小説「壁」第五話 | 森本オレオの落書き帳

森本オレオの落書き帳

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目が覚めるとゆきえはテーブルに料理を運んでいた。

眠っていたのはほんの十五分程度だった。

おはようとゆきえは言った。

それから僕とゆきえはテーブルにつき、テレビも音楽もつけず食事をした。

テーブルには和風パスタとほうれん草のごま和えと、水の入ったグラスと缶ビールが置いてあった。

僕もゆきえもあまり酒を飲むほうではないし、僕ももう飲みたくなかったのでビールには手をつけなかった。

ゆきえに明日は仕事なのかと聞くと、休みよと言った。

あなたは仕事よねとゆきえが言い、そうだよと僕は言った。

今日も料理がおいしいねと僕が言い、ありがとうとゆきえは言った。

食事を終えると僕は二人分のコーヒーを入れ、その間にゆきえがケーキを用意した。

本当だ、君の店の苺のミルフィーユはおいしいねと僕は言い、そうでしょとゆきえは言った。

コーヒーの香りが部屋を満たしていた。

さっきの夢の話はしなかった。

食事を終えるとゆきえは帰ると言った。

仕事のことなら大丈夫だよ、今夜は本当に傍にいてほしいと僕は言った。

分かったわとゆきえは言った。

その晩僕はゆきえの存在を確認するように――つまり僕の存在を確認するように――ゆきえをしっかりと抱き寄せて眠った。

朝起きるとゆきえはいなかった。

もう帰ったのかと思いベッドから出た。

テーブルの上には一皿ずつきちんとラッピングされた朝食が置いてあった。

ラップの内側が蒸気で白くなっていた。

皿の中身はベーコンエッグと温野菜のサラダとロールパンだった。

コーヒーメーカーには新しいコーヒーが作られていた。

そしてコーヒーカップを重石にするように手紙が置いてあった。

そこにはゆきえのきちんとした字でさようならと書いてあった。

部屋は昨晩よりも悲しさを含んだコーヒーの香りで満たされていた。

僕はとりあえず気持ちを落ち着かせるために水を飲み、ゆきえが入れてくれたコーヒーをふたくち飲んだ。

そしてテーブルにつき手紙をじっくりと見てみた。

紙の上の五文字からは迷いは感じ取れなかった。

僕はひどく混乱してまたコーヒーをひとくち飲んだ。

そしてサラダとパンとたまごを交互に食べ、最後にコーヒーを流し込んだ。

もう一度手紙を眺めてみたが、やはりそこには閉鎖的なものしかなかった。

ずっと手紙を眺めているわけにもいかなかったので、支度をして仕事場に向かった。

手紙は持っていかなかった。