Blade Runner 2049(2017 アメリカ)

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

脚本:ハンプトン・ファンチャー、マイケル・グリーン

製作総指揮:リドリー・スコット

ライアン・ゴスリング、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、ジャレッド・レト

 

 

①正当な続編です!

 

もし以前の「ブレードランナー」が好きであれば、今回の「2049」も気に入る可能性が高いです。

思った以上に、正当な続編になっています。ストーリーやルックスだけではなくて、映画のテイストがとてもよく似ています。

映画のトーン、テンポ、語り口。映画全体の、なんというか、重量感。そう言ったものが共通しているので、観ているときの感覚がとても近いんですね。30年ぶりとは思えない、直後に作られた続編のような肌触りがあります。

 

テーマの面でも、同じことが言えます。テーマそのものと言うか、テーマの語り方ですね。

主人公陣営が正義で敵が悪、というようなわかりやすい構図がなくて、善悪の区別、正邪の区別が不明瞭になっている。人間が善でレプリカントが悪というわけではなく、かと言って単純にそれを逆転させたわけでもなく、もっと入り混じって曖昧模糊としている。どんな価値観をとるかで、善悪の区別も簡単に入れ替わってしまうから、観客は常に立場を揺さぶられ、価値観を問われることになります。

だから、普通の娯楽映画のようなスカッとするカタルシスはあまり味わえません。最後まで立場は揺れ動き、観客は頭を働かせてどんな立ち位置で物語を観るかを考え続けなければならない。そういう意味では、疲れる映画です。

でも、「ファイナルカット」のレビューにも書いたように、それこそが「ブレードランナー」のオリジナルな持ち味でした。

 

一般受けする明快なカタルシスを求めることをせず、ブレードランナーの持ち味を継承した結果、映画にシンプルな爽快感を求める方には不向きかもしれません。アメリカでも興行的に苦戦しているらしいのは、そういうところが原因でしょうか。

でも、ブレードランナーってそもそもそういう映画でした。最初の公開時には興行的に成功とは言えず、後になってじわじわと評価を上げていったはずです。同じ持ち味を追求した以上、同じような結果になるのはある意味当然かもしれません。ファンの立場としては、興行的リスクを背負いながらあくまでも原典に忠実な続編として製作した英断を歓迎したいところです。

 

ですから、全然観客に媚びていない。正統派の続編になっています。ブレードランナーが大好きだった人は、観て期待を裏切られることは決してないと思います。

ブレードランナーがあんまり面白くなかった人は…かったるいなあとか退屈だなあとか感じた人は、今回も同じように感じるかもしれません(今回の方が上映時間が長いぶん、更にきついかも)。

前作を観ていない人は…ストーリー的にわかりにくいところが出てくると思うので、観ておいた方がいいかも。ただ、前作を未見でも、考えさせる映画、単純でない複雑な映画が好きな人はきっと満足できるんじゃないかな。

 

②前作に負けないイマジネーション!

 

ブレードランナーの特徴といえば、独自性溢れる未来世界の美術があげられます。前作では、酸性雨が降り続く、日本や中国などの文化がデタラメに入り混じった混沌としたロサンゼルスの街並みが魅力でした。

今回も、同じくらいに強烈な印象の美術が楽しめます。街並みのカオス度はアップしているし、派手なネオンサインの中を飛び抜けて行くスピナー、というおなじみのイメージもより迫力ある表現になっています。

また、ロサンゼルス以外の環境…異常気象で溢れた海を塞きとめる巨大な壁とか、廃墟と化したラスベガスとか、魅力的な風景が次々に登場します。ブレードランナーの暗い未来の世界観を、現代の技術で再構築した映像として、とても見応えのあるものになっています。

 

前作では、未来のテクノロジーというのは空飛ぶ車とレプリカントくらいしか出てこなかったのですが、今回はホログラム技術とAIが大きなポイントになっています。

人間のように振る舞うホログラムがどんどん進化した結果、もはや人間と区別がつかない。それどころか、人間より人間的に見えるほどになっている。

人格を持ったホログラム」と言えばスタートレックを思い出します。あれもどんどん進化して、後の方のシリーズではレギュラーキャラとしてエンタープライズのクルーになるまでになっていました。こういう、SF的アイデアの結晶のようなキャラクターは観ていてとても楽しくなります。

ブレードランナー世界では、AIはレプリカントの下位互換のようなものと言えるのでしょうか。人間と機械との境界はどこにあるのか?というブレードランナーの大きなテーマに、また別の視点を提供しています。

 

③思考実験の面白さに満ちています!

 

劇中で、レプリカントが人間から「あなたには魂がない」と言われるシーンがあります。実際にどうかはさておき、この世界ではレプリカントには魂がないとされているということがわかります。

魂の定義もいろいろありますが、人間と自動機械を分けるもの、自我、自意識、クオリアといった意味であるならば、レプリカントはどんなに人間らしく振る舞っていても実は内面に自意識を持っていない。主観を持たない存在である、とされていることになります。

そりゃそうですね。そう考えているからこそ、簡単に殺してしまうことが出来るわけです。

 

しかし恐ろしいのは、この意味での魂があるかないかなんて、絶対に客観的に判別することはできないということです。

僕は現在自分の主観世界をありありと感じているので、僕には自意識がある、と断言することができますが、それを他人に証明することは原理的に不可能。誰も他人の主観世界なんて見ることはできないから。

脳を解剖して調べても、意識や主観、ましてや魂なんて出てきません。出てくるのは脳細胞や神経細胞だけで、それは結局複雑な電気回路と変わらない。ただ機械的機能が高度な計算をした結果、人間らしく振る舞っているに過ぎない、と見なすのを否定することはできません。そこに魂が「宿っている」なんてことは、誰にも絶対に証明できない。

 

だから、もし明日誰かに「お前には魂がない」と決め付けられたら、それに反論することは原理的にできない。もしその相手が絶対的な権力を持っていて、ブレードランナーを差し向けてきたら、もう後はただ逃げ回ることしかできないのです。

人間の基準、人間と機械を分ける境界というのは、実はそういう曖昧なものでしかない。

 

「ブレードランナー2049」では前作以上に人間とレプリカントの境界が曖昧で、不安定になっています。進化したAIは人間よりも人間性を備えているように見えてしまい、レプリカントを平気で殺す人間は人間性を欠いているように見えます。人間とは何か、人間が人間性を必ずしも伴わないなら、いったい人間であることに価値はあるのか

観ているうちにいろいろな思考が湧いてきて、止まらなくなってくる。思考実験をどんどん突き詰めていく面白さに満ちた、知的な、刺激的な映画だと思います。

 

ブレードランナー2049 レビュー(こちらはネタバレありレビューです)

ブレードランナー2049 ネタバレ考察 レプリカントとは何か?