エンジン形式と振動バランス・その2 | 木馬の四方山ばなし

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趣味の話や日々の出来事を中心に何となく、自己満足のためにつづっていくブログです。

お友達のKATOさんから、リクエストがあったのでもう少しだけ・・・・


(質問はするなって書いたのに・・・それにR5はタイプするのが大変なんだってば・・・・・ぶつぶつ)


90°V2エンジンでは、クランクシャフト全体のカウンターウエイト・アンバランス量を1気筒分の往復部重量と同じにすることで、理論上、1次の慣性力振動はゼロになる。
おまけにシリンダが前後に開く分、前後シリンダのオフセット量を小さくでき、コンロッドを隣り合わせに並べて配置することができる。
すなわちエンジン幅を狭くできるメリットがある。(独立したクランク室が必要な2サイクルでは無理。クランク室を共有できる4サイクルならではのメリット)

但し、直2よりは絶対値はちいさいとは言え、Vバンクの中間線の方向に2次の慣性力振動はでる。
また、コンロッドのオフセットの分だけのカップル振動もでる。しかし、これらは比較的小さい値で済むため、V2ではバランサーを付けずに済ませ、より、コンパクトに出来るというのが特徴であり、メリットである。
ホンダのVT系のエンジンやドカティの90°Vツインがまさにこれの代表格である。





直列(並列)ともV型とも似て非なるものとしては、タンデムツインというのもある。
その昔のカワサキKR250(2サイクル)なんかが採用していた。

これは単気筒を二つ縦に並べて、クランクシャフト同士はギアで連結して互いに逆回転させるもの。
各気筒において往復部重量と同じカウンターウエイトを持たせることで1次の慣性力はゼロになる。クランクを互いに逆に回すところがミソ。
ちなみに2次慣性力は残る。
また前後のシリンダをオフセットさせずに、まっすぐ並べるとカップルモーメントもゼロに出来る。
V2以上ににエンジン幅を狭く出来るメリットがある。

2サイクルの場合には、独立したクランク室があるので、V2は直2と同じクランク幅になってしまうが、タンデムツインはほぼ単気筒と同じ幅で済む。



しかも、高回転、高出力に有利といわれるロータリーディスク方式の吸気を持つ場合には設計自由度が上がる。
(直列2気筒でロータリーディスクを採用しようとすると、左右からそれぞれ吸気をいれる必要があり、幅が広くなるし、第一、吸気系が複雑になる。レーサーならまだしも市販車ではエアクリーナーをそれぞれに付けるか、長~くしなければならない。
これに対して、タンデムならば、同じサイドから吸気をいれられるし、キャブも2連タイプで済む。)



より大排気量のTZ750スクエア4といって、タンデムツインを横に2個並べたエンジン形式を取っていたのを知っている人はいるだろうか?

2輪レースの世界ではさすがに走っているのを見たことはないが、エンジンだけは見たことがある。
90年代に入ってもヨーロッパラウンドでは、
サイドカーレースがWGPと並催されていたが、使われていたのはヤマハのTZ750のエンジンだったからである。
日本人選手では熊野さんが活躍していたのをおぼえている人も多いはずだ。



タンデム形式のエンジンが現在ほとんど無くなったのは、4サイクル化がすすんだためである。
ロータリーディスクはもちろん、ケースリードやピストンリードなら、吸気/排気の設計も成立するが、4サイクルとなった時点でカムシャフトの本数が増えるとか、駆動方式が複雑になるなどのデメリットの方が多くなる。
もっとも独立したヘッドとカムシャフトを持たないといけないと言う意味ではV型も同じだが、4サイクルV2はエンジンの幅が
『単気筒+「コンロッドの幅」』程度に押さえられるというメリットがある。

いずれにしても2輪のエンジンでは特にそうだが、「如何にちいさく軽く」するかが最優先事項である。

だから、気筒数やシリンダの配置を工夫することで互いにうまく振動をうち消しあって、バランサーが要らなくなるようなエンジン形式が大昔から模索されてきたのである。



おまけ・その1
90°ツインではクランクが横置きの場合はフロントシリンダーがタイヤと近くなるため、エンジンの搭載位置が後ろに下がる傾向がある。
これを嫌ったのが、狭角Vツインである。

ボクの持っているパリダカール・レプリカのアフリカツインもそうだ。
Vバンクの角度が90よりも狭く設定されている。
しかし、そのままでは1次振動をキャンセルできなくなってしまうので
クランクピンを前後バンクで独立させて位相差を付けてあるのだ。
つまり、
『実際のVバンク角+クランクピンの位相角=90°』となるようにすることで、1次振動をキャンセルしつつ、エンジンの前後長さを短くして搭載位置の自由度を確保したのだ。
もっともその狭いVバンクの間にキャブが押し込んであるのでとてもじゃないが外してメンテする気になれないのだが・・・・(爆)


おまけ・その2
昨年のMotoGPチャンピオンマシン・ホンダの
RC211Vは90°よりも狭い角度のV型5気筒である。
両側の2気筒ずつは同じクランクピンにコンロッドを取り付け、真ん中の気筒だけは独立したクランクピンとして最適な位相にしてあるらしい。
こうすることで、90°よりも狭いVバンク角度でありながら、1次振動をキャンセルし、且つ多気筒化による高回転高出力を得たのである。

こんな感じで、実は、より高回転を多用するレーシングエンジンほど振動に対する要求がシビアだったりするらしい。



しかし、MotoGPと言えば、応援しているトニ・エリアスが最近はイマイチだな・・・・・。
次のイギリスGP@ドニントンパークではひとつ、活きの良い走りを見せて欲しいものだ・・・・。



おまけ・その3
Vツインエンジンと言えば、何と言ってもハーレーダビッドソン。
最近は同じエンジンを使った、BUELLが人気だ。
しかし、Vツインといえどこのエンジンは90°ではなくもっと角度は狭い。
位相ピンなんて芸の細かいことは一切無し。


そこはそれ、おおらかなアメリカ人。(ただ馬鹿なだけともいうが・・・・)
真っ向勝負。男らしさ全開っ!!



振動は「テイスト」という名にすり替えることで「ステイタス」に昇華させているらしい。

しかし、振動に耐えきれず、テールライトがもげたビューエルを何台見たことか・・・・(笑)