そばにいて
12.ごめんね、呼び出したりして 1
絵里、ありがとう。親身になって心配してくれる絵里に感謝の
気持ちでいっぱいになる。
自分が口走ったことの重大さは十分に承知しているつもりだ。
麻美のおかれた状況を考えれば、あたりまえのことをしただけ。
友人とも離れ、好きな人とも別れが待っているのだ。転校という
未知の試練に麻美は立ち向かっていかなければならない。
麻美のためなら吉永君に言える。麻美の気持ちを伝えることくらい
簡単だと思った。
「優花……。いいの? 本当に? 」
麻美の目から、はらはらと涙がこぼれ落ちた。
「いいんだってば。今夜家に帰ったら吉永君に言ってみる。それとも
マミが直接自分で言った方がいいのかな? 」
さしでがましくないだろうか。優花は自分の決断が次第に揺るぐの
を感じていた。
「ううん。さっきは告白するなんて言ったけど、カレを目の前にしたら
きっと恥ずかしくて何も言えなくなると思う。優花ならカレと昔からの
知り合いだし、さりげなく伝えてもらえそう。優花に言ってもらえたら
助かる……」
麻美が涙を拭いながら言った。
「優花、ちょっと……」
怪訝そうな顔をした絵里が優花の肩を後ろから押すようにして
麻美から少し離れたところで訊ねる。
「優花、今言ったこと、とても本気だとは思えない……」
絵里が優花の耳元でボソッとつぶやいた。
「マミ、ちょっと待っててね」
麻美を休憩コーナーに残したまま、絵里が無理やり優花をトイレに
連れて行く。
トイレの化粧室で密談が始まった。
「優花、いったいどういうつもりなの? 吉永だって、優花にはマミと
付き合ってだなんて、言われたくないに決まってるよ」
ひそひそ声の最大級の声量で、絵里が訴えかける。
「絵里、わたし、もう決めたんだ。だってマミは転校するかもしれない
んだよ。あのまま放っておけないよ。わたしはね、もう望みがない
ってわかってるから、いいの。マミの想いが吉永君に伝わるよう
がんばってみる」
「優花ったら。後で後悔しても知らないよ」
「言わない方が後悔するよ。だって、マミ、泣いていたんだよ。わたし
は今まで転校の経験がないからどこまで辛いのか想像の範囲でしか
わからないけど、きっとすごく苦しいことなんだと思う。絵里だって
中学の時、引っ越したんでしょ? ならマミの気持ちがわかるはず」
「そりゃあそうだけど。ただあたしの場合は、中学校っていう、大きな
集団に入りこんだわけだし、引っ越し先のニュータウンには、あたしと
同じような新参者が他にもいっぱいいたから。わりとすんなり溶け込め
た気がする。マミの転校とは全く違うよ。マミの方が何倍も辛いと思う」
「なら余計にマミの気持ちに応えてあげなきゃ。わたしは大丈夫だよ。
吉永君とマミなら、美男美女でとても似合ってるし」
「ホント、頑固なんだから。そこまで言うなら好きにしたらいい。どっち
にしろ、あとは、吉永の気持ち次第ってことだから」
「うん、そうだね」
「もしもだよ。吉永がマミじゃなくて、優花が好きだって言ったら、ちゃんと
彼に本当のことを言わなきゃね。遠慮なんてしなくてもいいんだから。
そんなニセモノの優しさの押し売りは、マミにとっても不幸でしかないし」
「絵里……。わかった。そうする、でもね、絶対にそんなこと、ありえない
から。残念だけど、1パーセントだって可能性はないよ。さーて、そうと
決まったら早く帰んなきゃ」
絵里が優花を気遣って励ましてくれているのは一目瞭然だった。
すべてを受け入れて理解してくれる親友がいると、こんなにも心強い
ってことが証明された。
優花は麻美の力になるために、気持ちをしっかり持とうと素直に
そう思った。
どうしてこんなに帰ってくるのが遅いのと母にさんざん小言を言われ
ながら食後の洗い物を手伝って、台所仕事から解放されたのが八時頃。
優花は自分の部屋のベッドに座って、机の上のスマホを手にする。
吉永君に、麻美との約束を告げるために……。
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