色いバケツにスコップやカップを入れて
片づけ始めた。すでに西の空には夕焼けが広がっていた。
「ゆうちゃん、時間取らせてしまってごめんね。でも話しているうちになんか
勇気が湧いてきた気がする」
「勇気? 」
「ああ。いつかきっと彼女を振り向かせて見せるって、そんな気持ちに
なってきたよ。ゆうちゃん、ありがとう。ゆうちゃんも大園に負けるな。がん
ばって、真澄を奪い返せっ! 」
「ええっ? だからわたしはそんなんじゃないってば」
いくらがんばれと励まされても、もうどうしようもない。あの二人は未来に
向かってスタートを切ってしまったのだから。
優花が少し膨れて困ったように口を尖らせてブツブツ言っていると、勇人
君が突如お腹を抱えて笑い出す。そうだった。彼は昔から笑い上戸だった。
吉永君にからかわれてふくれっ面になった優花を見て笑い転げるのは
決まって勇人君だったと思い出す。
「あははは……。ゆうちゃん、昔と変わんないな。やっぱ、おもしろい」
雲間から再び顔を出した夕日に照らされて、勇人君の髪も顔も真っ赤に
染まって見えた。
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