そばにいて
4.幼なじみの定義 1
優花はついさっきまで、本当に勉強するつもりだった。
将来の夢を実現させるためにも、明後日の全国一斉模試は、何としても
がんばる必要があるからだ。
だが、今日、学校であったことばかり思い出してしまい、問題集は最初に
開いたページのまま進もうとはしなかった。
弁当を包んでいたピンクのバンダナは、しっかりと彼女の手の中にあった。
結び目あたりを持ってくれたのだろうか。それと同時に底の部分にも手を
添えてくれたのかもしれない。
せっかく吉永君が届けてくれたバンダナなのだ。すぐに洗うなんてもったい
なくてできそうにない。
出来ることなら、ずっとカバンの中にでも潜ませておきたいのだが、そんな
ことをしようものなら、母に怪しまれ、あのバンダナどこにやったのと追及
されるのがおちだ。
ならばせめて今夜だけでもバンダナを眺めながら彼を思っていたい。
優花はバンダナをそっと膝の上に置いて、引き出しから二つ折になった
オレンジ色の鏡を取り出した。
問題集を机の隅に寄せ、鏡をセットする。小さい子がするみたいに前髪を
ゴムでくくって、真ん丸な顔を映してみる。
うーーん。本当にこれがクラスで1,2を争う素材なのだろうか。
目はそんなに大きいわけではない。妹の愛花の方がくっきりとした二重で
ずっと大きな目をしている。
唇も絵里のようにプルプルしていないし、顔の大きさも妹の愛花の方が
小さく色も白い。
絵里にも愛花にも敵わない。何もかもが標準的な普通の顔だ。そんな
何の取りえもない自分の顔ではあるが、鼻だけは気に入っている。決して
高くはないけど、形はまあまあいい方ではないかと思う。
両手の人差し指と親指を上下の瞼にあてがって、目を大きく開いてみたり
唇を前に突きだしてみたりとあれこれやってみても、急に絶世の美女に
なれるわけでもなく。
やっぱり絵里は、大げさすぎる。ただ慰めてくれただけなんだと改めて
思い直し、バタっと鏡を閉じた。
絵里は二学期中にカレシを作るんだと、声高らかに宣言した。
今年のクリスマスこそは、彼とロマンチックに過ごす予定だと
うっとりとした目で夢を語る。
そして彼はお姉さんがうらやましがるくらいかっこいいのが理想で
自慢してお姉さんに勝つのが目標らしい。
素敵な人に振り向いてもらうには、もっと女の子らしくなる必要が
あると、真面目な顔をして語る。
グロスをつけて常に女性であることを意識するように心がけている
と聞いた時、絵里の尋常ではない決意表明に驚くばかりだった。
絵里にはすrwにお目当ての先輩がいて、待つばかりでなく自分から
告白するのもアリとまで言ってのける。
さすが、絵里! と拍手喝采で彼女の勇気を讃えたのだが、優花
自身はどうだろうと自問自答してみる。
やはりどう考えても答えはひとつ。無理だ。吉永君に告白するなんて
ことは、どう考えても出来そうにない。
愛花と一緒に家のリビングでクラッカーを鳴らして、フライドチキンと
ケーキを食べて過ごす定番のクリスマスが一番落ち着くんだと自分に
言い聞かせている。
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