沈黙博物館/小川洋子 | mokkoの現実逃避ブログ

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現実から目を背けて堂々と楽しむ自己満足ブログ

 

発売日 : 2004/6/10
文 庫 : 376ページ

耳縮小手術専用メス、シロイワバイソンの毛皮、
切り取られた乳首…
「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという
証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ」―
老婆に雇われ村を訪れた若い博物館技師が
死者たちの形見を盗み集める。
形見たちが語る物語とは?
村で頻発する殺人事件の犯人は?
記憶の奥深くに語りかける忘れられない物語。
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前に「注文の多い注文書」を読んだ時、他の方のレビューに
お気に召しましたら読後に沈黙博物館もいかがでしょうか?
と書かれていて、気になったので購入してました。

そして、表紙がちょっと変わってるなぁ~と思ったら、
なんと!クラフト・エヴィング商會の吉田ご夫妻!
もしかして「注文の多い注文書」はこの繋がりから?
こういう発見が楽しいのですよぉ~
やはりレビューを参考にして良かったです。

博物館技師として長閑な村を訪れた僕。
荷物は兄から譲り受けたお古の顕微鏡と
何度も読み返しているアンネの日記。

依頼主である老婆の面接を受けるのだが
そこは、他の博物館とは違って、老婆が集め続けた
形見の品々を展示する博物館だった・・・

主な登場人物は、やがて技師さんと呼ばれる僕と
老婆と娘の少女、家政婦さんと庭師。

仕事は、収集された形見の解説を老婆が語り、
それを僕がメモに落として、少女が清書する。
庭師は元々あった建物を博物館として作り直し
少しずつ形を成していく。

遠く離れたところにいる兄へ、手紙を書く僕。
手作りのナイフをくれる庭師

高齢の老婆に代わり、遺品の収集を命じられ、
突然降りかかる困惑と緊張に振り回される。

かと思えば、野球やお祭りなど、少女との時間だったり
村の中心に立つ沈黙の伝道師の話などの話もあり
ほどよい緊張感もあって、テンポ的には問題ない。

そんな中、爆破事件に加え、殺人事件まで起こって、
遺品の回収に行った僕は、刑事に目を付けられ・・・

ひょんなことから、殺人犯がわかってしまい
そして、自分自身の事も諭されることに・・・
そんな僕が向かった先は・・・


そういえば・・・

という空気は最初の頃から感じていた。
雰囲気に馴染んでスルーしておりました。
色んなところに違和感という形で存在してましたねぇ。
殺人にしてもミステリっぽいけど、犯人の予想がつく。
そもそもミステリじゃないでしょう。

しかも、普通の博物館と違って、遺品の展示とか
歴史上の人物でもない限り、ないでしょう。

アンネの日記を読んで落ち着くという僕
本人が認められない真実
その時点で、こちら側の住人に選ばれていた?

此岸と彼岸の境界がどこにあるのか
村そのものなのか、博物館だけなのか・・・
ただ、母の形見であるアンネの日記や兄から譲り受けた
顕微鏡、沈黙の伝道師から、ナチスの沈黙の歴史を
連想することはできる。

最初の段階で僕が語っている博物館技師の仕事。
僕の仕事は世界の縁から滑り落ちたものを
いかに多くすくい上げるか、そしてその物たちが
醸し出す不調和に対し、いかに意義深い価値を
見いだすことが出来るかに係っているんです。

みんな世界を分解したがっている。
不変でいられるものなんて、この世にはないんだ。

あぁ・・・だから丁寧に残していかなければならない。

生きた証として・・・

なるほど・・・沈黙を守る博物館・・・

お客様が博物館を訪れるとすれば、境界を越えて
足を踏み入れた人だけなのかもしれない。