そばにいて

 

3.真澄ちゃん  2

 

 「ねえ、優花。聞いてるの? 」

 「んもうっ。しつこいなあ。真澄ちゃんのことなんか、わたし何も

 知らないんだってば。だってね、わたしたち、中学の時からずっと

 話もしていないんだよ。だから……」

  そうは言ったものの、直後に重大なことに気付いた。

  そうなのだ。今日、久しぶりに彼としゃべったのだ。ほんのちょっと

 だけだが、会話したことには違いない。

  三年半ぶりの快挙に気を良くした優花は、よっしゃっ! と膝の上で

 こぶしを作って気合と共に固く握りしめる。

 

 「だから? 」

  尚も背中を向けたまま、母親が続きを知りたがる。

 「だから、真澄ちゃんのことは、本当に何も知らないんだってば。

 それと、ちゃんとお礼は言ったから」

 「それならよかった。必要最低限の会話くらい交わしなさいよ。

 本当に、変な子ね」

 「これから先、もしわたしが何か忘れ物をしても、絶対に真澄ちゃんに

 こと付けないでね。真澄ちゃんににらまれるくらいなら、先生に叱られる

 方がましだよ」

 「あらまあ……」

 「真澄ちゃんだって、母さんが困ってるだろうからって、嫌々、自分が

 届けるって言ったんだって。そうに決まってる」

 「そうかな……。そんな風にはちっとも見えなかったけどね。低い落ち

 着いた声でゆうちゃんの席は斜め前だからすぐに渡せます、とか

 なんとか言ってたわよ。にっこり笑ってね」

  はじめの第一歩のゲームの時のように、急に振り返った母が、何か

 含みを持たせたような笑みを浮かべながら言った。

  それも、ゆうちゃん、というところをやたらと強調しながら。

  まさかとは思うけど、本当に吉永君が優花のことをそう言ったのだろうか。

  優花はがくっとうな垂れて、ないない、ありえない、と首を横に振る。

  記憶のページをめくってみても、小学校四年生くらいの時にゆうちゃんと

 呼ばれていたのが最後だと思う。

  その後は、ブサイクブッサーとか、ブス花としか呼ばれなかった。

  中学生になったらそんな軽口すらも言わなくなって、結局何も話さない

 まま昨日まで過ごしてきたのだ。

 

  ということは。これは、何としても吉永君のネタを引きだそうとする母の

 作戦なのかもしれないと思いいたる。もう少しでだまされるところだった。

  優花はおもいっきり不機嫌そうに顔を歪めて、その手にはのりませんよ

 と母に悪態をつく。

 「母さん、お願いだから、もう二度とわたしの前で真澄ちゃんの話はしない

 でね。今から宿題と模試の勉強してくるからっ」

  そして、これみよがしにスリッパの音を大きく立てて自分の部屋に向かい

 力任せにバタンとドアを閉めた。

 

 

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