身を切るような寒さから帰ってきた。

ヤレヤレと手を擦りながら、とりあえずの暖を取ろうと台所のストーブに点火する。

凍りついた洗濯物を取り込み、湯船を洗い終わった頃、ストーブにかけたヤカンの湯がコトコト言い始める。

コーヒープレスで抽出した豆の味は嫌いではないのだけれど、粉っぽくなるのと変な酸味が出てくる前に飲まなきゃいけないので、淹れ方に次第ではエスプレッソよりも飲む側に緊張を強いる意味では、せわしない気がする。

我が家では焙煎した豆のまま買い、使うだけ挽くスタイルで淹れている。
ペーパーフィルターにスプーン三杯の細挽きモカ。

しゅんしゅんと音を立てるヤカンからほんの少し、豆を蒸らすためドロップ。またヤカンをストーブに戻し、しばらく待つ。

フィルターから昇る湯気が半減した頃、 肩の高さから湯をとぼとぼ注いで泡を眺めていると、勝手口から物音が。

なぜ今まで気づかなかったのだろうか。


裏手の勝手口がほんの20cm開いている。

物音のする方を、そっと覗く。


ゴソソ、ゴソゴソ。


ふご、ふごっ、ふごふご。


…ウリ坊…

イノシシだ。
今朝収穫した野菜を一心不乱に貪っている。

おのれ。
子供とはいえ不届き千万、とっつかまえて鍋にしてくれるわ。

そっとその場を離れ、スリングショットを持ち出そうと棚を探っていると

ふごっ?


ふご、ふごふご!

スサササササ


…爪先立ちの小刻みなダッシュで逃げられた。



親じゃなくて良かった。
空が白みかけた頃、携帯のアラームに目を覚ましてストーブを点ける。


じわじわと暖まり始める室内。灯油ストーブの明かりに照らされた壁に一瞬、せわしない影が映った。

まったく、この客人は早起きだ。もう朝の体操をパタパタと始めている。
今度こそ、出て行っていただこう。幸い色々と落とし物の多い我が家のことだ。あれだけバタバタ飛び回って、何かしら食事も取っただろうさ。

大きい窓を開けようと近寄ると警戒して逃げるため、屋根裏の小さな明かり取りの窓を開けた。


風が入って寒い。ゆえに、空気の入る場所に気付いたらしい。
彼は比較的物静かな羽音で明かり取りの桟に着地すると、こちらを一瞥して、ふいと頭を垂れたように見えた。

そんなまさかと目を擦ると、もう雀は窓の隙間から、朝靄の彼方へ飛び去っていた。


小鳥に一宿一飯の恩義など感じていただいても仕方ないのだけれど、大したもてなしも出来なかったのを今となっては悔やむ次第である。

ま、発つときはすこぶる元気そうで良かったのだが。
どうやら部屋の窓から雀が飛び込んだらしい。

換気に窓を開けていた時に迷いこんだようだ。


僕がベッドの中に居ると、どうも足元の下のほうでパタパタうるさい。


一瞬羽が見えたので、やっぱり雀だ。


 さあどうしたものか。
とっつかまえて放すのも可哀想だし、
いやそもそも部屋の中とはいえ飛び回る雀をとっつかまえる技術はないので、
何かの拍子に出て行くまでは窓を開けたまま過ごすしかなさそうだ。

外は今日も雪がチラつくほど寒い。下手に餌を与えて居着かれても困るので、日が昇り体が温まったら旅立っていただきたいものだ。


この客人はしかし、遠慮が無いというかシャイというか屋根裏の僕の寝室に隠れて姿を見せない。
こちらも寒いのでストーブなど点けていたが、さすがに寝るときは消すから大して暖かいわけではないし、窓を開けたままは余計冷えるので閉めた。

しばらく耳をすませていると、羽ばたきの音が小さくなって止まった。
というわけで、この小さな泊まり客は僕のベッドの下で先に寝てしまったようだ。


やれやれである。