Total Recall(1990 アメリカ)

監督:ポール・バーホーベン

脚本:ロナルド・シュゼット、ダン・オバノン、ゲイリー・ゴールドマン

原作:フィリップ・K・ディック『追憶売ります』

製作:バズ・フェイシャンズ、ロナルド・シュゼット

製作総指揮:マリオ・カサール、アンドリュー・G・ヴァイナ

撮影:ヨスト・ヴァカーノ

編集:カルロス・プエンテ、フランク・J・ユリオステ

音楽:ジェリー・ゴールドスミス

出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、マイケル・アイアンサイド、シャロン・ストーン、レイチェル・ティコティン、ロニー・コックス

 

①面白くて当たり前!

1990年公開、シュワちゃん全盛期のSFアクション。4Kリマスター版が唐突に公開です。

「コマンドー」「プレデター」の後、「ターミネーター2」の前のアーノルド・シュワルツェネッガー主演。

「ロボコップ」の後、「氷の微笑」「ショーガール」の前のポール・バーホーベン監督。

「ブレードランナー」フィリップ・K・ディック原作。

「エイリアン」ロナルド・シュゼット&ダン・オバノン脚本。

「ランボー」シリーズを大ヒットさせ、「ターミネーター2」で頂点を迎え、バーホーベンの「ショーガール」で玉砕するマリオ・カサールのカロルコ製作。

「猿の惑星」「エイリアン」ジェリー・ゴールドスミス音楽。

…と、今見れば面白くて当たり前の素敵な陣容ですね。

 

今年は公開30年になるわけか。

あらためて、本当に面白い映画だと思います。

同じディック原作でも、「ブレードランナー」にあった高尚な文学性とか哲学っぽさみたいなものは皆無で、B級路線ど真ん中を突き進んでる。

そして、本作に関してはそこがイイ!

シュワちゃんの肉体言語と、バーホーベンのやり過ぎ悪趣味、初期ディックらしいアイデアを活かしまくった二転三転するシナリオが、実に上手い具合に調和してると思います。

 

まさにてんこ盛りのB級グルメの美味さ。

あっという間に時間が経っちゃう、面白い映画。それ以上でも以下でもない!って感じです。

 

②4Kで復活!

今回の4K版、とても鮮明で、キレイだったと思います!

…って、前の映像を細かく覚えてるわけじゃないので印象だけですが。

とりあえず、火星の風景や様々な未来的ガジェット、楽しい特殊メイクなど、大画面で鮮明に見えるのは楽しかったです。今の映画を観るのと、大きく変わらない感覚で観れましたよ。

 

映画の冒頭には、ポール・バーホーベン監督のインタビュー映像がついてました。

インタビューというか…宣伝映像みたいな感じでしたけどね。3分くらいだったかな…。

 

「ロボコップを観たシュワが、連絡をとってきた」と言ってました。シュワ主導の企画なんだっけ…。

「CGを使わない特撮にこだわった」とも。当時はまだCGよりミニチュアや特殊メイクが主流だったと思いますが。

 

あと何言ってたかな…本編名場面の映像に気を取られて覚えてない。

まあ、細かい解説というよりは「めっちゃイイから見てくれよな!」というくらいの豪快な宣伝だったので、バーホーベンらしいというか、トータル・リコールらしいんじゃないでしょうか。

③テンポの良い悪趣味が炸裂!

本作はとにかく展開が速くて、どんどん次へ次へと展開していく。そのテンポの良さが何よりの魅力です。

 

ディックの原作に当たるリコール社の部分(寺沢武一の「コブラ」1話の部分でもある)を導入として、その帰り道にはさっそく元同僚だった奴らが襲ってきます。あっという間に返り討ちで、全員惨殺の血みどろに…。

この容赦のない残酷描写が、「ロボコップ」「スターシップ・トゥルーパーズ」などでも本領発揮されるバーホーベンの真骨頂ですね。

とにかく過剰で、常に予想の数歩先を行く。やり過ぎの弾けたバイオレンス描写。

 

ここでも襲ってくるのはさっきまで友達だったはずの連中なんだけど、反撃となったら容赦しない。迷いなくブッ殺す。

美人妻ローリー(シャロン・ストーン!)一瞬で豹変して全力に殺しに来るし、シュワも全力でぶん殴って反撃。

エゲツなさの極致は地下鉄のシーンですね。たまたまそこに立ってただけの一般人を盾にして、銃弾を受けまくってボロボロになったら、最後は敵にぶん投げる…!

 

無関係な人を巻き添えにしないとか、そんな行儀の良さやら忖度やらは一切無視

誰が死のうが何人死のうがお構いなしに突っ走る、いい意味での品のなさ(なんじゃそりゃ)が炸裂しています。

 

めちゃくちゃなんだけど、テンポが良くて考えるヒマもないから、爽快なんですよね。めちゃくちゃ過ぎて笑えてくる

バーホーベンの悪趣味は、ちょっとボタンをかけ違うと一気に不快な領域に突っ込んじゃうのですが、ここでは非常にいい具合なバランスが保てていると思います。

④現実が揺らぐディックらしさも

そういう、バイオレンスに満ちたバーホーベン流アクションなんだけど、本作はちゃんと要所要所にディックらしさもある。そこがまた魅力です。

 

クエイド(シュワ)が火星に飛んで、リクター(マイケル・アイアンサイド)に追われ、メリーナ(レイチェル・ティコティン)と出会って、話がだいぶ進んできた…というところで、リコール社の医者を名乗る男がローリーと共に現れ、「お前はリコール社で夢を見ているのだ」と告げる。

これが結構、それはそれでリアリティがある。今の展開はクエイドが望んだ夢そのものですからね。もしかして全部夢…?と、クエイドと一緒に観ている方も揺さぶられます。

ここは結局クエイドが医者の顔を伝う汗に気づき、医者を豪快にブッ殺して進んでいくわけですが、でももしかしたらそれも含めて夢の中…?という余地も残しています。そこが上手いし、ディック的ですね。

 

「ブレードランナー」で「もしかしてデッカードもレプリカント?」という想像が出来るように、本作も完全にB級SFアクションに徹するギリギリのところで、多様な解釈の余地を残しています。

だから、クエイドや反乱者たちに感情移入して、本流のストーリーに乗って観ていくことが出来るのだけど、最後の最後ハッピーエンドのところで、もしかして…とも思わされちゃう。

現実へのパラノイア的な感覚という、ディックの世界が立ち上がる。

 

それだけでなく、映画に溢れる様々なSF的ガジェットの数々も、ディック的なんですよね。

ロボットタクシーとか。

ホログラム装置とか。

ミュータントとか。

古代エイリアン文明の遺跡とか。 (この辺「コブラ」的でもあったりする)

ディックって、割と古風ないかにもSFらしいガジェットを多用する人でもあるので。ここも結構、らしさになってると思います。

⑤特殊メイクのサービスも満点

ディックの小説の特徴である、パラノイアに陥った主人公の苦悩…というのは薄い。

そこはシュワですからね。苦悩なんてしない

終盤の、クエイドの正体がわかるどんでん返しなんて、本当なら苦悩に繋がりそうなところですけどね。シュワだから一切悩まず、一瞬で行く道を決めて爆進して行きます。

 

なんていうか、本当にサービス満点ですよね。

おばさんの中から出てくるシュワとか。

乳房3つの女とか。

いきなりホラーになっちゃうクアトーの正体とか。

真空で内部から破裂しようとして飛び出る目玉とか。

 

特殊メイクは「遊星からの物体X」ロブ・ボッティン。コンセプト・アーティストは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でデロリアンをデザインしたロン・コッブ

この辺りの陣容もバッチリですね。

 

こうしてあらためて見てみると、1980年代SF映画の立役者がズラリと揃って、シュワとバーホーベンという強烈な個性をぶち込んで、闇鍋にしたら思いのほか美味な料理が出来上がった…という奇跡の作品。

やっぱり、そりゃあ面白くて当たり前!ですねこれは。

 

 

 

 

記憶テーマのディックSF映画。

 

ディックSFの代表格。でも、ディック特有のB級っぽさはむしろこれ以外の方が…かも。

 

原作はディックの初期短編。

 

「コブラ」1話と同じプロットなんですよね。発表は映画より「コブラ」の方が先。ディックの短編よりは後だけど。