Triangle(2009 イギリス、オーストラリア)

監督/脚本:クリストファー・スミス

製作:ジェイソン・ニューマーク、ジュリー・ベインズ、クリス・ブラウン

製作総指揮:スティーヴ・ノリス、マーク・グーダー、ステファニー・ヒューイー

撮影:ロバート・ハンフリーズ

音楽:クリスチャン・ヘンソン

出演:メリッサ・ジョージ、マイケル・ドーマン、レイチェル・カーパニ、ヘンリー・ニクソン、エマ・ラング、リアム・ヘムズワース

①ジャンル不明の導入部

この映画は、もう結構前に見たんですが、「何これ、すげえ面白い!」ってなったのを覚えてます。

イギリス/オーストラリア合作で、出てる人も作ってる人も知らない人ばっかりの低予算映画ですけどね。アイデアが秀逸で、まったく先の読めない展開が素晴らしい。

テンポが良くて、観る者を何度でもビックリさせようとするサービス精神が満載。

このクリエイターはきっと有名になる!と思ったりしたんだけど、音沙汰ないですね…。

でもとにかく、この映画が面白いのは確かなんで。観たことない方にはおすすめです!

 

シングルマザーのジェスは、仲間たちと共にヨットで海に出ますが、嵐にあって難破。漂流していたところで豪華客船に出会い、乗り込みます。しかし、客船の中には誰もおらず、幽霊船のよう。でもジェスには、どこか覚えがあるように感じる…。

そうこうしているうちに覆面の殺人鬼が現れて、ジェスの仲間たちは一人また一人と殺されていくのでした…。

 

…という話なんだけど、これはあくまでも導入部

船という密室でジェイソンみたいな殺人鬼に一人ずつ殺されていくホラー…と思ったら、ショットガンであっというまに次々殺されてしまいます。

この手のホラーで定番のクライマックス、ヒロインが一人だけ生き残って殺人鬼と対決。

でも、そこまでせいぜい30分

 

殺人鬼をやっつけて、誰もいない船にたった一人生き残ったジェス。

えっ、話終わっちゃったよ…この後どうすんの?と思っていたら…。

難破したヨットがまた現れて、死んだはずの全員が(ジェス本人も含めて!)戻ってくる

そして、同じ時間が繰り返される様子を、ジェスは別のアングルから見ていくことになります。本作はループものなんですね。

 

②他に見ないユニークなループもの

ループものって楽しいですよね。タイムスリップものの、特殊な1ジャンル…ってところだと思いますが。

どういうわけか、日本のアニメが得意とする分野でもあって。

アニメにおける元祖は、文化祭前日の1日を繰り返す「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(1984)だと思うんですがどうでしょう。

「ハルヒ」とか「まどかマギカ」とか。ラノベ原作の「オール・ユー・ニード・イズ・キル」とか。

 

多くのループものは、あるタイミングで時間が戻ってしまい、同じ時間を何度も経験する…という形だと思うんですが、本作のユニークなのは、主人公の主観的には時間が戻っていないように感じられるのに、シチュエーションが何度も反復されること。

仲間がみんな殺され、殺人鬼をやっつけた…と思ったら、さっきの自分と仲間たちが、またヨットに乗ってやって来る。

つまり、自分がどんどん増えていくんですね。

 

この特異な設定から、普通のタイムスリップものや、ループものでもあんまり見ない、かなり斬新なシチュエーションが起こってくるわけです。

自分との戦い、殺し合い。

ループを脱出するためになんとか分岐を作ろうとして、別ルートに逸れていく。

…と思いきや…という、予想と反転のバランスが上手くて、ついつい引き込まれていきます。

そして、ビジュアル的にも新鮮で。無限にループしていることを物語る大量のメモやペンダント。

ついには大量の同一人物の死体!

 

冷静に考えれば、なんかいろいろと破綻してそうな気もするんですけどね。

二転三転するハイテンポなプロットで、我に返るヒマもなくのめり込んでいくことができます。

③「ループという地獄」は実は原点に忠実

漫画におけるループものといえば、手塚治虫「火の鳥 異形編」(1981)を思い出します。

山寺を訪れて不死身と言われる八百比丘尼を殺した武士が、山寺から出ることができず自身が八百比丘尼となり、やがて訪れる自分自身に殺される物語。

これは、ある種の「神罰」「地獄」としての反復を描くループものと言えます。

 

現生を反復される修行と考え、輪廻を脱することを「解脱」と考える仏教の思想が、このタイプのループものの原点と言えるかもしれません。

 

本作のループは「地獄」

これは、上記のような意味ではその原点に忠実と言えるんですよね。

奇想を映像化したトンデモSFホラー…と言える本作ですが、帰結点は結構ダーク

割とシビアな問題提起がなされていたりもします。

その辺も含めて、好みは別れるかも…ですが、アイデアを尽くした作品であることは確かです。退屈せずに楽しめることは請け合います!

 

 

 

観たときは確かただ「トライアングル」だったと思うんですが、ビデオ化の際に親切なネタバレ副題がつけられたようです!