Abigail(2024 アメリカ)
スタッフ・キャスト
監督:マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット
脚本:スティーブン・シールズ、ガイ・ビューシック
製作:ウィリアム・シェラック、ポール・ナインシュタイン、ジェームズ・バンダービルト、トリップ・ビンソン チャド・ビレラ
製作総指揮:ロン・リンチ、マクダラ・ケレハー
撮影:アーロン・モートン
美術:スージー・カレン
編集:マイケル・P・ショーバー
音楽:ブライアン・タイラー
出演:メリッサ・バレラ、ダン・スティーブンス、キャスリン・ニュートン、ウィル・キャトレット、ケビン・デュランド、アンガス・クラウド、アリーシャ・ウィアー、マシュー・グード、カルロ・エスポジート
①ネタバレなしで観たかった!
ジョーイ(メリッサ・バレラ)たち6人の男女は、ランバート(ジャンカルロ・エスポジート)と名乗る男に集められ、富豪の娘アビゲイル(アリーシャ・ウィアー)を誘拐します。明日までアビゲイルを監禁していれば5000万ドルの身代金が得られるはず。しかし、フランク(ダン・スティーヴンス)はアビゲイルの父親が裏社会の大物であることに気づいて動揺。何者かが暗躍して、彼らを一人一人殺していきます…。
「誘拐した少女は、ヴァンパイアだった!」というこの映画のメインとなるネタは、もういきなりポスターにデカデカと書いてあるので、ネタバレ対象ということではないみたいですが。
実際映画を観てみると、このネタを割るまでに結構長いこと引っ張るんですよね。
序盤は誘拐のために集められた見ず知らずの男女が、互いに腹を探り合いながらミッションに臨むチーム犯罪もの…という様相で進みます。
この辺りも、それはそれで面白い。なかなか興味をもたせます。
誘拐した少女アビゲイルが実は「組織の大物ボスの娘」であることがわかって、楽な犯罪のはずが当てが外れて、みんなが浮き足立ってくる。
仲間が殺され始めると、正体不明の殺し屋の都市伝説が語られ、「この中に殺し屋がいる!」の疑心暗鬼になるお約束。
犯罪モノの定番展開をミスリードとして引っ張った上で、少女がモンスターだった!というミもフタもない真相を明かすので、脱力するし、笑えるんですよね。
一瞬で悪人たちと少女の立場が逆転。
狩る側と狩られる側がひっくり返って、一気に血みどろホラーに突入していく。
この転調の面白さが、結構演出されている。ここはネタバレなしで観て映画館で驚きを味わいたかったなあ〜という気もしました。
まあ、興行的には難しいんでしょうけどね。上記コピーは本作の最大のセールスポイントなので、そこを隠すと魅力が伝わりづらくなってしまう。
ネタを仕込んだ映画を「どこまで伝えるか」は常に悩ましいところですね。
②次々と変わる展開、語り口の上手さ
なのだけど、本作は決して一発ネタのみで勝負してるB級作品じゃないです。
ストーリーが面白い…と感じさせるのは、基本的な話の運びが上手いからだと思う。
語り口が上手いんですね。必要な情報が的確に伝わり、もたつかない。
6人の犯罪者集団は一人一人のキャラが立っていて、埋没してしまう人物がいない。
決して、紹介にダラダラ時間をかけてる訳じゃないんですけどね。冒頭のアクションで各自に得意をしっかり発揮させ、ジョーイがそれぞれの背景を言い当てるシーンで、上手いこと観客に必要な情報を与えてる。
キャラ紹介や過去の説明に時間をとられることなく、事態を前へ進めていきながら、しっかり見分けがつくようにしてる。
じきに、感情移入もさせられてしまいます。
そして、観客にしらける隙を与えず、じゃんじゃん状況を転がしていく。
一つ一つは、既視感のある要素なんですけどね。組み合わせ方と、見せ方が上手いです。
「レザボア・ドッグス」的なニックネームで呼び合う犯罪チームが、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」的な状況に直面する。
アビゲイルが正体を現すと、屋敷もいきなりカラクリ屋敷となって、要塞化して若者たちを閉じ込める「ホーム・アローン」状態。
密室の狭い廊下や階段で、潜む怪物を探し回る「エイリアン」展開。
噛まれて感染してしまったキャラクターが、ヴァンパイアになるか、ならないか…という「ゾンビ」的スリル。
そして、かわいい少女なのにめちゃ怖いギャップが萌えるモンスターは最近の「ミーガン」でしょうか。
いくらヴァンパイアといえど、10歳くらいの少女一人vs屈強な大人の男女たち…なので、なかなかパワーバランスが難しそうなんですが。
観ていて、全然違和感を感じないですね。少女が一人で大人たちを心底ビビらせ、逃げ惑わせる状況に、すんなり同調させてくれます。
そこもやっぱり、見せ方が上手い。狭い空間を立体的に使ったアクションが見ものです。
③最後までサービス満点!
弱点としての十字架とニンニクと太陽、昼間に眠るための棺桶といった「ヴァンパイアのお約束」も丁寧に網羅していきます。
(十字架とニンニクは効かず、効くのは太陽だけだけど。その辺はジョジョっぽい?)
それヴァンパイアじゃなくても何のモンスターでも一緒だよね…という作品は萎えるので、お約束は大事です。
そして、近年のホラー映画でもトップクラスじゃないかという膨大な血の量。
終盤、ちょっとダレるかも…となってきたところでね。人体爆裂と血しぶきのスプラッタ絵巻が展開されて、目が覚める。
ビックリするし、笑えます。いやーやっぱり振り切ったホラーはイイですね。
そこから更に、終盤は格闘アクションになります。痛みが伝わる、肉弾戦のバトルアクション。
そして、生き残ったファイナル・ガールと、敵であるはずのアビゲイルの共闘までも。
続編でできそうなことも、惜しまず全部やっちまうぞ!の精神が良かったですね。サービス精神満点のホラーだったと思います。
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