まずは、こちらを・・・

 

母親はいつも父親に手作りお菓子を送る。

自分にも手紙を書けと言われるが、

大抵、適当な言葉を並べるだけだ。

母親の愛は、単純でつまらないと思う。

そこには、打算も何もない。

 常々、打算で何もかも

手に入れてきた自分とは、違うのだ。

 

たとえを好きだという気持ちと、

誰も気づいていない物静かな彼の魅力を、

自分だけが知っている優越感を、

美雪という存在に、すべて奪われた。

 自分がバカにする母親と同じような、

単純で子供じみた恋愛に、

負けたのだと認めたくなかった。

 

美雪を誘惑するのなんて、簡単だった。

彼女がたとえに求める欲求を、

彼女自身よりも先に気付いた自分が、

誘惑するのは、たやすい事だった。

 

彼女にキスして、彼女の体に愛撫した時は、

嫌悪感が残っていたのに。

自分に告白してきた男が、

自分の友人とホテルに入っていくのを見て、

苛立ちがヒートアップしていくのを感じた。

 自分にフラれたからと、

振った相手の友人と寝る。

たとえにフラれたから、美雪と寝る。

 何故だか、それが、

たとえへの最大の復讐になると思った。

 自分を冷静に振ったたとえの、

あの顔を、憎しみで歪ませたい。

 気付けば、美雪にキスし、体を絡めていた。

 

けれど、その事実を伝えても、

たとえは冷静だった。

 そこまでして、

自分に何を求めるかと聞いてきた。

「抱きしめて、キスして」

自分の願いを、たとえは叶えた。

けれど、どうしてだろう、

うまく、笑えない。

「貧しい笑顔だな」

冷たく言い放ったたとえに、

言い返せなかった。

 

美雪もまた、その表情を歪ませなかった。

 謝りながら、美雪が傷付き、

自分を憎めばいいと思ったけれど、

ただ、怖いと言った。

自分の行動ではなく、

嘘の謝罪を、怖いと言ったのだ。

 

 打算でたとえの愛を得ようとした思惑は、

2人を完全に傷付けたいという想いに

代わっていた。

それさえも、2人に吹き飛ばされてしまった。

 揺さぶる事が出来ない。

母親の愛をバカにし、

どうとでも出来ると軽んじてきた愛に、

逆に揺さぶられてしまった現状。

  

自分の価値もすべて喪失してしまった。

 打算も全て、馬鹿らしくなってしまった。

爪磨きも、自分を磨くことも、無意味だ。

廃退していく自分を、自分であざ笑う。

今までの自分は、偽物だった。

 

DV父親の前で、たとえは無力だった。

彼の影のある表情の原因は、

こういう事だったのかと、

ガツンと頭を殴られた気がした。

何も見えていなかった自分。

逆に、美雪はすべて見えていたのだ。

 

たとえに執着し、

彼を押さえつけようする父親は、

醜い。その醜い父親が、自分に重なる。

 反吐が出る。

そんな父親も、そんな自分も、

すべて殴って、なくなればいい。

 

たとえを、そっと労わる美雪を眺める。

まるでマリア様のようだな・・・って思う。

 自分がバカにしてきた愛の結晶は、

これほど美しものだったのかと、

初めて知った。

 

母親がまたお菓子を作り、手紙を書けという。

適当な言葉は、もう書けない。

母親のひたむきな愛に、

見合う言葉を探してみようか。

母親は爪も磨かなくなった自分も、

同じ娘だという。

そんな母親の娘だという事実を、信じてみようか。

 

折り鶴で出来たサクラの木・・・

これは、怨念のような木だ。

美しいけれど、私の呪いのような醜い祈りが、

一つ一つ込められている。

 途端に、おぞましくなった。

その木を蹴とばした。

バカみたいな感情は、

蹴散らしてしまえばいい。

 祈りながら折った折り鶴を、ひらく。

自分の感情を、解き放つように。

 

 たとえの為に目をさしても、

自分を好きにならないでしょう?

たとえは、美雪がそれほど好きなのだ。

 難しく考えるな。シンプルでいい。

たとえを、そっと後押しする。

 揺さぶられない愛を、突き通して欲しい。

そんな応援の気持ちに変化していた。

 

美雪は私にお礼を言った。

 

触れられる喜びと、心をひらいてくれたこと。

美雪こそが、自分の醜い感情の中から、

私でさえ知らない無垢な心を

救い出してくれた。

 

 彼女の元へ、走る。

何て言えばいいだろうか。

 

「また、一緒に寝ようね」

 

あの事は、特別な事でも何でもないよ。

私が、美雪に心をひらいただけの話よ。

 だから、また話をしよう。

どうだろう・・・このニュアンス、

美雪に届くかな?

 

感想

・・・という事で、面白い作品だったし、

若い時にありがちな、

独りよがりな感情や、思い込みを

見事に表現していたな~と思います。

 何度も言わせて頂くと、本当に、

山田杏奈さんの演技力の賜物だと思います。

すべての表情が、愛という人間の

心情を表していると思いましたね!

 

 最後の台詞は、「?????」

ってなりそうな所だけど、

私的には、こんな感じかな?っていう

解釈となりました。

 

3人の行く末は描かれていないけど、

たとえと美雪の関係が、永遠だと思わない点が、

この作品の素晴らしい所だと思う。

つまり、それほど、「刹那的」な作品に

仕上がっているというワケです。

 

なんの未来への確証もない感情に、命をかけて、

翻弄された日々があった。

 そんな一瞬を切り取っただけ。

 

美しさだけではない、

身を切るような刹那があった。

そんな自分の若かりし頃を、

なんとなく想い出させてくれるのだ。

 

タイトルの「ひらいて」という意味は、

心をひらくこと、

体をひらくこと、

自分の負の感情を、ひらいて、

解放させること

 

いくつものメタファーが存在し、

それぞれが、多感な心に影響を受け、

与え、成長を遂げる。

 

甘酸っぱい爽快感が残る、

美しくて、切ない成長物語だ。