新潟の系列ホテルに出向に行っていた時のこと。
直属の上司が2連休を取ることなり、休みの前日に
不可解な言葉を私に残した。
「俺はこれから遠くに行ってくるからな・・・」
私は、その上司が嫌いだったので
二度と帰ってくるなと心で思っていた。
ところが、休みが終わっても彼は出勤しなかった。
その日の夜、金縛りにあった。
その寮は4人部屋で、部屋の奥にジュータン敷きの
狭いスペースがある。
そこに、人の気配を感じたのだ。
私が戸締りをしたので人が入れるはずがない。
意識を集中していると、タバコを吸っているようだ。
深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
動くたびに聞こえる衣擦れの音。
金属製の灰皿に灰を落とす音。独特のテンポ。
それには、記憶があった。
そう、帰ってこない上司の癖だ。
部屋には、金属製の灰皿は置いていない。
いやな予感がした。
翌日の早朝、同じセクションの子が血相を変えて
部屋に飛び込んできた。
その上司が首吊り自殺をしたそうだ。
遠くに行くというのは、その時点で覚悟を決めていた
ということだろう。
そういえば、休みを取る何日か前から
影が薄くなったねぇと噂していたのを思い出した。
本当に、このまま消えてしまうんじゃないかと
思えるほど、薄くなっていくのだ。
彼は、止めてほしかったのだろうか?