小説「壁」第四話 | 森本オレオの落書き帳

森本オレオの落書き帳

小説などを置いています。

夢の中で僕は地面を掘っていた。

既にグラウンドの半分以上に穴が開いていた。

僕の斜め後ろにいるゆきえが「何してるの?」と言った。

僕はそれを無視して――というか声が耳に入っていないのだ――地面を掘り続けていた。

地面を全部掘ってしまうと、手に持っているスコップをきつく握ったままグラウンドを出た。

そこを出ると僕は白くて強い光に包まれた。

光がなくなると僕は昼間の僕になっていた。

ただひとつ違うのは、右手に土だらけのスコップをきつく握っていることだ。

僕は美容部員の彼女かもしれない女めがけて走り出した。

彼女を人ごみで見失わないように、僕はスコップを左右に振りながら走った。

道を歩く人達がマネキンのようにどさどさっと倒れていった。

倒れるとそれらは本当にマネキンになった。

夢の中でも彼女に追いつけそうになかった。

彼女の通るところだけスケートリンクになっていて、スケート靴を履いてすいすい滑っているんじゃないかと思うほどだった。

それでも僕は彼女を追った。

どうしても顔を確かめたかった。

角を曲がるとあの神社があり、彼女はお参りなんかせずに境内を抜けて裏道へ入っていった。

僕は賽銭箱にスコップを突き刺して彼女を追った。

神社を抜けるとそこは僕の住んでいるマンションだった。

彼女は明らかに僕の部屋のほうへ歩いている、と思った。

部屋の前に行くとドアが微かに開いていた。

やっぱ彼女が入ったんだと思った。

そして僕も部屋に入った。

部屋に入ると熱気で香水の濃度が上がっていたので――それは粒子がバレーボール大に大きくなり手に取れそうな匂いだった――ドアを明けっ放しにし、部屋の窓という窓を全部開けた。

僕は匂いを処理するのに夢中で彼女を忘れていた。

それほどすごい匂いだったのだ。

最後の窓を開け終えたとき、壁を隔てて何か乾いた音が聞こえた。

それは確かに誰かがソファに座る音だった。

僕はなるべく音を立てずにそこへ向かった。

そこにはあの女が座っていた。

だが顔には口以外のパーツはなかった。

女は、いや女の口は何かを言っていた。

正確には声は出さず口だけを動かしていた。

そこには声がない分、確かな意思があり訴えるものがあった。

女はこう言っていた。

どうしてあれを捨ててきたの、と。

そして女は匂いのする壁のほうへ歩き出し、壁の中に消えていった。

僕はそこで目が覚めた。