そばにいて
7.泣かない 1
「マミったら、何言ってるの? わたしが吉永君を好きだなんて
そんなわけないよ。吉永君はね、わたしなんか全く眼中にないんだ
から。だって、カレとはもう三年半もちゃんとしゃべってないんだよ。
あ、昨日のお弁当事件でちょっとだけしゃべったけど、あれは仕方ない
ことで。だからそんなのありえないって。わたしに遠慮することなんて
ないんだってば」
優花はありったけの笑顔を貼り付けて、哀しそうな目をした麻美に
向かって言った。
わざとらしく思われなかっただろうか。最後にもう一度にっこりと
微笑んでみせる。
「優花……。でもあたしが聞いているのは吉永の態度じゃなくて、優花の
気持ちだよ。本当にいいんだね。あたしがこのままカレを好きでいて……」
「う、うん。もちろん。いいに決まってる。わたしはね、これからの未知なる
出会いに胸をときめかせてるんだから。吉永君は関係ないよ。マミを応援
……する。マミと吉永君ならぴったりだよ」
「わかった。それを聞いて少し安心した。優花、ありがと。あたし、一生懸命
カレを好きになる。カレにもあたしのこと好きになってもらえるように、頑張って
みる」
麻美が自分を奮い立たせるようにしてそう言った。
これでいいんだ。もしかしたら吉永君もマネージャーとしての麻美ではなく
ひとりの女の子として彼女を見る日が来るのかもしれない。
いや、もうすでにこの二人の恋は始まっている可能性だってある。
吉永君と麻美が付き合い始める日もそう遠くはないだろう。彼のあの
真っ直ぐな視線が、麻美だけに注がれる日がいつかきっとくる。
優花はほんの一瞬だけ、鼻の奥がツンとするのを感じた。
「マミ! よく言った。そうでなくちゃ! 勉強ばっかりしてるわけじゃない
って、見せつけてやんなきゃね。そうだ。あたしも先輩へのアタック、ますます
がんばっちゃう! 優花も早くいい人見つけるのよ。それでもって、三人して
おもいっきりロマンチックなクリスマスを迎えるの。いいと思わない? 」
端っこに座っている絵里が右腕を大きく伸ばして、麻美と優花の両方を
引き寄せるように抱え込む。
優花はなんとか気を取り直すと、左手をぐーんと伸ばして、麻美と絵里の
二つの肩を抱き寄せた。
麻美は優しくて、控えめで、それでいてとっても頭のいい女の子だ。数学の
わからないところも先生よりわかりやすく教えてくれるし、忘れ物をしたら
たとえ体操服であってもためらうことなく、すっと貸してくれる。
将来は父親の後を継いで、医者になると言っていた。だから今やっている
陸上部のマネージャーも高一の間だけという約束で、入部を許してもらって
いる。
そんな麻美が、好きになった人のことで優花に頼みごとをしているのだ。
冷たくあしらうなんてことはできない。
優花とて、吉永君にはただ片思いをしているだけだ。カレシでもなんでも
ないのだから、麻美が彼を想う気持ちを咎める立場にはいない。
優花は本棚から中学の卒業アルバムを出してきて麻美に渡した。そして
吉永君のクラスのページをめくって開く。
「吉永君の写っている写真は、卒アルくらいしかないけど……」
麻美が目を輝かせて写真に見入っている。絵里もどれどれと言って
身を乗り出す。
「きゃあーー。かわいい。この写真撮った時って、去年の秋くらいだよね。
一年しか経ってないのに、なんか幼く見える。カレってやっぱり昔から
イケメンだよね」
「マジで? ちょっと、あたしにもよく見せてよ。うわーーーーっ、めっちゃ
かわいい。こんなの反則! あたしも吉永に乗り換えよっかなー」
「もう、やめてよ。絵里は津久田先輩でしょ? 吉永はあたしのものなんだ
からね。絵里には渡さない! 」
優花はそんな二人のやり取りを背中で聞きながら、小学校の卒業アル
バムを探していた。そこにはもっとかわいい吉永君が写っているはずだ。
カレはあたしのものだと言って、あんなにも嬉しそうに笑っている麻美に
早く見せてあげたい。
優花は二人に背を向けたまま、胸に手を当てて目をつぶった。
瞼に浮かぶのは、小さかった頃の吉永君の顔。遠足の時、運動会の時。
そして、音楽会の時も、いつだって一生懸命だった、彼の顔。
小学校の卒業式も、中学の入学式も。いつでも彼がそばにいた。
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