そばにいて

 

 

11.お願い。信じて 1

 

 

 「ねえ、絵里。マミ来るかな……」

 「どうだろ。五分五分ってところかな? だってさ、今日一日、廊下で

 会っても目も合わさないんだよ。バスケもあの調子だもん」

  優花と絵里は模試とレクリエーション活動が終わるとすぐに学校を

 飛び出して、いつものバーガーショップに来ていた。

  麻美との約束の時間は五時半。すでに時計は六時前を示している。

  せっかく麻美が昨日のことを許してくれたと思ったのも束の間

 吉永君と一緒に登校したのがバレた瞬間、振り出しに戻ってしまった。

  今日の午後のレクリエーション活動はバスケだった。麻美のチームと

 対戦した時必要以上に麻美に体当たりされたような気がするのだ。

  絵里もそれに気が付いていた。

 「にしても優花ったら、タイミング悪すぎるよ。なんでまた昨日の今日で

 あんなに堂々と吉永と一緒に登校してくんのよ」

 「だ、か、ら。さっきも言ったでしょ。吉永君が勝手にわたしのカバンを

 持っちゃったからって」

 「それが謎なんだよね。いくらなんでも優花の言ったままだと、吉永って

 泥棒と一緒じゃん! ひったくりってことだよ。違う? 」

  ええ? ひったくり? 優花は唖然としたが、よくよく考えると、まさしく

 絵里の言う通りだ。吉永がひったくりと同類に見られても仕方ない。

 「絵里、ごめん。なんかわたしの言い方が悪かったよね。その、わたしが

 マンションの階段から落っこちそうになって、それで吉永君が、まだ

 わたしの体調が悪いんじゃないかと心配して、カバンを持ってくれたの。

 何度も言ったんだよ。自分で持つって。でも……」

 「そっか、なるほど……。でもさ、優花? 」

 「な、なに? 」 

  まだ説明不足だったのだろうか。絵里のその不気味な笑い顔が怖い。

 「優花が階段から落っこちそうになった時、吉永がまるでスーパーマン

 のように、どこからともなく飛んできて、お嬢さん、カバンをお持ちしま

 しょう、って言ったんだよね? ねえねえ、それっておかしくない? 

 あたしは騙されないから。少なくとも、階段から落っこちそうになる

 前から吉永と一緒にその場にいたってことだよね。あやしい。あやし

 すぎる。ねえ、優花。もしかして優花は……」

 「絵里、やだ、何言ってるの? 」

  優花はますます窮地に追いやられる。

 「マミに気兼ねして、とっても大切なこと、あたしに内緒にしてるよね? 」

 「大切なこと? な、ないよ。そんなもの」

  優花は大慌てで否定する。絵里に気付かれたのだろうか。

  でも、今それがバレたとしたら、絵里は優花と麻美の間に入って、辛い

 思いをすることになる。絵里にこれ以上迷惑をかけられない。

 「さあ、優花。マミがここに来る前に、すべて洗いざらいぶちまけてもら

 いますからね。おっと、黙秘権行使ですか? 」

  絵里は優花が口をつぐもうとしたのを見逃さない。

  絵里、お願い。これ以上、何も訊かないで、と心の中で手を合わせて

 祈る。

 「では仕方ありませんね。あたしの口から真実を話しましょうか? 」

 「ダメだってば。ねえ、絵里。何も言わないで。ね、お願い」

 「ほらほら、やっぱりあやしいよ。優花、付き合ってるでしょ? カレと」

 「えっ? 」

  今、なんて言った? 優花はまじまじと絵里の顔を見た。

 「んーーーっ、もうっ! 何度も言わせないでよ。優花ったら、実は

 吉永と付き合ってるんでしょ、って言ったの。違うとは言わせない! 」

  優花はおもいっきり大きく首を横に振った。だって本当に付き合って

 いないのだから。

  どうしてすぐに話がそうなるのだろう。バスの中の勇人君といい、絵里

 といい、早合点もいいところだ。

 「絵里、話が飛躍し過ぎだよ。それ、絶対に違うから。だって今朝、吉永

 君が言ったんだ、わたしのことはただの同級生だって。だから付き合う

 とか、そういうのはありえないって。ショックだったけどね」

 「ふーーん、そうなんだ……って、ちょっと待った! それっていったい

 どういうこと? 優花が告ったの? 吉永に? 」

 「こくる? 違うよ。告白なんてしないってば。だって、吉永君はわたし

 のことなんて、何とも思ってないんだもの。彼の態度を見てればわか

 るよ。想いが叶うことなんて、この先、一生ないんだから……」

  あれ? いったい絵里に向かって、何を言ってるんだろう。優花は

 しまったとばかりに顔をしかめる。

 「優花……。それって……」

 「え、絵里……わたし、違うんだ、あの……だから……」

  絵里はもう何も訊かなかった。ただ優花をじっと見ている。そして

 手を握って言った。

 「優花。もう、何も言わなくていいよ。そうだよね。普段の優花を見て

 れば、すぐにわかることなのに。あたしったら、優花の言ってることを

 鵜呑みにして。なんてバカなんだろう。優花、もう今日はいいからさ。

 早く帰った方がいいよ」

 「絵里……。わたしは別に、吉永君のこと……」

 「もういいって。優花の気持ちはわかったから。後のことはあたしに

 まかせて。マミにはあたしから言っておくから。マミだって、もう来ない

 かもしれないし。大丈夫だってば」

  なんということだろう。とうとう絵里にバレてしまった。ああ、どうして

 あんなことを言ってしまったのかと悔やんでみても、もう遅い。

  それに、絵里はバカなんかじゃない。最後まで隠し通せなかった

 優花が悪いのだ。

 「たとえ、二人が同じ人を好きになったとしても、あたしにとっては

 優花もマミも、これまでと変わらず大事な親友なんだし。きっと

 いい方法が見つかるって。うーーん。ってことは、もしかして……」

  もしかしてって何? まだ何かあるのだろうか。

 「吉永も優花のこと……」

 「吉永君が、あたしのこと? 」

 「そう。えへへへ。まあいいか、そのうちわかるよね」

 「絵里? 」

  絵里が何か言いかけて途中でやめる。気になるけれど、その後に

 続く言葉が何であるかは、優花であってもおおよその見当はつく。

  吉永君も優花のことが好きだと言いたいのだ。

  優花は絵里の優しさに感謝した。それが本当ならどれだけ嬉しいか。

  でも、吉永君が優花のことを特別な存在として思っていないのは

 今朝の勇人君との会話で納得済みだ。

 「さあ優花、早く帰って。夕食のお手伝いがあるんでしょ? また今夜

 電話するからね。何も心配いらないって」

 「絵里、ありがと。それと……。今まで黙っててごめんね。嘘つくつも

 りはなかったんだけど、吉永君のこと、なかなか言い出せなくて……」

 「いいって。本当に好きな人のことは、軽々しく口にできないもの。

 気にしないで。じゃあね、バイバイ! 」

  絵里が元気よく手を振る。優花も胸のあたりで小さく手を振り返した。

  そして、ジュースの紙コップを出口近くの棚の下の出すとボックスに

 捨てて、トレーを重ねたその時だった。

  

  

 

 

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