そばにいて

 

 

11.お願い。信じて 2

 

 

 

 「ゆうか……。帰る気? 」

  眼前に現れた無表情な麻美が、今までに見たこともないような冷たい

 目をして立ちはだかっていた。

 「マミ、来てくれたんだ……。部活、終わったんだね……」

  優花は顔を強張らせながら、やっとのことそれだけ言った。

 「行ってない。部活なんか、行けるわけない。あたしは優花のこと、ずっと

 親友だと思ってたのに。なんで? どうして嘘なんかついたの? 」

  麻美が優花に向かって一歩、また一歩と詰め寄るたびに、感知した

 自動ドアが開閉を繰り返す。

 「ちょ、ちょっと、二人とも。そんなところで何やってるのよ。店に入って

 来るお客さんの邪魔になってるよ」

  絵里が血相を変えてやって来た。

 「ねえ、とにかくこんなところで言い合いしててもらちがあかない。さあ

 外に出るよ」

  絵里が麻美の腕を掴んで、店外に連れ出す。

  こうなることを避けたかった絵里が、優花を先に帰らせようとしていた

 のに、とうとうその心遣いすらも無駄になってしまった。

  優花もとぼとぼと二人の後をついて行った。

 

  ここは大きな複合型ショッピングモール内だ。要所要所に休憩コーナー

 が設置されている。自動販売機の前のソファ―型ベンチにカバンを置き

 優花は立ったまま麻美と向き合った。

 「マミ。わたしは、その……。嘘つくつもりなんてなくて。たまたま今日の朝

 マンション内で吉永君と一緒になっただけなんだ」

 「……」

 「ねえ、マミ。お願い、信じて。マミを困らせようとか、こっそり付き合ってる

 とか、決してそんなんじゃないの」

 「……」

 「マミ。ねえ、なんとか言って。わたし、わたし……。どうしたらマミに

 わかってもらえるの? 」

  麻美は黙り込んだまま、優花をじっと見ていた。時折り、彼女の瞳が

 揺れるのが見て取れる。

  怒っているような、それでいてどこか寂しそうな目だ。

  わざとやったことじゃないにしても、こんなにも麻美を傷つけてしまった

 のは、まぎれもない真実だ。どうすれば事態が好転するのか、今の優花

 には解決法が見つからない。

 「優花……」

  麻美がようやく、その重い口を開いた。

 「あたしね、昨日あいちゃんが言ってたことは、何の根拠もない、ただの

  冗談だって、自分にもそう言いきかせたの。絵里もカレと優花は何でも

 ないって言ってくれたし。あたしの早合点だった、優花に謝ろうって、そう

 思ってた。なのに。カレにカバンまで持たせて、いったいナニサマの

 つもりなの? あたしに二人の仲のいいところを見せつけるつもりだった

 としか言いようがないよね。それで親友だって言えるの? 信じられない」

 「そんなあ。見せつけるだなんて……」

  どうしたらわかってもらえるのだろう。優花にはなすすべもなく、目の前

 の麻美をぼんやりと見ることしかできない。

 「マミ。優花がそんな子じゃないって、マミも知ってるでしょ? 信じて

 あげてよ」

  すかさず絵里が助け舟を出してくれる。

 「優花が病み上がりだから、吉永がカバンを持ってあげただけだよ。

 そんな親切で思いやりのある吉永だからこそ、マミもカレのこと、好きに

 なったんでしょ? ね、そうでしょ? 」

 「でも……」

 「マミの気持ちもわかるよ。好きなヒトが、違う女の子の世話をやいて

 いるのを見るのは相当辛いと思う。ただ、優花がわざとやったんじゃない

 ってことだけは、信じてあげてよ。でないと、優花が、優花だって……」

  え、えりっ! それ以上言わないで! 優花は心の中で声を限りに

 叫んだ。麻美にだけは心の内を知られたくなかったのだ。

 「絵里っ! ありがと」

  絵里の言葉を封じるように、優花が前に進み出る。

 「わたしは平気だから。だって、麻美が怒って当然のことをしたんだもの。

 配慮が足りなかったよね。いくら同級生で、家が近所だからって、吉永君

 に今朝みたいに甘えるのはよくない。わたしが毅然とした態度を取って

 いれば、カレにカバンを持たせることもなかったし、マミに不快感を与える

 こともなかった。これから気を付ける。だからお願い。もう機嫌を直して。

 これからもずっと親友だって、そう言って」

 「ゆうか……。そ、そりゃあ、あたしだって優花がそこまで言うなら信じる。

 だって、もしカレが体調の悪い子を目の前にして、見て見ぬふりする

 ような冷たい人間だったら、そっちの方が許せない。これでもあたし

 医療の道を志しているんだもの。優花の身体の具合だって心配だった。

 じゃあ、最後に一つだけ確認するけど」

  少しだけ頬に赤みが戻ってきた麻美が、念を押すように訊ねる。

 「本当にいいんだよね? あたしが吉永を好きでいても。あたし、カレに

 気持ちを伝えるつもりなの。もちろん、すぐにうまくいくなんて思って

 ない。ずっと両想いになれないかもしれない。それでもいいの。気持ち

 を伝えないことには何も始まらないし」

  麻美の本気度合いにもう優花は太刀打ちできないと悟る。人を好き

 になることはこんなにも心を強くするのだろうか。麻美のあまりの変わり

 ように、優花は驚きを隠せない。

 「マミ、ホントにカレのことが好きなんだね。こんなに恋にまっしぐらな

 マミは初めてみた。マミじゃないみたい」

  絵里も目を丸くしている。

 「あたしも、自分自身に驚いているんだ。こんな勇気がどこにあったん

 だろうって。でもね、あたしには……。もう、時間がないんだ……」

 「時間? 」

  麻美の意味不明な一言に、優花は絵里と同時に顔を見合わせた。

 「どういうこと? なんで時間がないの? 」

  絵里が麻美の首根っこをつかまんばかりに詰め寄り、問いただす。

 「あ……それは、その……」

 「なんなのよ。ちゃんと言いなさいよ! マミだって人のこと言えないよ。

 隠し事するなら、吉永のこと、応援できないからっ! 」

 「絵里! ちょっと落ち着いて」

  優花はムキになって声を荒らげる絵里を麻美から引き離した。

 「そうだね。もう隠すのは無理かも。あのね、あたし……。実は……」

  麻美の一言一言を聞き逃すまいと、意識を彼女に集中する。

 「実はあたしね、来年、転校するかもしれないの。いや、転校させられ

 そうなの」

 「えっ……」

  あまりの衝撃的な内容に絶句する。

 「今のままでは、パパの母校の医大に現役合格が難しいかもって言わ

 れてて。今日の模試の結果と二学期の成績が思わしくなければ、来年

 から私学の医科歯科大特別進学コースのある高校に行けって」

 「私学……」

 「だから、なんとしても今のうちに、彼に気持ちを伝えなきゃならないの」

 「マミ……」

  絵里が力なくつぶやく。

  どうしてそんなことになるのだろう。麻美は今でも充分に良い成績を 

 修めている。学年でも常に十番以内をキープしていて、学業を怠って

 いるなんてこととは無縁なはずだ。

  それとも麻美の父親の出身大学が恐ろしく高偏差値の学校とでも?

  医学部のことはよくわからないが、きっとそれは想像を絶するほどの

 険しい道のりなのだろう。

 「マミ、わかった。わたしが……。吉永君にマミのことお願いしてみる」

  麻美がハッとして優花を見る。

 「ちょっと待って。優花、何言ってんの? 」

  絵里が慌てて、優花の言ったことを撤回させようと試みるのだが。

  でも優花にはもう、ためらいはなかった。自分が口にしたことに

 後悔はない。

 「わたし、決めたから。マミのためなら、何だってできる」

  マミの苦しみに比べたら優花の悩みなど、取るに足らない、ほんの

 小さな物にしか思えなかった。

 

 

 

 

クリックでの応援

よろしくお願いします

     ↓↓

 
にほんブログ村

 

 

 前へ  目次  次へ

 

 

 

             Copyright (C) since 2008 Mayuri Ohira, All rights reserved