横尾忠則 ワーイ!★Y字路 | 温室メロンの備忘録

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JR灘駅にて下車。摩耶山に向かって、坂を登ること10分で美術館に到着。

横尾忠則現代美術館 Y+T MOCA


正午を少し過ぎたところ。予想通り見学者は少なく、ゆったりと見学できそうだ。


横尾忠則 ワーイ!★Y字路展


2015年に開催された「横尾忠則 続・Y字路」を補完する展覧会なのだそう。前回が2006〜15年の作品だったのに対し、最初期(2000〜2005年)と直近(2016年〜)の作品が展示されている。


4階でキュミラズム・トゥ・アオタニに感動した後、3階に下りる。このフロアと2階が企画展エリアのようだ。


例によって気になる作品をピックアップし、年代順に並べ替えておく。今回全てがY字路の構図だったので、かなり工数が掛かった。


2000年
「暗夜光路 N市-0」


西脇市岡之山美術館にて開催された「横尾忠則 西脇・記憶の光景展」のために制作された「暗夜光路」。ここが全てのY字路の起点だ。


ただ本作はY字路ではなく一本道。この先に様々なY字路と出会うことを予感させる。


「暗夜光路 N市-Ⅰ」


「暗夜光路 N市-Ⅱ」


この「N市-Ⅱ」はシリーズになっていて、


「暗夜光路 N市-Ⅱ ふたたび」2002


「ふたたび」は、オリジナルの模写。


「暗夜光路 N市-Ⅱ 三度(みたび)」2002


「三度(みたび)」では雨のY字路が描かれている。ちなみにもう1作「四度(よたび)」も展示されていて、そちらはさらに激しい雨の光景だった。


2001年
「無題」


デ・キリコ、ユトリロ、マグリットの模写がY字形に展示されている。画家としての原体験的な存在なのだそう。原美術館「横尾忠則作 暗夜光路」展のために制作。


暗夜光路 床と薔薇」


展示の際には、赤い部屋、赤いライトによる演出がなされたのだそう。左上のパターンは、原美術館のフローリングらしい。映り込んでいる体で描かれたのだろうか。


「暗夜光路 光と闇の帝国」「暗夜光路 新・光と闇の帝国」


「小泉政権」をテーマに描かれている。左が光で右が闇。現実はそれほどデジタルに割り切れるものではないが、大きな岐路だと考えられていたのだろう。シュールレアリスムの画調に描くことで「劇場型」感が伝わってくる。


「2001年9月11日」「眠れない街」


左の作品はアメリカ同時多発テロをモチーフにした作品。解説によると、その時に制作途中だった作品を、崩壊した様子だと捉え、そのまま日付を書き込み完成としたらしい。


全般的に、2000年の「暗夜光路」とは違い、何らかのメッセージを見て取れる作品が多い。それに応じて使用する色や技法も多彩になっている。


2002年

「交差の歓び」


アメリカンな画調の作品。



都現美と広島市現代美術館で開催された「横尾忠則 森羅万象」展のために制作された作品群。カラフルかつダイナミックな作品なのは、今回は他人の撮った、自分とは無関係な土地だからとの説明があった。


「本性の模写」「朱い水蒸気」


両作品ともに、後期印象派的な画調で描かれている。「暗夜光路 N市-Ⅱ三度」もそうだが、雨のY字路作品は好きだな。


「世俗の闇」


右上と左下に岡本太郎画伯の作品が描かれている。タイトルの「世俗の闇」と関係するのだろうか。画調はキュビスム的。



「実生活の虚実」個人蔵


こちらにも太郎画伯の作品が描かれている。タイトルは「実生活の虚実」。どうやらディスりたいのは間違いなさそうだ。太郎画伯も先人達をディスっていたので、まあお互い様なのだろう。


2003年


「トワイライト・タイム Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ」


デ・キリコ調のY字路。


「メランコリー」


同じく。人が登場してさらにシュールに。


「絶景かな絶景かな」


Y字路を開いた脚に見立て、この風景を絶景として股のぞきで眺めているイメージなのだろうか。本作の分岐は光と闇でなく、両方とも光に向かっている。珍しく完全ポジティブな作品だ。この絵を描いた背景なり、モティベーションが知りたくなるのは、やはり自分はソムリエ型かな。


2004年

「宮崎の夜 Ⅱ,Ⅰ」


両作品のタッチは違うが、どちらも光と影のレンブラント的画調で描かれている。


「宮崎の夜 - 台風前夜」


この後の2006年以降は、ポップでサイケな昔の画伯らしいY字路が制作されたようだ。


2016年

「At Box Roots」

(出典: 彫刻の森美術館HP 撮影: 木奥惠三)


撮影不可だったが興味深い作品なので、彫刻の森美術館のホームページから引っ張ってきた。


まずタイトルはBox=箱、Roots=根で「@箱根」というベタなもの。森美術館のコレクション7点と、ピカソ館が描き込まれているY字路。いい加減さが良い加減だ。


解説にもあったのだが、Y字路はある意味座りが良い。真ん中に建物と、2つの消失点。この座りの良いフレーム上で、素材を思うように料理すれば作品として成立する。ミルクボーイの漫才のようだ。


2018-19年

「ギルガメッシュとMP」「回転する家」「Last B29」


真ん中が2018年、左右は2019年。打って変わって重苦しいモティーフの作品群。B29やMPと不安定な中央の家。戦争の記憶が甦ったのだろうか。



なぜか「回転する家」の下部に、画伯の記事のコラージュが。内容を読んでみたが、その意図が汲み取れない。


Y字路という1つの構図を用いて、様々な日常の断片を切り取り、先人達の生み出した種々の画調から選択して採用することで、よりメッセージ性を際立たせている。多彩と言うのか、自由と言うのか、美術史の集大成的画風の画家だと感じた。


【追記】

やはり2006〜2015の作品が観たい。

ということで、早速注文しておいた。