これも同じ系列のNホテルに出向に行っていた時の話。
寮で生活をしている人に、外部からTELが入るときは
オペレーターを通して、寮の各フロアーに1台ずつ設置された
電話に繋がれ、そのフロアーには呼び出しの放送がかかる。
付き合っている人が、外部の人、もしくは、社員でも
自宅通勤をしている人ならば、自分から公衆電話を使って
TELをするか、TELが来るのを待つしかないのである。
(※携帯がない時代です)
さて、系列のホテルは、リゾート地ということもあって
同じホテルの人以外に、系列ホテルからの出向社員や
アルバイトを雇うことが多い。
ムロン、そこで恋が芽生えることもある。
しかし、全てがうまくいくはずもない・・・
そこで、各ホテルには、ジンクスと言うものがあった。
私がいたTホテルは、冬の期間、閉鎖されるので、
Tでの恋は、落ち葉と共に消える・・・
Nホテルは、冬がシーズンであることから
Nでの恋は、雪どけと共に消える・・・
前置きが長くなったが、Nでのシーズンが終わると
出向に来ていた社員や、アルバイトは、期間終了と共に
所属のホテルや自宅に戻る。
たまたま、Tホテルの降雪量が多すぎて、出向解除が
20日ほど伸びたことがあった。
みんなが帰った後のホテルというのは、ガランとして
もの淋しい雰囲気が漂う。
夜になると、淋しさを通り越して、怖い雰囲気が漂う。
たまたま夜中にトイレに起きた時だった。
私の部屋は、フロアーの一番奥の部屋。
トイレは、フロアーの上がり口にある。
トイレに向かっていた時、トイレの前にある電話の前に
誰かが、しゃがみこんでいるのが見えた。
誰だろうと、よく見ようと思って、目をこすりながら
同じ場所を見たとき、その姿は消えていた。
気のせいかと思い、そのままトイレに入ったのだが
誰かが、泣いているような気がした。
気のせいかと耳をこらしたのだが、確かに声を殺して
泣いているのが聞こえるのだ。
トイレには私の他には誰も入っていない。
廊下に出ても、やはり誰もいない。
気味が悪いと思いながら、部屋に向かって歩き出したら
後ろから、また、鳴き声が響いてきた
思わず振り返ったとき、電話の前で両膝に顔を埋めている
女の人が確かにいた。
この世の人ではないと言うのは、すぐにわかった。
あとから聞いた話だが、以前、このホテルの社員が
アルバイトで来ていた大学生と恋に落ち、短い冬を
過ごしたのだが、春になり、アルバイト期間が終わり
彼は、地元に帰っていったのだが、彼は電話すらよこさず
実は、地元に本命の彼女がいたことが発覚し
ショックのあまり、自殺したという。
彼女は、今でも、春になると、来るはずのない彼からの電話を
待ちつづけているのかもしれない・・・