これは「シン・仮面ライダー」ネタバレ解読・考察2の続きです。

最後までネタバレしています。ご注意ください。

書いてあることはすべて独自解釈です。公式なものとは違っている可能性が大いにあります。

商店街と映画ポスター

本郷とルリ子が歩く商店街は群馬県高崎市の高崎中央銀座商店街

サイクロンはどこに?と思いますが、自立走行する描写があったのと、24時間監視していて手を上げればすぐ連絡がつくアンチSHOCKER同盟の存在で、まあどうとでも想像がつきますね。

 

ルリ子にとってハチオーグはSHOCKERにいた時の知り合いであり「友達にいちばん近い存在」でした。

上級構成員は深い絶望を抱えた「危ない奴ばかり」であり、下級構成員は単に強制連行され洗脳されていることも。

 

ハチオーグによって操られている町の人々が集まってきて、ここがハチオーグのテリトリーであることがわかります。

屋台のラーメン屋から黄色いスーツの男(上杉柊平)が出てきて、ハチオーグのアジトへと誘います。

ここで流れてる音楽はトルコの有名な軍楽で「ジェッディン・デデン」と呼ばれるもの。

「祖父も父も」と訳されます。

これは向田邦子作のNHKドラマ「阿修羅のごとく」の主題曲。

東映ヤクザ映画の引用

このラーメン屋の後ろの壁には、東映映画のポスターが多数貼られています。これはわざわざクレジットされているので、意図的なものですね。

パンフレット掲載のクレジットで確認すると内訳は…

「大殺陣」(1964)

「十三人の刺客」(1963)

「沓掛時次郎 遊侠一匹」(1966)

「仁義なき戦い」(1973)

「仁義なき戦い 代理戦争」(1973)

「仁義なき戦い 広島死闘篇」(1973)

「仁義なき戦い 頂上作戦」(1974)

「仁義なき戦い 完結篇」(1974)

 

「十三人の刺客」「大殺陣」は工藤栄一監督によるリアリズムが売りの「集団抗争時代劇」。

「沓掛時次郎 遊侠一匹」は流行りが時代劇映画からヤクザ映画に移っていく時期に作られ、時代劇映画の最後の傑作と呼ばれる作品。

「仁義なき戦い」シリーズは言わずもがなですね。この5作がたった2年の間に公開されてるのがすごい…。

 

これは往年の東映映画へのリスペクトということになるのかな。

庵野監督の日本映画への言及といえば、岡本喜八監督や、市川崑監督が思い浮かびますが、この辺りも当然のように守備範囲なのでしょう。

あとはやはり、ヤクザ映画への目くばせですね。ハチオーグの一味はまんまヤクザの一家の様相です。

ハチオーグ編は庵野監督流の東映ヤクザ映画オマージュになっています。

ハチオーグ

西野七瀬演じるハチオーグ/ヒロミは、シン・仮面ライダーでもっとも記憶に残るキャラクターじゃないでしょうか。

シン・ウルトラマンにおけるメフィラスみたいな。庵野監督は本当に、こういう味のあるキャラを作るのが上手いですね。

口癖は「あらら」。あと、「ルリルリ」

流れている音楽はモーツァルト。「ディヴェルティメント 第17番 ニ長調 K.334 第3楽章 メヌエット」です。

 

「シャンパンはいかが? あいにくグー・ド・ディアモンは切らしていて。シップレックで我慢して」とヒロミ。

グー・ド・ディアモン2億3000万円と言われる超高級シャンパン。2億て。

シップレック3000万円。比べたら安い!…って頭おかしいですが。

ハチオーグは人々を洗脳することができるので、財産も貢がれまくっているのでしょう。

 

SHOCKERにおいて、同年代であるルリ子とヒロミは「友達にいちばん近い存在」でした。

ルリ子はSHOCKERの人口子宮で生まれましたが、ヒロミがどうかは不明です。

しかし、ヒロミという名も「コードネーム」であるようです。

 

昆虫合成型であること、他人のプラーナを吸収して強化すること、プラーナの羽根を持つことなど、ハチオーグはバッタオーグと多くの共通点を持っています。

プラーナを吸収することで面相が変わり、それによって「ライダーと基本スペックは同じ」になります。

おそらく、ヒロミをハチオーグにアップグレードしたのは緑川博士のグループでしょう。

 

ハチオーグの目的は「効率的な奴隷制度による統制された世界システムの再構築」

支配こそ幸せであり、服従こそが奴隷の幸せであるとする彼女は、この街をテストモデルとして住民たちを洗脳して奴隷にしています。

ひろみと蜂女、さそり男

ヒロミの由来はオリジナルでルリ子の友人だった野原ひろみから。島田陽子が演じていました。

ルリ子と同じ城南大学の学生で、ルリ子と一緒にスナック・アミーゴでバイト。

第1話から登場するレギュラーメンバーで、藤岡弘の怪我によって本郷猛と共にルリ子が消えた後も、長く出演し続けていました。

 

漫画版でも、ヒロミはルリ子の友人として登場しています。

漫画版では短命。こうもり男にウィルスを注入され、操られてルリ子を襲った後、急激に老化して呆気なく死んでしまいます。

 

オリジナルの蜂女第8話「怪異!蜂女」に登場。

超音波を出すメガネで人を操り奴隷として、ショッカーの毒ガス工場で働かせることが蜂女の使命です。

蜂女の見た目はハチオーグとはあまり似ていませんが、一般人を奴隷にする作戦を行うこと、奴隷に対して女王様然とした態度を取ることは共通しています。

 

オリジナルでは、人々を洗脳するのはメガネの出す超音波なのですが、シン・仮面ライダーではどうやって洗脳してるのかは曖昧ですね。

アジトのコンピューターを破壊すると洗脳が解けるので、なんらかの電波とか音波とかが出てたのだろう…とわかりますが、ほぼ説明されない。

この辺、シン・仮面ライダーの作り方の好例であるように思います。

別にどうとでも想像がつくようなことは説明なしでも気にせずに、勢いを殺さずに進めていく。そこから、一種独特のドライブ感が生み出されてると思います。

 

ハチオーグはオリジナル第3話「怪人さそり男」との類似も見えます。

さそり男は、本郷猛の旧友早瀬五郎が、本郷への対抗心から自ら望んで改造人間になりました。

「早瀬五郎とは昔の名だ。今の俺の名はショッカーの幹部さそり男」

「俺は進んでショッカーの一員となり改造された。お前という男を負かすためにだ」

さそり男のセリフ、ルリ子に対するヒロミの態度と重なるものがあります。

ルリ子を「泣かす」ために、ヒロミが進んでオーグメントになることを選んだとしたら、そこにはヒロミのルリ子へのコンプレックスがあったのかもしれません。

キカイダーと緑川家の関係

SHOCKERを抜けてと言うルリ子に対して、SHOCKERに戻ってと言うハチオーグ。

「SHOCKERに生まれし者はSHOCKERに帰る」この言葉は、「人造人間キカイダー」からの引用です。

ダークの総帥プロフェッサー・ギルが、ダークを抜けたキカイダーを支配しようとして「ギルの笛」を吹く時に、「ダークに生まれし者はダークに帰れ!」と言っていました。

 

キカイダーは古典的な機械のロボットで、仮面ライダーは改造された人間。その違いはあれど、どちらも組織によって作られた存在です。

キカイダー/ジローは、光明寺博士が死んだ長男タローの代わりに作ったロボットです。

光明寺博士の娘で、タローの妹に当たるミツ子が、キカイダー/ジローを助けることになります。

この構図、シン・仮面ライダーにおける緑川家と同じですね。

 

ミツ子はダークで父の助手をしていたので、キカイダーの修理などをすることもできる。

組織の内部にいて、積極的に戦いに加わるミツ子は、シン・仮面ライダーにおけるルリ子の原型ですね。

今回、ライダーの緑川親子の基本設定に肉付けする上で、キカイダーの要素が大きく加えられています。

ハチオーグがプロフェッサー・ギルのセリフで語りかけるのは、ここでの本郷とルリ子がジローとミツ子でもあることを示しているわけです。

キカイダーとハチオーグ

同じ石ノ森章太郎作品であるキカイダーは仮面ライダーと構造は同じで、悪の組織に作られた主人公が、組織の支配を脱して、自らを作った組織に戦いを挑む…というものになっています。

なので、組織から見れば主人公は裏切り者

組織の側にも、主人公を憎み攻撃する「一部の理」があるということになります。

そこから、やり切れない切ないドラマが生じてくる。これぞ石ノ森章太郎イズムですね。

 

ハチオーグ/ヒトミから見れば、ルリ子は友達である自分を裏切って自分だけ逃げてしまったことになります。

彼女は内心では、深く傷ついたのかもしれません。

ルリ子を泣かせたいと言うのも、裏切られたという思いゆえなのかも。

 

本郷だけでなく、SHOCKERの人工子宮で育てられたルリ子も「人造人間」と言えるかもしれません。

サイボーグである本郷に比べても、ルリ子の方がより「人造人間」ですね。

 

後でヒトミはプラーナを充填してハチオーグに変わる際に「チェンジ」と言っています。

これもキカイダー。ジローが人間体からキカイダーに変わる際の掛け声です。

ヒトミの来歴は不明ですが、もしルリ子と似た出生なのであれば、ヒトミも「人造人間」なのかも。

プラーナ強奪

ヒロミは部下の戦闘員からプラーナを奪い、マスクを装着してハチオーグへ。

シン・仮面ライダーでは、オーグメントごとに戦闘員のスタイルが独自のものになっています。これも、オリジナル初期の表現の踏襲です。

オリジナルの蜂女の戦闘員たちは顔が黄色と黒の2色になっていて、男なのに女性の声で喋っていました。

 

「イチローさんにルリ子の保護を頼まれてる」とハチオーグ。

緑川グループであるイチローとヒロミが周知の仲であることが窺えます。

他人からプラーナを奪うことができるのはイチローとハチオーグで共通ですね。これが緑川オーグメントの特徴なら、おそらくバッタオーグも同じことができるのでしょう。

 

洗脳された民間人を前にして、本郷とルリ子は戦わずして撤退します。

食事とプラーナ

キャンプ用の調理用具を使って、手早く食事の支度をする本郷。「バイクツーリングは基本野宿」と、手慣れた様子を見せます。

街はハチオーグの支配下にあるので、どこかの店で食事というわけにはいかない。コンビニとかにも行けないから、野宿で自炊になるのは頷けます。

 

しかし、その調理道具はどこから来たんだ。

本郷が私物をピックアップする機会はなかった気がするので、調達したとしたらこれもまたアンチSHOCKER同盟かな。

この辺からも、政府の機関が24時間見張ってるという設定は極めて便利ですね。

 

どうせ調達するなら、弁当でも届けてもらった方が早い気もするけど。

でもそれじゃ、味気ないですよね。本郷が料理を作ってルリ子が食べるこのシーンは、本郷の改造以前の姿が垣間見えて、とても味のあるシーンだと思います。

何食ってるか見えないのが残念ですが。まあ、キャンプ用のレトルト食品なんでしょうね。

 

「俺は腹が減らないようだ」と本郷。

キカイダーでも、ミツ子とマサルが食事してる横でジローが「俺はこれだけでいいんだ」とエネルギーカプセルを体内に入れ、寂しそうにするシーンがありました。

 

プラーナシステムを持つオーグメントは、空気中に存在するプラーナを補充することで、生命を維持することができます。

それは実は、知らないうちに他の命を吸い続けているのだとルリ子は言います。

ハチオーグが他人のプラーナを奪う、そのもう一段穏やかなバージョンを、オーグメントは生きるために常に行っているのだと言えるでしょう。

 

人々が皆プラーナシステムを装着しても、行き着くところはプラーナの奪い合いで、人間は滅びる。

飢餓を無くし人々を幸せにしようとする緑川博士の希望の先に待っていたのは絶望でした。

ルリ子が辛辣なのは、彼女自身も一度は父と希望を分け合っていたからでしょう。

人間電算機

ルリ子の目が青く光り、ノートパソコンからデータを読み取って脳にインストール。

ルリ子は緑川博士の遺伝子をもとに、SHOCKERの人工子宮で生み出された「人間電算機」です。

緑川博士の研究を補佐する目的で、コンピューター機能を持たされたクローン人間であるようです。

 

遺伝子を引き継いでいるので、あくまでもルリ子は人間であり、機械ではないと思われますが。

でも、重ねられてるイメージはやはりキカイダーですね。

キカイダーで、ジローが体内に部品を組み込むことでその内容を「記憶する」というシーンがあります。

 

「チョウオーグが羽化したら激ヤバ」とルリ子。

サナギからチョウに羽化するのは「イナズマン」

特に石ノ森章太郎の漫画版イナズマンでは、主人公の超能力者としての覚醒がサナギからの羽化に重ねられています。

ハチオーグ戦

本郷の「プラン」で、ルリ子はアジト屋上でヒロミと対面。

ライダーは上空の飛行機から降下して、そのまま街の人々を支配しているサーバーを破壊します。

飛行機にはUSAFの文字が。アメリカ空軍ですね。

アンチSHOCKER同盟からは、自衛隊ではなく米軍が動く。意味深…かも。そう言えば「どこの政府」かは言ってなかった?

上空でのライダーのポーズ、降下の描写は、漫画版でコウモリ男から落とされたシーンを引用しているように思えます。

 

「スズメバチはバッタの天敵」と、ヒトミはスーツの男と共に、素顔のまま日本刀で勝負を挑みます。

刀は特別製で、「防護服もスパッと切る」。

刀によるバトルは、東映時代劇やヤクザ映画を引き継ぐものでもあります。

オリジナルの蜂女はフェンシングの剣で戦っていました。

日本刀での戦いはどうしても「キル・ビル」を想起するものがありますが、そこは黄色と黒のコスチュームによるものも大きいかもしれません。

 

「負けないけど勝てない」とのことで、ヒトミはスーツの男からプラーナを受け取り、ハチオーグに「チェンジ」。

黙って取るんじゃなくて「プラーナ貰うわよ」とちゃんと断るのがいいですね。そして、ためらいなく差し出す。この絶対的支配が女王蜂でしょうか。

スーツの男は洗脳されているのか。あるいはそうでないのかも…と思わせるところもあって、ドラマがあることを感じさせます。

顔に線が入るのはバッタオーグと同じです。「これで基本スペックはお前と同じ」。

 

ハチオーグはプラーナの羽根を展開。

これは当初、衣装としての羽根を検討したそうですが、結果的にはプラーナの表現で正解ですね。神秘的に感じられます。

超スピードをコマ送りのように表現するのは、「キューティー・ハニー」での表現を思い出します。

 

考えてみれば、「庵野監督の等身大ヒーローアクション」としては、本作は「キューティー・ハニー」に続いて2作目なんですよね。

カット割の多いアクション、アクションでのアップの多用、主題歌をかけてのバトル…など、アクションの演出は共通点が多くなっています。

マスク取っても変身は…

ルリ子が本郷にマスクを被せ、本郷はライダーとして戦うのですが、あれ? ここ、風を受けてないですよね?

しかし、「基本スペックは同じ」ハチオーグに勝つわけだから、ここは変身状態であるはず。

 

そこから考えると、マスクを取るだけではプラーナは排出されず、変身状態は解除されないことになるようです。

しかしそれならば、ここでの本郷の顔は異形の状態であるはずじゃないのかなあ…。

ちょっと釈然としない。ドラマ上で素顔である方を選んだ…ということかな。

ハチオーグの最期

ハチオーグが覚悟を決めたところで本郷はキックを外し、マスクを取ります。

「これ以上マスクをしていると君を殺してしまう」と本郷。

「うん。ダメ」とルリ子。

「あらら。優しいのね」とヒロミ。

ルリ子とヒロミが和解して、ハチオーグがライダーと共に戦う…なんていうパラレルワールドも想像してしまいます。

楽しそう!…だけどそうなるともう仮面ライダーとは言えないか。

 

情報機関の男がサソリオーグの毒を仕込んだ銃弾を撃ち込み、ハチオーグは倒れます。

サソリオーグの毒は、プラーナシステムでは分解できないもの。特務機関が独自にサソリオーグを急襲したのは、プラーナシステムに対抗する武器を手に入れることが目的でした。

ということは、彼らはライダーも毒で倒せるということになりますね。

 

「残念。ルリルリに殺して欲しかったのに」とヒロミ。

キカイダーでは、ダークロボットの白骨ムササビに倒されたハカイダー「どうせやられるなら俺はお前にやられたかったぜ、キカイダー」と言い残していました。

ヒロミ追悼

「ちょっと胸借りる」と本郷に身を預けるルリ子。

オリジナルにも漫画版にも友人として登場するルリ子とヒロミですが、ここに来てもっともしっかりと関係性が描かれることになりました。

 

「やはり人間は面白い」と満足そうなケイ。

光学迷彩のマントで姿を隠したK.Kオーグが、「ごめんなケイ、あいつら戻らないよ」と「本郷とルリ子殺害」を宣言します。

ケイはそれを止めない。だからやはり、ケイはイチロー側に立ってるわけでもないんですね。

あくまでも、ただ観察して記録するだけ。そしてSHOCKERの理念に従って、個々のオーグメントの望みは叶えられることを認める。

 

ルリ子を取り戻そうとするイチローの願いと、クモ先輩の敵討ちをしようとするK.Kオーグの願いは互いに矛盾するのだけれど、ケイはそこは気にしない。ただ成り行きを観察し、データを集めることのみがケイの目的です。

 

その4に続きます!

 

 

 

 

 

進んで怪人になったさそり男が登場する「仮面ライダー」第3話。

 

オリジナル蜂女が登場する「仮面ライダー」第8話。

 

ハカイダーが「キカイダーにやられるのではない」最期を遂げる「人造人間キカイダー」第42話。

 

 

 

 

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