姫は口を閉めた状態から息を入れた。
あまり上手くは出来てないが、音が鳴った。
「鳴ったじゃないですか!! 今度は口を横に引いてやるんです」
難しい注文をしてしまったが、きっと出来ると確信した。
「おぉ… 分かった」
あまりに唐突のことに姫(?)は驚いたが、それでもやってみたら音が鳴った。
これならすぐ吹けるはずだ……
「では、楽器で吹いてみて下さい」
俺はトランペットを持ち方を教えながら渡した。
絶対出来る そんな確信が俺にあった。
「では、ゆくぞ…」
姫(?)はトランペットを構えて俺に合図を出した。
部屋に緊張が走る…

姫が息を吸ってトランペットを口に当てる。
俺は息をのんだ…

『パーーーーン』

二人でお互いの顔を見た。
そして喜ぼうとしたとき……
「市よ、凄いではないか」
後ろから覇気のある声が聞こえた。
そして後ろを見たとき、とにかくその人物が危ないことがすぐに気づいた。

「兄様……」
市と呼ばれた人も驚いている。
でもなんだか嬉しそう。
「そしてそこにいるお前!」
「はっはい!!」
唐突に呼ばれて焦った。
まさか、とらえて牢屋に入れる気か!?
「我が軍で演奏して軍の士気を上げてもらえぬか?」
まさかだった。 軍楽隊になる話もそうだが、捕らえられなかった。
「軍楽隊ですか!?」

「嬉しくないのか? 我が織田軍の軍楽隊になることが」
オ、織田軍!?
こんな時代にまず軍があるのか!?

「はぁ、やっと見つけた…」
俺は大変不運らしい。
今このカオス空間に憑神が来てしまった。
「わ…分かったよ…」
俺は仕方なくたなばたを吹き始めた。
 
♪~♪~
 
しばらく吹いているとノってきて、だんだん本調子で吹けるようになった。
「ほぉ、なんと面妖な…… どうやって音を出しているのだ?」
どうやらこの人は金管楽器を知らないらしい。
現代人でトランペットを知らないのは珍しいしな……
「知らないのですか?」
「当たり前よ。 そんな音のする楽器、聞いたことがない」
さらっと言った。
本当に知らないのか……
「では教えましょう。 これはトランペットという楽器で、唇の振動を音にするのです」
俺は得意げに教え始めた。
俺はやるのも教えるのも好きだからね。
「唇の振動を? どうやって?」
「では見てて下さい」
俺は楽器なしで唇を震わせた。
「ブルルルルルルル
次にマウスピースを当てる。
「ブー~~」
最後にトランペットに差し込む。
♪~~♪~♪~
「おぉ!  面白いではないか!! わらわにもできるかのぅ!」
少々言葉遣いが古いが、俺と姫(?)は同世代らしい。
年が近くてよかった。
 
「ちょっと待って下さい…… 口紅を付けていますか?」
口紅が付いていると、後で洗うのが面倒になるから貸したくないんだけどなぁ……
まぁ、後で入念に洗えばいいんだけどね
「あぁ… 落とした方がよいか?」
わざわざ落とさなくてもいいのだが……  どうしようかなぁ……
「別に気にすることはないぞ?
わらわに気にしていては何もできないからな」
そういうとあぶらとり紙で口紅を拭き取った。
ティッシュで取ればいいのに………
 
「さぁ、わらわに吹き方を教えてくれ!」
目を輝かせて手を伸ばしてきた。
なんだか子供のように思えてきた。
「いいですか? まず口にマウスピースを付けて、その中に息を通してみて下さい」
マウスピースを取って姫(?)に渡した。
「こ、こうか?」
姫(?)は口にマウスピースを当てて息を入れた。
しかし、スカーとした音しか鳴らなかった。
「ならもっと前の段階からやりますか」
「……そうだな。  これ以上やっても鳴らそうにないからな」
「ではマウスピースを取って唇を震わせてみて下さい」
姫は口を閉めた状態から息を入れた……
 
………

光が引くと、場所は変わっていた。
ここは……和室?
「どうやら着いたみたいね。では、話を続けるね」
俺はまだ場所が把握できずにいた。
一体、ここは何処だよ……
「私達は物に憑く神様で、憑いた物の持ち主にいいことを一つするんだ。
例えば、トランペットからすごく綺麗な音色を出したり、吹奏楽コンクールで金賞に導いたり
でも、そんなことをしている暇はなくなったの…」

話を聞くと、この憑神は本物らしい。
「私たちの先代、憑神の起源の命が危ないの…
お願い!! あなたの力で先代を助けて!!」
「えぇ!? 俺は医者じゃないんですよ!? どうやって治せと……」
確かにそうだ。 俺は医者ではない。
しかし、ここは何処なんだろぅ……

「簡単じゃない! あなたのトランペットを使うのよ!!」
と、トランペットで治す!?
聞いたことがないし、そんな程度で直るなら俺を呼ぶなよ……
「どうやって!?」
「私があなたのトランペットに力を加えて、あなたが癒しの歌を吹くの。
癒しの歌は今教えるね」
憑神は癒しの歌と言うのを歌い始めた。
ん? どこかで聞いたことあるぞ?
「それたなばたじゃないか!」
たなばた。 The sevens night of julyと言う名前の吹奏楽では有名な曲。
「確かそんな名前であなた達は演奏していたね。 ならすぐに吹けるでしょ?」
出来なくはないが、すぐできるか分からない。
しかも、先代の老人が何処にいるかも分からない。
「まぁ、出来なくはないけど……」
俺はお茶を濁しながら責任から逃れていった。
これで生き死にが決まったら俺がどうなるか… 想像しただけで怖い。
「分かったよ。 今運んでくるから練習していて」
憑神は急いで先代を呼びにいった。
今更気づいたが、なんで服を着ているんだ?

俺は呼びにいっている間、七夕を必死に思い出しながら練習していた。
メロディーは分かるのに指が分からないとかあったが、憑神が来る前に全部吹けるようになった。
さぁ、いつでも来い!

………

いつまで立っても来ない。
一応練習していたが、もう5周もしたのに来ない。
「憑神さん? 何処にいますか?」
俺は待ちきれず探しに行った。
ついでにトイレに少し行きたい。

中を散策すればするほどここが何処かの城に思えてきた。
中庭から、部屋の一つ一つまで……

「あら、見かけない顔ね… 何処から来たのかしら…」
横の部屋からいきなり声が聞こえて驚いた。
焦って横を向くと、貝を並べて貝並べをしている着物を着た女性がいた。
「あぁ、そのぉ……」
俺は何も言えず黙り込んだ。
瞬間移動で来ました!なんて言えるわけがないし、第一ここが何処なのかすら分かっていないんだから、何も言えない。
「まぁ、いいか… ちょっと相手しておくれ 退屈していたから」
理不尽な理由で相手をしろと言われた。
俺は探さなくちゃいけないのに……

「憑神はしばらく帰ってこないよ。 あの箱は結界の中にあって取りに行けないから」
!? こいつ、憑神を知ってるのか……
「そうねぇ… その黄金の筒、鉄砲じゃなさそうけど… 何かやってよ」
おっといきなり鬼振りが来たぞ!?
何かって…… 演奏しか……
「何もしないと…… 人を呼ぶわよ。 『くせ者よー』ってね」
俺は大きく動揺した。
ただでさえ意味不明なのにこれ以上パニックにしないでくれ!!
「わ…分かったよ……」
俺は仕方なくあの曲を吹き始めた……