M3GAN(2023 アメリカ)

監督:ジェラード・ジョンストーン

脚本:アケラ・クーパー

原案:アケラ・クーパー、ジェームズ・ワン

製作:ジェイソン・ブラム、ジェームズ・ワン

製作総指揮:アリソン・ウィリアムズ、マーク・カッチャー他

撮影:ピーター・マキャフリー

美術:キム・シンクレア

編集:ジェフ・マケボイ

音楽:アンソニー・ウィリス

出演:アリソン・ウィリアムズ、バイオレット・マッグロウ、ロニー・チェン、ブライアン・ジョーダン・アルバレス、エイミー・ドナルド

①新たなホラーアイコンの誕生!

スキー旅行中、交通事故で両親を一度に亡くした少女ケイティ(バイオレット・マッグロウ)。叔母のジェマ(アリソン・ウィリアムズ)に引き取られますが、おもちゃ会社でAIロボットの開発に携わるジェマは子育ては苦手です。ジェマは開発途中のミーガン(エイミー・ドナルド)を起動し、ケイティの友達になるようプログラムします。しかし、ケイティを守ろうとするミーガンの行動はやがてエスカレートして…。

 

これはなかなか良いホラー。

AIという最新流行ものを扱いつつ、全体のトーンとしては80年代ホラーを思わせる懐かしくも楽しい感じ。

セオリー通りに進む話だけどエスカレートぶりが気持ちよくて、満足度の高いホラー映画になっていました。

 

何よりも、新たなホラーヒーロー(ヒロイン)を生み出したのが偉いですね。かわいくて強い、意地悪でいじらしいミーガンが実に魅力的。

AIを搭載した友達ロボットが、バディを守るために邪魔者を排除して暴走する…という筋立ては​20​19年のリメイク版「チャイルド・プレイ」と同じなのだけど。

あれは古い名前のチャッキーでしたからね。既存の人気キャラに頼らず、新たな魅力的なキャラを生み出したのが素晴らしいです。

ミーガン主演のシリーズ作、続いていくんじゃないでしょうか。

 

②感情を持ってるかのようなAIの怖さ

人間に従順であるはずのロボットが、リミッターが外れて暴走する…というモチーフは、昔から描かれてきたものです。「ウエストワールド」(1973)とかそうですね。古典中の古典「メトロポリス」(1927)もそうかも。

本作が現代的なのは、やはり急速に進化したAIの不気味さを描いていることじゃないでしょうか。

 

chat GPT、流行ったのでいろいろ触って遊んでみた人、多いと思うけど。

やりとりしてるうちに、なんだかまるで人格のある相手と話してるような錯覚を感じてドキッとする…ってことなかったですか?

微妙にズレた解答が返ってくると、「それ間違ってるよ」「どうしてそう思ったの?」とか言いたくなる。それへの言い訳がまたおかしくて、ちょっとイラッとしてツッコミたくなったりする。気がつけば、AIとムキになって言い争いしていたり。

これは単にそれっぽい言葉を連ねて知性的に見えるように振る舞ってるだけだ…と、わかってはいるはずなんだけど。

それでも、体感としては、人間と話してるのとあまり変わらない。既にその域に来てるのか…と思って、ちょっと怖くなったりしました。

 

本作においても、ミーガンは基本的にはあくまでも機械であって、魂を注入された呪いの人形ではないわけで。

ミーガンの受け答えは、プログラムされたルーチンに従っているだけに過ぎない…はず。

でもそこに、まるで感情があるような…怒りとか、イラつきとか、冷笑とか、侮蔑とか、そんな感情が込められているような、そんな瞬間が時々あって、不安を煽られる。

 

まあ映画なんでね。いかにも「感情があるかのように」ミーガンは振る舞っていくわけですが。

それでも、AIの進化が「いかに人間っぽく振る舞うか」を追求していくなら、「まるで怒っているかのように振る舞うAI」「まるでこちらを見下し、殺意を抱いているように振る舞うAI」も実現可能であるはずですよね。

 

chat GPTと話しててもドキッとするくらいですからね。もう一段階進んだら、ミーガンのように「気分を害していないか、ご機嫌をうかがう」必要が出てくるかもしれません。

機械であり、感情がないはずである存在が、人間と変わらない「怒り」や「殺意」を持ち得る恐怖。「ミーガン」の恐怖はそこにあるので、とても現代的なものになっていると思います。

③機械による子育てがもたらす怖さ

もう一つ、ミーガンが現代的なのは、彼女が「おもちゃ会社の新製品」であること。

「国家の最新鋭の極秘プロジェクト」ではなくてね。

普通に、一般に市販される大量生産品のレベルで、このレベルのAIが搭載されていることが、もうそんなに無理のある設定じゃなくなっている。

chat GPTだって、ネットがあれば誰でも使える時代ですからね。

 

頭脳はともかく、ボディに関しては…ちょっとオーバーテクノロジーかな、とは思いました。

特にあの「ミーガンダンス」ですね。予告編で見た時に、マスクかぶった人間が動いてるようにしか見えなくて、ちょっとがっかりしたんですよね…。

実際の映画では、ダンスは最小限でホッとしました。ノイズになり過ぎず、ホラーらしいスパイスとしてちょうどいいバランスだったと思います。

(でも、もし続編が作られたら、踊りまくるのだろうなあ〜)

 

機械に子育てを任せる。それによって育てる側はラクできるけど、でも子供に悪影響が出てくる…

…というのも、目新しい話ではなくて。聞き慣れた教訓話ではあります。

でも、AIの進歩によって、ここまで出来るようになったとしたら…というリアリティ。そこはこれまでの古い教訓話とは違うものになっていて。

実際、ボディを持たない「子供の話し相手/遊び相手になる存在」なら、結構すぐにでも実現しそう。

いや、既に実現してるのかな。スマホとかタブレットという形で…。

 

忙しくて、ついつい子供にタブレット渡して、任せっきりにしちゃう…というのは現代でも既に起こっていることで。

その影響というのは長い目で見ないと見えてこないので分かりにくいのだけど、劇中で描かれたような「キレやすさ」につながるのは、今もうリアルな話に感じられます。

そういう面では、社会的な映画ということもできる。なかなか深いのです。

④そしてエスカレートするホラーの王道!

ここまで書いたような科学的、社会的な背景がしっかりと現代を捉えているので、展開していくホラーなシチュエーションはシンプルでも、説得力を持つものになっているんじゃないかと思います。

 

皆に愛されるホラーアイコンの条件として、怖いことはもちろんなんだけど、どこか共感できるところがあることが大事だと思うのですよ。

その点ミーガンは、徹底してケイティのいちばんの友達として、「ケイティを守る」ことを最優先にすべての行動を決めているだけだから。

ある意味、けなげなんですよね。いじらしくさえある。

 

ミーガンは周囲の邪魔者を排除していくわけですが、まずはケイティをいじめる者。ケイティに危害を加える者。

その次に、自分に危害を加える者。自分が排除されたら、ケイティを守れなくなるわけだから。

なので、物語の上では「イヤな奴だけがミーガンにやられていく」ことになります。だから、残酷で怖い殺人シーンが描かれても観客の感情移入は途切れないし、むしろスカッとすることができる。ホラーの王道ですね。

 

そういう基本的な構図を作っておいて、やがてそれが臨界に達し、逸脱して、ミーガンの矛先がジェマに、そしてケイティ本人にも向かっていく。

対決は、モンスターが強いほど盛り上がる。最後にはいよいよジェマとケイティ二人がかりでも太刀打ちできないほどのやみくもな強さをミーガンが発揮して、もはやターミネーターの領域へ。

尻すぼみにならない派手なクライマックスで、お腹いっぱいにさせてくれます。「少女のロボット1体」でここまで盛り上げたのだから、確かな力量!と思いましたよ。久々に、満足度の高い正調ホラー映画でした!

 

 

 

 

 

昔のチャッキーは呪いの人形でしたが、リメイク版ではAI搭載スマート・トイ。

 

女の子の友達ロボットが、主人公の幸せのために暴走…は同じだけど、ホラーじゃないアニメです。

 

アリソン・ウィリアムズ主演の限定状況サスペンス。

ミーガンのルーツは藤子・F・不二雄先生のコレじゃないかと思ったり。

 

 

 

Discover usでも「ミーガン」のコラム書いてます。

「ミーガン」特集はこちら。