ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督/ティモシー・シャラメ主演のSF超大作「デューン 砂の惑星 PART2」がいよいよ公開です。
古典的大河SF小説が原作である本作。物語の背景となる設定もかなり膨大なものがあります。
慌てて予習せねば!という方に向けて、知っておくと映画がわかりやすくなる「デューン」の設定を(PART2のネタバレにならない範囲で)紹介します。
舞台は、西暦10191年というから超未来。
そんな未来にしては、皇帝とか公爵とか古めかしい中世みたいな世界だなあ…と思ってしまいますが。
この世界は、過去に人類とAIの間で最終戦争が行われ、その結果としてコンピュータなどの思考機械が禁じられた…という背景があります。
従って、「デューン」にコンピュータやロボットは一切登場しません。コンピュータの代わりとして、特殊な訓練を積んだ人間計算機メンタートが活用されています。
この世界には、3つの勢力があります。
その1つは大領家。大領家は中世の貴族のように、それぞれの所領となる惑星を支配しています。
主人公ポールの属するアトレイデス公爵家、ライバルであるハルコンネン男爵家も、大領家です。
多くの大領家はそれぞれの思惑で互いに牽制したり、陰謀をめぐらせて蹴落としあったりしています。
そんな大領家を統べるのが皇帝シャッダム4世です。
2つ目の勢力はギルド。帝国の経済面を牛耳る組織です。
ギルドは恒星間移動を可能にするナビゲーターを擁していて、この世界における移動を支配しています。だから、皇帝もうかつに反抗できません。
ナビゲーターはスパイス「メランジ」を摂取することでミュータント化して、宇宙船をワープさせる能力を身につけています。
従って、宇宙で唯一のスパイスの産出地である砂の惑星アラキスが、非常に重要な焦点となる訳です。
3つ目の勢力はベネ・ゲセリット。女性だけの宗教集団です。
ベネ・ゲセリットの修道女たちは訓練によって、心を読む、声で相手の行動を操る、などの特殊能力を身につけています。
ベネ・ゲセリットは領家の婚姻に干渉することで、遺伝子を操作します。その目的は、進化を遂げた超人「クウィサッツ・ハデラック」を生み出すことです。
ポールの母ジェシカもベネ・ゲセリットです。彼女は(ハルコンネン家とつがわせるために)女の子を産むよう命じられていましたが、レト公爵の願いに応じてベネ・ゲセリットに反抗し、男の子ポールを産みました。
ベネ・ゲセリットはいずれクウィサッツ・ハデラックが生み出された時に人々に受け入れられるように、様々な惑星に救世主伝説を意図的に流布しています。
砂の惑星アラキスの原住民フレメンも、「いつか異邦人の救世主が現れてフレメンを救う」という伝説を信じています。彼らはそれを古代から伝わる自分たちの伝説だと信じていますが、それは実はベネ・ゲセリットによって意図的に流されたものなのです。
この救世主伝説の存在が、PART2において非常に重要な意味を持ってきます。
PART1では、惑星カラダンを支配していたアトレイデス家が皇帝の命で惑星アラキスへ移封することになります。
アラキスを支配していたハルコンネン男爵家は利権を奪われて惑星から追い出され、アトレイデスへの憎しみをたぎらせることになります。
これは実は皇帝による陰謀で、アトレイデスとハルコンネンを争わせて互いの勢力を削ぐことを狙いとしています。
ハルコンネンのアラキス奇襲に当たって、皇帝は直属の殺戮部隊サーダーカーをハルコンネンに提供しています。
砂嵐が吹き荒れ、非常に過酷な環境である砂の惑星アラキス。
フレメンが身につけるスティルスーツは、排泄された水分を再利用するシステムを備えていて、それなしでは砂漠で生き延びることはできません。鼻に挿したプラグも、呼吸で生じた微量な水分を回収して再利用するためのものです。
砂漠には巨大なサンドワーム(フレメンの言葉でシャイ・フルド、もしくはメイカー)が棲息しています。ワームは規則的な足音に引き寄せられるので、フレメンはリズムを崩した特殊な歩き方を身につけています。
ワームを呼び寄せる時には、逆に規則正しいリズムを発するサンパーを使います。
「デューン」の世界では重力制御が実現しています。なので、宇宙船は流線型をしておらず、ゆっくりと浮上するし、サーダーカーもゆっくり降下してきます。
都市だけでなく個人もシールド発生装置で身を守ることができます。シールドは速度の速い動きを通さないので、銃は無効化されます。
ゆっくりの攻撃であればシールドを通り抜けることができるので、この世界の戦士は接近戦でゆっくりと攻撃する剣術を鍛錬しています。
スパイス(メランジ)はサンドワームの排出物から精製されます。
アラキスの砂にはスパイスが混じり、スパイスを摂取することでフレメンの目は青く染まります。
アラキスが緑化されることがフレメンの宿願ですが、しかしスパイスが宇宙の最重要資源である限り、それは実現されるはずのない願いと言えます。
PART1に登場したリエト・カインズは、アラキスの環境改変の可能性について研究していました。
スティルガーを始めとするフレメンたちはポールが救世主(フレメンの言葉でマフディー、あるいはリサーン・アル=ガイブ)であることを期待して、フレメンを解放してくれることを待ち望んでいるのです。
PART1では、ハルコンネンの奇襲によってレト公爵が殺され、アトレイデス家は滅亡。
ポールは母ジェシカと共に砂漠に逃れ、フレメンに迎えられました。
ポールはスパイスの影響で予知夢を見るようになります。いずれ自分が悲劇的な全面戦争をもたらすことを知ったポールは、運命に悩むことになります…。
…というところまでが、PART1で語られた物語でした。
一面的なスペースオペラにとどまらない、奥深さをもつことが「デューン」の魅力であると言えるでしょう。
西暦10191年という超未来SFの壮大さ。
中世宮廷悲劇のような、皇帝や領家の陰謀劇。
アラブ社会と西欧の関係を彷彿とさせる、支配者とフレメンの関係。
ファンタジー的な救世主伝説と、それが宗教的陰謀であるという複雑さ。
砂漠の惑星の生態系の構築と、そこで暮らすことのリアリティ。
父の復讐と、自分が立つことで戦争を引き起こす運命に悩む、主人公ポールの葛藤。
スパイスによって心の目を開かれていくポールの変化は、原作が書かれた時代背景である60年代のドラッグカルチャーの反映でもあります。
惑星の環境が人類に影響を及ぼしていく、環境SFとしての側面もあります。
砂漠の民フレメンと、西欧社会的勢力のせめぎ合いは、現在にも続く中東問題にも繋がっています。
支配層や宗教の思惑によって、過酷な世界を生きる民が戦争に巻き込まれていく。それは今まさに起こっていることですね。長い年月を経ても今日性のある、強靭な物語だと思います。
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