そばにいて
6.友の見舞い 1
「優花ったら、意外と元気そうじゃん。安心したよ」
「ほーんと。いつも元気な優花が学校休むんだもの。びっくりしちゃった」
ベッドに腰かけた絵里と麻美が、真ん中に座る優花の顔を心配そうに
覗きながら言った。
「絵里。マミ。わざわざこんなところまで来てくれて、ホントにありがとう」
優花は二人に感謝の気持ちを伝えた後、コホンと小さく咳をするのも
忘れなかった。
絵里と麻美の家は、学校をはさんで優花の家とは反対方向にある。
通学定期のないバス路線を使ってここまで来てくれた二人に、本当は
ずる休みだったの……なんて、口が裂けても言えない。
「いつもの優花でよかった。熱出してうんうん唸ってるのかと思ってた。
だって、昨日いろいろ訊いちゃったじゃない? 吉永のこと、ねほりはほり
ね。優花はあいつのことそんなによく思ってないのに、あたしったら調子に
のって、幼なじみ胸キュン、とか言っちゃったし、そのこと気にして寝込ん
じゃったのかなあ、なんて思ってね。実は責任感じてたの」
そんなの違うよ、絵里は関係ないからと、首をふるふると激しく横に振る。
絵里には全く非はない。悪いのは優花自身なのだから。
「ならよかった。ちょっとほっとしたよ。でさあ、あたし、実は……」
「え? 何?」
「実は、気づいちゃったんだけど……」
神妙な顔つきになった絵里と、きょとんとしている麻美の顔を交互に見る。
そして、麻美の顔をもう一度見た時、急に何かを悟ったかのように目を
見開き、次第に真っ赤になってうつむいてしまった。
「あのさあ、昨日優花が言ってたでしょ? 小学生の時、いろいろ言われて
からかわれたって」
左横でますます赤い顔になっている麻美をよそに、右隣の絵里がいつに
なく真剣な眼差しを優花に向ける。
昨日、今から文句言いに行ってやる、と怒りを露わにしていたあの時の
目とそっくりだった。
「そいつって、もしかして……。吉永のことじゃない? 」
優花の心臓が、ドクッと大きく鳴った。すると麻美も同時に顔を上げる。
麻美も優花と同じで、すでに吉永君の名前を聞いただけで過剰に反応
する体質になってしまったのだろうか。
だから、さっきから真っ赤になっていたのかもしれないと思いいたる。
優花は高鳴る心臓を鎮めるように胸に手を当てながら、相手をズバリ
指摘した絵里にしぶしぶうんと頷いてみせる。
「やっぱりね。じゃあ、そのことがトラウマになって、優花は吉永のことが
許せないんだね」
絵里は一人勝手に納得して、話をたたみこんでいく。
別にトラウマというほどのものではなかった。からかわれたと言っても
ただ変な呼び方をされただけで、叩かれたり陰湿ないじめを受けたわけ
じゃない。
いや、逆に、その頃が今までで一番仲が良かったと思うくらい、優花に
とって穏やかで楽しい日々だった。
ある日学校から家に帰ったらどっちの親もいなくて、ランドセルを玄関
前に置いたまま、二人で隣町の大きな公園に行ったこともあったし、雨
の日に階段の踊り場で、集めていたカードの交換もした。
でもここには、吉永君のことが好きな麻美もいるのだ。彼との過去の
出来事を必要以上にひけらかすのは避けた方がいいに決まっている。
絵里の思い込みに同意するのが賢明な選択なのかもしれないと思い
直した。
「う、うん、まあね。でもね、そんなに仲が悪かったってわけでもないんだ。
わたしだって、結構ひどいことを言い返してたからね。だからおあいこ。
今はなんとも思ってないよ」
「そっか。それならあたしの出番はないってことだね。まあ、子どものこと
だから、ついつい言いすぎちゃうってこともあるか……。でね、優花に
ちょっと頼みがあるんだ。さあ、マミ。今度はマミの番だよ」
絵里はそう言って、麻美にバトンタッチする。
ところがもじもじするばかりで、なかなか口を開こうとしない麻美に
絵里がいら立ち始めた。
「マミ、はやく言いなさいよ。ほら、勇気出して! 」
優花の横を離れた絵里が麻美の向こう側に座り直して、はやく
はやく、とあおりたてる。
「わかった。言うから……」
麻美はカールした長めのまつ毛をふるっと震わせて顔を上げ、ようやく
優花の顔を見た。
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