Well to Wheel
(「井戸」から「車輪」まで)
10年以上前から石油資源枯渇の話題が出る度に、やれ電気自動車だの燃料電池だのと騒がれてきた。だが、自動車関連の技術誌では必ず上記の言葉が語られていた。
たとえば電気自動車。
わずかな電気でも長い距離が走れるとすればそれはすばらしいことだが、残念ながら現在はまだおどろくほどすばらしい電費(通常の「燃費」という言葉に対して、電気自動車=EVの場合は、そのエネルギー変換効率を「電費」と呼ぶ)にはなっていない。そしてその電気を生み出すために使っているエネルギーがどれだけあるのかをきちんと把握した上で優劣を語る必要があるという事だ。
直接電気から動力を得るという意味において、自動車自体がCO2を排出しないから環境に優しいというイメージだけが先行している気がする。
最近、話題の燃料電池だってそうだ。今はもっぱら水素そのものを燃料として使う方式がメインのようだがその水素をどうやって作り出すか、その際のエネルギー効率がどうなるかという観点が(少なくとも世間一般にむけての広報活動では)抜け落ちているのが気になる。
水素元年などともてはやしている記事を見るたびに、わかってないな-と思って居た。ところがここに来てようやく水素をどうやって作るのか、そのためのエネルギーは?という部分に目を向ける記事を見かけるようになってきた。
通常、水素は天然ガスから生成されて作り出されることが多い。シェールガスなんてのもあるが、どちらにしてもなんらかの生成過程を経ないと純然たる水素たり得ないのは、ちょっと考えればわかることだ。石油や石炭のようにそのままの形でどこかに埋蔵されているものではない。
だから、トータルのエネルギー効率をきちんと議論して欲しいと思う。目先の「エコ」のイメージに振り回されている気がする。もっとも政府はそのイメージを政略として取り込んでいるからやっかいだ。政府はと書いたが、とどのつまりは政治家のセンセーたちが自分が得をするために、そのイメージをうまく利用しているだけだ。
そもそも「エコカー」とひとくくりに言われてしまうが、車好き、メカ好きの人以外は違いがわかっていないのでは無いだろうか?
エンジン(というか動力源)に関連する言葉で分類するとこれだけある。
1、ハイブリッド
2、PHEV(プラグインハイブリッド)
3、EV(電気自動車)
4、過給器付きダウンサイジングエンジン
5、ディーゼル
6、FCEV(燃料電池車)
日本では今やプリウスに代表されるハイブリッドカー花盛りである。オイラが乗っているブリ男だって、いちおうハイブリッドに分類されるモデルだ。
アメリカのテスラというところのEV(電気自動車)がしばらく前から話題になっている。その性能やスタイルなどが優れているからだ。
かたや日産の電気自動車リーフは日本では今ひとつパッとせず、ハイブリッドの後塵を拝している。いや後塵すらかぶらないほど差があると言っても良い。
さらに10年ほど前にはずいぶん騒がれた燃料電池車。ま、これも動力源がモーターのみみという意味では電気自動車の一種である。テスラやリーフとの違いは、電気をため込んでおいて走るか、自分で電気を作りつつ(当然ためることもするが)走るかの違いだ。
トヨタが燃料電池車を発売して話題になった。受注もかなりの台数になっているようだ。
ニュース番組などでキャスターが試乗・運転して、「これ普通の電気自動車と変わらない性能です。」とレポートするのを見て、
ああ、こいつなにもわかってないな-
と思ったものだ。
外車に興味のある人は「ダウンサイジング」という言葉を聞いたことがあるだろう。車格に対するエンジンの排気量を従来よりも小さいモノにして負荷の小さい通常走行時の燃費を向上させるという考え方だ。そしてフルパワーが欲しいときのために、ターボチャージャーやスーパーチャージャーという過給器をつけるのが一般的だ。
そしてヨーロッパではエコカーとしては標準だった、ディーゼルエンジン搭載の乗用車がここに来て日本でもにわかに注目され始めた。マツダが大衆エコカーのデミオに搭載モデルを発売するからだ。
ちなみにディーゼルエンジンというのはガソリンエンジンに比べてエンジン自体の燃費が良い。ただし、同じ排気量ならば最大馬力ではガソリンには及ばない。ガソリンと軽油の熱量の差だからこれはいかんともしがたい。
ま、理屈はいろいろあるが書くのが面倒なのですべてがさっと割愛する。
バキッ!!(-_-)=○()゜O゜)アウッ!
・・・ってな訳で、方式はなんでも良いんだが、元々の目的はエコロジーである。(エコノミーでもあるが。)
要するに枯渇が懸念されている石油燃料を如何に使わないで済ますかということだ。その上で大気汚染物質を排出しないものが優先される。だから太陽光や風力などの再生エネルギーでの代替を目指すものや、エネルギー変換効率を高めて化石燃料の消費量を抑えようというアプローチがある。
たとえばハイブリッドではエンジンをできるだけ効率の良い運転条件で回しておいて、急加速などでプラスアルファのパワーが必要なときはモーターの力でそれをアシストしてやる。低負荷の時はエンジンを止めて、電池にためておいた電気を使いモーターだけで車を走らせることもできる。これがプリウスやアクア。そしてホンダのハイブリッド。
これに対して走行はすべてモーターに頼るがその電気の源を生むためだけにエンジンを積んでいるものもある。エンジン=動力源 ではなく、発電機としての使っているわけだ。
夜店で回っている発電機をイメージしてもらえば良い。動力用のエンジンのように回転数の変化やアクセル開度に応じた出力の制御というものは基本的に要らず、常に一定の回転数で発電し続けてその電気は電池に一時的に蓄えてやればいいわけだ。こうしたタイプのエンジンはレンジエクステンダーと呼ばれる。要するに航続距離延長用発電機というわけだ。
車はというと発電機をつんだ電気自動車と言うことになる。
通常の電気自動車は言うまでもなく燃料タンクの代わりにでっかい電池を積んでいると思ってくれればいい。その電気をどうやって作るかという問題と同時に、自走する車両としては燃料(電気)の補充をどうするのかという問題がある。
燃料電池車というのは、でっかい電池を積むにも容量的に限界があり、長い距離を走れるだけの電気をため込めない。だから、自分で発電するハイブリッドがあるのだが、そこでガソリンを使いたくない。CO2を排出してしまうからだ。そこで燃料電池の登場だ。
誤解を恐れずにひと言で言えば、燃料電池という化学物質は水素と酸素を取り込んで反応させる際に発電する性質を持つ。
2H2+O2=2H2O
という化学反応式を思い出してもらえば理解できるとおもう。昔、理科の時間に水の電気分解を経験したことがあるはずだ。
水(H2O)に通電することで水素(H2)と酸素(O2)に分解するのだが、燃料電池はその逆の化学反応を起こすものだと理解して欲しい。
そして結局はモーターで走らせるので電気自動車に分類されるわけだが、最近の燃料電池車が従来の電気自動車とひと味違うのは、基本的に発電した電気をそのままモーターに供給していると言うこと。つまり、運転状態に応じてモーターが要求する電気が増減するわけだが、それをリアルタイムで発電量のコントロールで対応すると言うことだ。燃料電池に送り込む水素の量で調節するらしい。(もちろん電気をためておくバッテリーも積んでいないわけでは無いようだが、容量は小さなものとなっている。)
問題は水素と酸素をどうやって供給するかと言うこと。
水素は強烈な可燃性ガスだ。爆発性と言い換えてもいい。
だから車両に積むには安全性に配慮した丈夫なタンクが必要になる。水素を吸着する金属でタンクを作る構想などもあるが、貯蔵量と重量などの面で課題が多い。現時点では液化水素が唯一の現実的選択肢となりつつあるようだ。
かつてはパソコン電源用などとして、アルコール改質タイプの燃料電池の研究も盛んだったが、最近はあまり訊かなくなった。アルコールはCmHnという化学記号で表せるように、炭素を含んでおり、アルコールを分解して水素(H2)を生成する段階で、炭素(C)は酸素と結合する形で分離することになる。
すなわち、二酸化炭素(CO2)であり、地球温暖化ガスと悪玉視されているものを排出してしまう点がイマイチなのだ。
まあ、そんなわけでトヨタの燃料電車(FCV)の受注が好調のようだ。果たして10年後の交通社会はどのように変わっているかが楽しみだ。