ページ数:264P
発売日:2014年11月
古い都の南、朽ちた楼門の袂で、男は笛を吹いていた。
笛を吹いてさえいれば、男は幸せだった。
ある春の夜、笛を吹く男の前に、黒い大きな影が立っていた。
鬼だ。笛の音を気に入った鬼は、男に絶世の美女を与え、
百日の間は絶対に触れてはならぬと告げるが…(「鬼の笛」)。
人ならざるものを描くことで浮き上がる、人間の業や感情。
民話や伝承をベースに紡がれた六編を収録した短編集。
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この著者の文章はクセになる。
おとぎのかけら 新釈西洋童話集の解釈が面白くて
他の作品も読もうと魚神(いおがみ)を読んで嵌った。
いつ読んでも外さないだろうという予測の下に
タイトル的にmokko好みであろう本作をチョイス。
やはり大当たりでした。
6編の妖しく幻想的な御伽噺。
この方、現代風の「おとぎばなし」もいいんだけど
今は昔の物語という、和風の御伽噺の方が合っている気がする。
物語の背景が映像が見えるだけでなく、五感を刺激される。
肌で感じる温度や湿度、ニオイや、風や土・泥の感触までも
感じることが出来る。
美味し過ぎる短編集です。
「鬼の笛」
古い都の南、朽ちた楼門の袂で、男の吹く笛を気に入った鬼は
笛の音が聞こえると楼門に通い、そして絶世の美女を
男に与えるのだが、100日過ぎれば人になると言われたが
あまりの美しさに恐ろしくなり・・・
「ムジナの和尚」
女の姿に化けて琴を弾く友の白狐が流した涙。
その涙や感情の事が知りたくて人里に降り
和尚に化けて寺に住み着くようになるのだが・・・
「天つ姫(あまつひめ)」
宮を抜け出して山に入った姫の前に現れた黒天狗の梁星。
強いものが好きだという姫は、一緒に時間を過ごすようになる。
やがて姫は帝の后となるのだが・・・
「真向きの竜」
男の彫ったものには命が宿ると言われ、旱魃に悩む村から
龍を彫ってほしいと頼まれた。
村人が畏れる竜が住むという淵に行く途中、気まぐれで
蛇を助けたら、夜になって女がやってきて・・・
「青竹に庵る」
親に捨てられ、人を信じられない吉弥は、騙されて
強盗の手助けをしてしまい、命の危険を感じて逃げ出すが
金色の観音様に助けられるのだが・・・
「機尋(はたひろ)」
染屋の柳に育てられた紅は、染めた糸を届けに
織屋の留造のところへ通っていた。
留造の店では、子供がいなくなるという。
柳の用事の為、一人でお遣いに行くことになった紅は
暗くなる前に帰れと言われていたが・・・
どれも懐かしいような、どこかで聞いたことのあるような
それでいて新鮮に心がさざめきました。
優しくて、緊迫して、風情があって・・・
余韻の残る短編集でした。
「天つ姫(あまつひめ)」がお気に入りです。
最後が泣けましたよぉ~