Malignant(2021 アメリカ)

監督:ジェームズ・ワン

脚本:アケラ・クーパー

原案:ジェームズ・ワン、イングリット・ビス、アケラ・クーパー

製作:ジェームズ・ワン、マイケル・クリアー

撮影:マイケル・バージェス

編集:カーク・モッリ

音楽:ジョセフ・ビシャラ

出演:アナベル・ウォーリス、ジェイク・アベル、ジョージ・ヤング、ジャクリーン・マッケンジー、マッケナ・グレイス

 

①「ホラー」に徹した面白さ!

これは久々に、ストレートなホラー!

最近、「言いたいことは別にあるホラー」が多かったじゃないですか。

「キャンディマン」「アンテベラム」など。

まあ、それはそれで楽しいのだけど。

今回は久しぶりに、ホラー以外に言いたいことなんか何もないホラー。

とにかく怖く、えげつなく、ぶっ飛んだアイデアをコレでもかと盛り込んで、いかに観客の想像の斜め上に行けるかに躍起になっているようなサービス精神いっぱいのホラー。

 

とにかくテンポが速くて、先が読めない

ジャンルがどんどん変わっていく。

そして後半になるほどエスカレートしていって、最後はもう笑っちゃうような、エゲツナイ領域へと突っ込んでいく。

 

いや本当。ホラーはこうでなくっちゃ!と思いましたよ。

難しいテーマや主義主張ではなく、観る人をしばし存分に楽しませることに全力を注いでいる映画です。

②次々と展開していく先の読めなさ

妊娠中のマディソン(アナベル・ウォーレス)は、夫のDVで頭に怪我をします。その夜、マディソンは何者かが夫を殺す夢を見て、実際に夫の死体を発見します。それから、マディソンは何度も殺人の現場を目撃し、その通りの事件が実際に起こっていきます。やがてマディソンは、幼少期に存在したイマジナリー・フレンド、ガブリエルのことを思い出します…

 

本作は非常にスピーディーに、次々と物語の様相が変わっていきます。

バイオハザード的SFホラーの味わいあるアバンタイトルから、家の中に何かがいる!という「死霊館」的恐怖へ。

そこから、黒いコートの殺人鬼が街に出没するシリアルキラーものへ。

真相は失われた記憶の中にある…と過去を探っていく心理ミステリの局面から、見え方を一変させる衝撃的などんでん返しへ。

そして最後は、ターミネーター的大殺戮のモンスター・ホラーへ。

 

いや〜本当に、先が読めないというのは楽しいものだなあ!と、この間「アンテベラム」を観た後だけに強く思ったのでした。

 

局面ごとに連想さえる映画も、「バイオハザード」「AKIRA」「キャリー」「死霊館」「SAW」「エルム街の悪夢」「スクリーム」「サスペリアPART2」「戦慄の絆」「バスケットケース」「マニトゥ」「トータル・リコール」「遊星からの物体X」「2重螺旋の恋人」「ターミネーター」などなど、様々。

 

撮り方も、長回しや真俯瞰ショット、別々の場所で進行する出来事を一画面で見せるシーンなど、オマージュを感じさせる要素が。

真上からのショットで上の中を移動するマディソンを追っていくデ・パルマ的カットが良かったですね。階段を登ってそのまま2階まで追っていくところに、オマージュを超えていく意志を感じました。

 

③デ・パルマ、楳図かずお、伊藤潤二…

随所でブライアン・デ・パルマを連想するのは、本作が随所で見せるケレン味の追求ですね。

つまり、ただグロいとか、残酷であるとか、気持ち悪いとかでなく、あくまでもエンタメであるという姿勢。

映画としての快感につながることを前提として、ホラーシーンを構築していく手法です。

 

また、梅図かずお伊藤潤二のような、日本のホラー漫画も連想しました。

アイデアを尽くして、人体が、あんなことやこんなことになるエゲツなさ。

でも基本的に陽性で豪快だから、不快にならない。陰湿なムードにならないんですね。

 

最終的な「ガブリエル」の出現シーンが、ここぞとばかりに強調された、まさしく「ここが見せ場ですよ!」モードになっていて。

どこか昔懐かしい、「狼男アメリカン」なんかを思い出しました。

理屈もテーマもさておいて、まずは渾身のビジュアル・ショック。見たことない映像の面白さ。

 

捕まっていた女性が、床を踏み抜いて天井からドカーン!と落ちてくるシーンも良かったですね。そこに来たか!というね。

何事も、そうであった方が面白い方に展開していく。とにかく、展開に快感があるのです。

④ここからネタバレ! 注意!

ここまでネタバレ避けたので、ほぼ抽象的なことしか書いてないですが。

ここから先はネタバレ含めて書きます!のでご注意を。本作は予告編見てようが安心で、意外な展開を楽しめる作品なので、未見の方はこの先読まずに映画を観ることをオススメします。

 

本作のネタはブラック・ジャックのピノコですね! 奇形嚢腫

双子の1人が成長しきらず、しかしもう1人に吸収されもせず、脳や神経が生きたまま、もう1人の一部として生き続ける。

 

ピノコでも、奇形嚢腫の状態の時は超能力を発揮して、テレパシーで話しかけたり、周囲の人を操ったりしていました。身動きができない分、超能力を発達させた…という解釈でしょうか。

ジェームズ・ワン監督はピノコを参考にした…というわけではないでしょうが、本作はもしもピノコがめいっぱい邪悪だったら…の世界であるようです。

なおかつ、切り離してくれるブラックジャックがいなかったら、ですね。

 

手塚治虫の奇想は、「産まれることが出来ず、バラバラの器官として姉の体内にとどまり続けた双子の妹を切り離して、体を与えて人間にする」という、驚くべきぶっ飛んだ発想で、これ自体すごいな…と思うんですが。(そうやって作られた人間が、かわいいマスコットキャラクターになる、というのもすごい!)

本作では、「姉の体内にとどまり続けた双子の弟が、時折姉の体を乗っ取って支配する」という筋立て。なおかつ殺人鬼。これもなかなかぶっ飛んでます。

手塚治虫「ブラック・ジャック」より「畸形嚢腫」。

 

このネタをホラー…というか心理サスペンスに仕立てたのが、フランソワ・オゾン監督の「2重螺旋の恋人」(2017)」です。

こちらはホラー映画というわけではなくて、メタファーを散りばめた心理サスペンスという様相でしたが。ここでも、存在を許されなかった双子の片割れの怨念が、主人公の正気を蝕んでいくことになります。

⑤そして、独創的なモンスターの魅力

「2重螺旋の恋人」はあくまでも体内の双子の心理的な影響を描いていたし、ピノコも体内にいる限りは、切断手術の邪魔をする…という以上の影響を及ぼすことはできませんでした。

ジェームズ・ワンの双子はもちろんその先へ行く。マディソンを操り、超常的なパワーとスピードと不死身さを発揮して、夜の街を走り回って、現実的な殺人を繰り広げることになります。

 

そしてもちろん、肉体を突き破ってその姿を現す。

後頭部をメキメキ割いて、頭蓋骨も真っ二つに割って、脳に寄生した「ガブリエル」の顔が現れて、マディソンの表裏が逆になる。

横じゃなく縦のあしゅら男爵! 原作版のプロメシュームとメーテル! 実写版の両面宿儺、あるいは二口女!

 

日本の妖怪、二口女。

 

いや〜いいですねコレ。前と後ろに顔があって、後ろの顔が前を乗っ取るという実にわかりやすいビジュアル。

手足が逆関節になって、後ろ前で活動を開始し、そしてなぜかめちゃ強い

プレデター並みの強さで、囚人も警官も皆殺し。驚きの大殺戮で興奮させてくれます。

これまで、ありそでなかった魅力的なモンスターだと思います。

 

物語はこの後、マディソンが抵抗して、ガブリエルと最後の戦いを繰り広げ、そして家族への愛が最後の決め手になっていく…という定番の展開になっていくわけですが。

まあ、その辺りはある種の予定調和で。本作の面白さは、ガブリエルというキャラクターの魅力にとどめを刺されますね。

最後、続編への含みを残したハッピーエンドは相当に強引で、いや〜あれだけ警官を虐殺しておいてそれはないんじゃないかな!と思ったり思わなかったりではありますが、まあそれも含めて十分にお腹いっぱいになれる、爆盛りホラーだったんじゃないでしょうか。

 

独創性とサービス精神のあるホラー映画はいいですね。ホラーに限らず、あらゆる映画に言えることかもしれないですが。

本当、ストレス一切なく、楽しい時間が過ごせるホラー映画だと思います。オススメ!

 

 

 

 

 

 

主演のアナベル・ウォーリスとジェームズ・ワン監督の接点はこちら。

 

ピノコネタが同じ、アート寄りの奇妙なフランス映画。