機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-(2025 日本)
監督:鶴巻和哉
脚本:榎戸洋司、庵野秀明
制作:スタジオカラー、サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
シリーズ構成:榎戸洋司
キャラクターデザイン:竹
メカニカルデザイン:山下いくと
画コンテ:鶴巻和哉、庵野秀明、前田真宏、谷田部透湖
演出:鶴巻和哉、小松田大全、谷田部透湖
キャラクター作画監督:松原秀典、中村真由美、井関修一
メカニカル作画監督:阿部慎吾、浅野元
音楽:照井順政、蓮尾理之
主題歌:米津玄師
出演:黒沢ともよ、石川由依、土屋神葉、伊瀬茉莉也、徳本恭敏、越後屋コースケ、千葉翔也、永野由祐、釘宮理恵、川田紳司、山下誠一郎、藤田茜、新祐樹、後藤光祐、武田太一
①ガンダムと私
私はバリバリのファースト世代です。本放送では観てなくて、ガンプラブームになってから再放送で観ました。
映画は1と2は公開時には観てなくて、公開時に映画館で観たのは「めぐりあい宇宙」でした。
その後は「Zガンダム」はかなり期待が大きくて、リアルタイムで観ていたんですが。ニュータイプ買ったりしていたし。
僕は結構…「Zガンダム」で脱落しちゃったんですよね。行き当たりばったりみたいなストーリーが不満で、キャラをさんざん引っ張ったあげく雑に殺してしまうような最終回が好きじゃなくて(ジェリドがかわいそうで!)、「ZZ」は観なくなりました。
(今となっては、それはそれで味かなと思えるのだけど。当時はね。)
なので、その後のいろんなガンダムはあまり観てません。「逆襲のシャア」を観たのもだいぶ後になってからでした。
もう一回戻って観るようになったのは、最近になってから。
「オリジン」とか「ユニコーン」、「水星の魔女」とかになってから…ですね。
という訳で、ガンダムファンと名乗るのはちょっとおこがましい感じでしょうか。
ファーストしか観てないって訳ではないけど、まあそれに近いような感じです。
ファーストの語り直しである「オリジン」は別として、「ユニコーン」もまだ「ファーストの呪縛」みたいなものを引きずってる感じがしましたが。
「水星の魔女」まで行くと、もうファーストがどうのこうのはまったく関係ない世界の物語になっていて。
これからのガンダムは、こうして新しい世代のアニメになっていくのだな…と思っていたのです。
今回の「ジークアクス」も、女の子主人公のビジュアルとか、ファーストっぽさの全然ないガンダムのデザインとかからも、そういう世界になるのだろうと勝手に想像していたのですが。
違いましたね…!
いや、逆の意味で、「ファーストの呪縛を断ち切った作品」と言えるのかもしれない。
もう「ファースト」に縛られない。本当の意味で「ファースト」から自由になったガンダムとも言える訳だから。
②庵野秀明の凄さ(今更ながら‥)
本当にすごいな庵野秀明。ガンダムの新作をカラーが作ると聞いて、庵野秀明も脚本で参加すると聞いて、誰もがいろんなことを予想する訳だけど。
それでもまだ、誰も想像しないものをぶちかまして、皆を心底びっくりさせてしまう。
誰もに「ネタバレしてはいけない!」と思わせて、「今すぐ観に行け!」とだけ言わせてしまう。
誰も予想しなかったものを作って、それでいて誰もに「まさに庵野秀明だ」と言わせてしまう。
こんな離れ技、他の誰にできるというのか。いやできない。すごいとしか言えない。
という訳で、ここからネタバレします。
公開されてからだいぶ待って、公式でもネタバレしてるので、もういいかと思いますが。
何も知らずに観て最初の数分で魂を持っていかれる作品なので、これから観る人は間違っても読まないようにお願いします。
一年戦争でジオンが勝った世界線をやる、という。
それだけじゃなく、本当に第1話「ガンダム大地に立つ」をそのまま書き換える、という。
ジーンじゃなくシャアがザクに乗ってる展開にして、アムロじゃなくシャアがガンダムに乗る展開にして、シャアが赤いガンダムに乗って戦況を逆転してしまう展開にするという。
構図も音楽もそのまんまでね。まさにシン・ガンダム!
やってしまえば、こんな楽しいことがあるだろうか?と思えるような、楽しさの宝庫のようなアイデアなのだけど。
これまで誰もやらなかった。やれなかった?
「富野監督に遠慮しなくてもいいかなと思って」と言ってしまえて、周りの人も「まあ庵野ならしゃあないか」と思える庵野秀明以外には、やっぱりやれなかった。
別にやっちゃいけないっていうルールがあった訳でもないんですけどね。
で、やってみると意外に抵抗なく、めちゃめちゃ面白いものとして観ることができる…という。
いや、うちの奥さんはちょっと抵抗を言ってたけどね。奥さんの方が筋金入りなので。「アムロは!」って言ってたけど。「アムロのガンダム取るな!」って。
まあ、それも面白がりつつの文句、って感じですけどね。
でも、これも庵野監督のセンスあってのことで。
下手な作り手がやると、それこそ大炎上する。めちゃくちゃ反発を喰らう大冒険だと思うんですよ。
見事に受け入れられているので、あんまり冒険な感じがしないのだけど。
戸惑いよりもクスッと笑わせるような、絶妙な改変のチョイス。ジーンがいないだけでここまで未来が変わるとは、すごいなジーン!とかね。
モビルスーツのデザインがだいぶ違うのも、パラレルワールド感になっていて、結果的に安心感につながっているように思います。(オリジナルの世界が消されちゃう訳ではない、と思える)
③いくらでも想像が広がる天国のような世界
これができるのも、いかにファーストが「一般常識」として皆の中に浸透してるか、だと思うのですが。
ファーストの中の「歴史」が強固だからこそ、パラレルワールドも許容できる。そこはオリジナル作品の強靭さへの全幅の信頼あってのことだと思えます。
だから、発想が「シン・ウルトラマン」や「シン・仮面ライダー」と同じ。
圧倒的にレベルの高い二次創作。
観てると本当に、いくらでも楽しい連想が広がっていくんですよね。
アムロどうしてるんだろう…とか。あのまま機械オタクの一般人として、フラウ・ボウと仲良く暮らしてるままかな。シマシマのパンツ履いて。
ランバ・ラルもハモンさんも死んでないよな。アムロのガンダムにやられた人はみんな生きてる可能性がある。
ミハルはどうしてるかな。悲しい境遇は変わらないだろうから、ジオンに利用されるのは一緒かな。「お急ぎですか」「別に急いでませんよ」言ってるかな…。
ララァはシャアと出会っていないみたいだけど。ゼクノヴァで聞こえたラ…ラ…という声は関係ないのかな。
カムラン出てきたけど…奥さんはミライさんかな。ブライトは…リュウは…マチルダさんはどうしてるかな…
二次創作的な想像がいくらでもはかどる。
一年戦争の(改変された)経過を「シン・ゴジラ」的早口で展開していく中で、観ている者の意識には様々な楽しい想像がどんどん浮かんで、ついついニヤニヤしてしまう。
劇中で採用する設定も絶妙なんですよね。ガルマの除隊とか。ビグザム量産とか。
シャアがシャリア・ブルとバディになって活躍することで、シャアの株が上がる感もあるんですよね。オリジナルのシャアはアムロに圧倒され、ララァに母性を求めて、どんどん情けないマザコンキャラになっていったので。
アルテイシアのちょい見せも想像が広がります。セイラがエースパイロットになってる世界線。それも観たい!と思わされちゃう。
まさに楽しさの宝庫。二次創作的な楽しみ方であって、本道ではない気はするのだけど、でも楽しさがその辺を凌駕してしまいます。
④本編へ繋ぐ完璧なアバンタイトル
ここまで好き放題やってめちゃ楽しいのだけど、でもこれはあくまでも本編の前のプロローグ。
あくまでもアバンタイトルであって、本編へと引き継ぐための役割になっています。
結構ボリュームあるのだけど、でも決して本編の邪魔をするような形にはしていない…というか。庵野監督、そこはしっかり計算して作っているように感じます。
仮想の世界の楽しさを展開していく中で後半、上手く本編につながる要素を入れ込んでいくんですよね。
シャアとシャリア・ブルの「マヴ」だったり。
ニュータイプの神秘性を強調する「ゼクノヴァ」だったり。
我々の知っている「歴史」からだんだん大きくズレていって、別の世界であることを印象づけることで、すんなりと本編に入っていけるようにしています。
バディ・システムによるモビルスーツ戦というのは、確かにファーストでは見られなかった戦い方で。(源流としての黒い三連星はあったけれど)
本編のオリジナリティにもなっているし、それを作ったのがシャアとシャリア・ブル、というのがまた泣かせる設定なんですよね。
一年戦争の世代が築いたものがベースとなって、5年後の世界で新たな物語が始まっていく…という、理想的なプロローグになっていると思います。
メタな視点では、今や伝説的な存在である「機動戦士ガンダム」を礎として、新たな世代が作るジークアクスの物語に繋いでいく意思が、むしろ「熱さ」になっています。
本作は映画としてはかなり歪な構成で。前半と後半でガラッと話が変わってしまうし、作風も「ここまで庵野だな」「ここから鶴巻監督だな」とはっきりくっきり分かってしまうという、ヘンテコな構成ではあるのですが。
前半が後半を食ってしまってはいないし、後半の流れは前半を踏まえていて、ストーリー的には割とスムーズにつながっている。
前半をダイジェスト的な構成にしていることで、後半でいよいよ躍動していく若い主人公たちが魅力的に映り、彼女たちの活躍をもっと見たい!という気持ちにさせられる。
テレビシリーズへの導入としても、完璧だったんじゃないでしょうか。
⑤前半を糧にして、疾走する若者たちの爽快感
という訳で、後半のマチュやニャアンのストーリーも楽しいです。
カラーが作るガンダムとしては、というかガンダムとしては、話が非常に分かりやすい!というのも美点ではないでしょうか。
若いマチュたちの視点に絞ることで、(ガンダムにつきものの)政治とか陰謀とかの話は一切なしになっていて、視界がすっきり、くっきりしている。その中でしがらみに縛られない若者たちが軽快に駆けていく爽快感があります。
シャアがガンダムに「いきなり乗った」ように、マチュもガンダムに「いきなり乗る」。やはりここはアムロ以来のガンダムの伝統ですね。
ザクの感覚だけでいきなり操縦できちゃうシャアの凄さ(マニュアル見てたアムロとの暗黙の対比もあって)を踏まえて、サイコミュ・システムが大幅に拡張されてることで、マチュがいきなり乗れちゃうことも上手く説明がついています。
軍人でもなく、金も持たない若者たちのバトルなので、武器も安上がりっぽい斧(ヒートホーク)になってるのだけど、本作におけるマイナー武器(ヒートホークとガンダムハンマー)へのこだわりは、前半の庵野的こだわりであると同時に、後半の「軍の兵器でないガンダムを描く」という独自性につながってる。
この辺りがバランスのとれてるところで、上手いなあ…と思うのです。
という訳で、とても面白い「ガンダム」でした!
いずれテレビシリーズになるとはいえ、前半の一年戦争部分をあのままの形でテレビでやるかどうかは微妙な気がするので、少しでも興味のある人は映画館に行っておくべきじゃないでしょうか。
「ガンダム」をまったく知らない人が観てどう感じるかはまるっきり未知数ですが。その辺りはこれまでの「シン」シリーズと一緒ですね。
こちらは富野監督のガンダム。
こちらは安彦監督のガンダムです。
そして庵野監督のエヴァ。本当はこっちの、オリジナルの物語がもっと観たい。