夢の中で僕は地面を掘っていた。
既にグラウンドの半分以上に穴が開いていた。
僕の斜め後ろにいるゆきえが「何してるの?」と言った。
僕はそれを無視して――というか声が耳に入っていないのだ――地面を掘り続けていた。
地面を全部掘ってしまうと、手に持っているスコップをきつく握ったままグラウンドを出た。
そこを出ると僕は白くて強い光に包まれた。
光がなくなると僕は昼間の僕になっていた。
ただひとつ違うのは、右手に土だらけのスコップをきつく握っていることだ。
僕は美容部員の彼女かもしれない女めがけて走り出した。
彼女を人ごみで見失わないように、僕はスコップを左右に振りながら走った。
道を歩く人達がマネキンのようにどさどさっと倒れていった。
倒れるとそれらは本当にマネキンになった。
夢の中でも彼女に追いつけそうになかった。
彼女の通るところだけスケートリンクになっていて、スケート靴を履いてすいすい滑っているんじゃないかと思うほどだった。
それでも僕は彼女を追った。
どうしても顔を確かめたかった。
角を曲がるとあの神社があり、彼女はお参りなんかせずに境内を抜けて裏道へ入っていった。
僕は賽銭箱にスコップを突き刺して彼女を追った。
神社を抜けるとそこは僕の住んでいるマンションだった。
彼女は明らかに僕の部屋のほうへ歩いている、と思った。
部屋の前に行くとドアが微かに開いていた。
やっぱ彼女が入ったんだと思った。
そして僕も部屋に入った。
部屋に入ると熱気で香水の濃度が上がっていたので――それは粒子がバレーボール大に大きくなり手に取れそうな匂いだった――ドアを明けっ放しにし、部屋の窓という窓を全部開けた。
僕は匂いを処理するのに夢中で彼女を忘れていた。
それほどすごい匂いだったのだ。
最後の窓を開け終えたとき、壁を隔てて何か乾いた音が聞こえた。
それは確かに誰かがソファに座る音だった。
僕はなるべく音を立てずにそこへ向かった。
そこにはあの女が座っていた。
だが顔には口以外のパーツはなかった。
女は、いや女の口は何かを言っていた。
正確には声は出さず口だけを動かしていた。
そこには声がない分、確かな意思があり訴えるものがあった。
女はこう言っていた。
どうしてあれを捨ててきたの、と。
そして女は匂いのする壁のほうへ歩き出し、壁の中に消えていった。
僕はそこで目が覚めた。