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作品を読む  敗北から始まる作品



 マルクス主義というのは現在では想像もつかないほどに、60年代までは影響力を持っていた。それはある種の「正義の論理」だったのであり、それに賛成するにしても反対するにしても、それ抜きには話が進まないような一つの「準拠点」としての機能を果たしていたのである。

 しかし60年代の終わりには内ゲバと呼ばれる内部抗争ばかりを繰り返す学生運動に、時代は期待感を無くしていった。「革命闘士」になるべく北朝鮮への亡命を図ろうと、航空機をハイジャックした「よど号事件」(1970年)。また戦闘力を鍛錬するための合宿で、互いに互いをリンチ殺人することになった「あさま山荘事件」(1972年)などの連合赤軍の起こした事件などで、一般社会は完全に「革命運動」から関心を遠ざけた。
 おりしも1970年に大阪で開かれた万国博覧会は、時代を「技術の進歩と、経済の発展による未来」に来るべき社会像の変貌を告げた。それは「社会運動によってもたらされる未来」ではなく、「進歩と発展によってもたらされる未来」だったのである。

 しかし「技術と経済」がその社会運動の流れに変わったとき、そこには準拠点となるべき「正義」はなかった。いわばそれは「正義抜き」の社会改革だからである。
 その意味では「運動」は『敗北した』。実は70年代に作られた創作物には、この敗北の実感が込められてるものが少なくない。例えば『帰ってきたウルトラマン』の郷秀樹は、事故から生還してウルトラマンになるが、そこにはどこか虚脱感を滲ませた無力感が漂っている。またそれを反映するかのように、「帰ってきたウルトラマン」は実に弱く、何度か敗北し殺されたことすらある。

 もっと典型的な形で「運動の敗北」を引き受けたのは『仮面ライダー』だったのだが、そのプロデューサーの平山亨氏は、「仮面ライダーは何のために戦うのか?」と自問したという。既に運動は敗北し、「正義のために戦う」ということが、逆にその「正義」によって悪へと変わることを平山氏は実感していた。「仮面ライダー」は、「正義」のためには戦えない。
 その迷いの一つの答えが、一話だけ脚本を手掛けた市川森一との対話によって生まれた「市民の自由のために」というテーゼだったという。結局「正義」か「悪」かということはさておいて、市民の自由を不当に奪うもの、それと戦う、ということなら納得できると平山氏は結論したのだった。

 このテーゼは実はその後、『仮面ライダーストロンガー』や、『イナズマン』という作品に具体的に現れる。ストロンガーの登場シーンの名乗り、「天が呼ぶ、血が呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと俺を呼ぶ! 俺は自由の戦士、仮面ライダー・ストロンガー!」には直接それが見られる。イナズマンはもっとシンプルに、「自由の戦士、イナズマン!」だけだが。
 ちなみにこの『イナズマン』という作品は、全編にわたって「敗北気分」が濃厚な異色作である。デスパー軍団に捉えられ、デスパーシティという都市に監禁されたように暮らす人々には、反デスパーを掲げるレジスタンス組織があったりする。

 おまけにそのストーリーにも、成功をもくろんで組織を裏切る者や、姉弟で互いに陰で動いていることを隠すなど、その「運動」の名残が濃厚に出ている。これは恐らく、多くの回を手掛けた脚本の上原正三におう影響が大きいだろう。
 上原正三は金城哲夫と同じく沖縄出身者で、『ウルトラマン』を手掛けていた頃の金城とは違い、この頃には沖縄が日本に返還されている。しかし前記した『帰ってきたウルトラマン』もまた上原が最初の作品ベースを書いており、そこになぜか「敗色濃厚」な雰囲気が漂っているのは疑いがない。

 故郷との断絶におかれていた金城は、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』で、痛烈に政治的言説の欺瞞を書き込んでいった。それは一種の「戦い」の記録である。しかし上原が主に活動していた時期は、沖縄は既に返還されている。ここにはもはや「戦い」の余地がない。
 その意味では上原もまた「敗北」から始めなければならなかったのだろう。上原作品では、都市が壊滅的な打撃を受けるとうような事が多いといわれているが、『帰ってきたウルトラマン』の出色の問題作「怪獣使いと少年」のように、取り返しのつかない悲劇を招くことも多い。

 「怪獣使いと少年」は、通称「11月の傑作選」言われる4本の回のうちの一本だが、子供が見たらショックを受けそうなほど暗い話である。ここには怪獣使いの異星人と、差別されイジメられている少年の交流が描かれているが、そこに現れる「普通の人々」の残酷さの描写には鬼気迫るものがある。
 上原作品では「サイボーグ」、「人間爆弾」といった題材を好んで取り上げるという。また市川森一の「普通のドラマを書いたら」という勧めに、「今のドラマで怪獣や宇宙人、ロボットの姿を通して日本人以外の存在を描けるのは子供番組だけだから」というような答えを返したという。
 
 つまりそのような「外部者」の観点から上原は創作を続けていたわけだが、それはつまりマイノリティであることが既に一つの「敗北である」ような地平に立っていたということである。上原のこの「敗北者」的メンタリティが、「正義」を失った当時の空虚な社会にピッタリとフィットしたのであろう。
 上原のこのような「敗北者」的メンタリティは、70年代の中盤くらいまで維持されるが、80年代に入ると『宇宙刑事ギャバン』のような極めて明るいカラーのものに変わってゆく。

 これは一つの見方だが、ギャバンは、頼まれもせず賞賛されることもないのに宇宙からやってきて、命がけで地球を征服しようというマクーと戦っている。それはつまり「外部者」であるかもしれないが、「その地」を愛し、思うことができたという証であり、その結晶が『宇宙刑事』だったのではないか。
 それは振り返ってみれば、「宇宙から来たウルトラマン」が地球のために戦った、金城哲夫のとった道の反復だったかもしれない。金城哲夫は沖縄に帰って更なるギャップに苦しむことになるが、上原は本土に残って次々と作品を書いたのである。

 話を戻すが、『仮面ライダー』とはそもそもから「運動」の影響を大きく被っている。というのも「ショッカー」という組織は、明らかに当時のテロを繰り返す過激派が意識されてるからだ。
 そこで「改造を受けて脱出した」本郷猛とは何者か? 本郷猛は革命運動等に関わったり、またマルクスの思想・理論等を身につけた上で(つまりこれが「改造」である)、その組織から離れ、逆にその組織のテロ活動を阻止する者ということになる。

 本郷猛が「クウガ」のように、日本の警察と協力体制を作ったりしない理由がここにあるかもしれない。警察は本郷たちにとって、むしろ場合によっては敵対的だからだ。
 以上のような事が勝手な推測でないということを、実はよく証明する例がある。『仮面ライダーV3』における第48話、「見た! デストロン首領の顔!!」である。

 これはV3の協力者でもあるライダーマンとV3が、デストロン首領が現れるという情報をキャッチして、そこを襲撃しようという話である。
 しかしライダーマンである結城丈二は元デストロンの幹部候補だった学者であり、特に自分を拾ってくれたデストロン首領には特別な思い入れがある。その複雑な感情を抱えたまま結城はV3とともに首領襲撃を行うが、土壇場になって首領を逃がしてしまう。

 それは「デストロンが正義でない事は判ってるが、衝動でつい動いてしまった」結城のとっさの裏切り行為だった。V3である風見史郎に結城はわびると同時に、「どんな罰でも受ける」と言うが、風見は結城の複雑な心情を察し「…もういいさ。けど結城、もうこれからは、こんな事はするなよ…」と許す、という話であった。
 仮面ライダー1号と2号によって改造されたV3には、己の正義に迷うことはない。しかし元デストロンでもあった結城丈二は、その悪を知りつつもそこにある「想い」がある。それは「敗北」の記憶とともにある離脱であり、そこからしか「新しい正義の道」は踏むことはできなかった。

 それはつまり郷秀樹や、元ショッカーだったといってもいい本郷猛の持つ記憶と、基本的には同質の「想い」だと言うことができるのである。と同時にそれは大きな眼で見れば、「敗北」から始まった戦後日本の持つ「想い」とも重なってくるのである。

 
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