彫刻家 杉 英行さん 第4回~ 木の生命力を最大限引き出すように・・・ ~
みなさま こんにちは。
彫刻工房くさか 日下育子です。
今日は素敵な作家をご紹介いたします。
彫刻家の杉 英行さんです。
前回登場の岡村 光哲さんからのリレーでご登場頂きます。
彫刻家 岡村 光哲さん 第1回
、 第2回
、 第3回
、 第4回
、 第5回
、 第6回
杉 英行さん
第1回 ~ 木は一番馴染みます ~
第2回 ~再生する力(生命力)を伝えたい ~
第3回の今日は、杉 英行さんの制作や素材についての思いについて、
寄木作りと一木作りのこと、また作品「予感ーRESURRECTION(’01)」について
お話をお聴かせ頂きました。
巻末に杉 英行さんの手記「木彫は楽しい」も掲載いたしました。
どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。
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RESURRECTION
160x160x45cm
2000年
碑
木
2000年
作業台‐再生
木 57x57x93cm
2002年
門
木
2004年
飛ぶ 2
木 45x14x33cm
2011年
さすらい人
木
2012年
日下
前回は、木の組み方や、個別の作品の技術面、見せ方について
伺いました。
改めまして、杉 英行さんから何か想いをお聴かせ頂けないでしょうか。
杉 英行さん
木のことについてなんですが、
以前横浜の教育員会から、美術教員のための講習会の講師を頼まれて
夏休みにやりました。
その時、実技と講義と午前午後で分けて、
講義の時に日本の木の文化についてやったのですが
その中で、「寄木作りと一木作り」について述べている原稿が残っていたので
読んでも構いませんか。
日下
はい、ぜひお願いいたします。(ワクワク)
杉 英行さん
「最近私は、寄木作りに凝っていますが、寄木ならではの木目の美しさをもつ面白さがあり、
かたちの自由度があります。
しかし木は割と楽にサクサクと削れるので、寄木の場合、
自分の作りたいイメージに木を従わせ、本来木に備わっている生命力、力強い存在感など
細かい工作をすればするほど、薄れる結果となります。
反面、一木作りの場合は、原木を前にしてその木が育ってきた歴史が感じとられ
節があったり、曲がっていたり樹皮の様子も違って既に一つの生命体であり、
自分の領域をもった存在であることを強く訴えてきます。
自分の表現したいものと、その木の持っているものとの対話、あるいはせめぎ合いを通して
造形的イメージを育てていかなくては本当の木彫の面白さも良さも分からないでしょう。
寄木作りをする場合でも私はそのことを意識して、木の生命力を最大限引き出す
努力を するようにしています。」
と書いてあります。
日下
素晴らしいですね。
先生方の反応はいかがでしたか。
杉 英行さん
先生たちは、この講義の段階では数人が居眠りしていました(笑)
日下
あららら。(笑)そうでしたか。
杉 英行さん
学校の先生なのにね。
実技の段になると我れ先に材料を取りにきて。(笑)
一応みんなね、大学で美術の教育を受けてきたような人たちですから、
芸大卒の人も一人いましたし。
だから実技の時に作る作品は結構個性的で面白かったですよ。
日下
今の文章、素晴らしいですね。
寄木にしても木の生命感を引き出していってというのは素晴らしいですね。
杉 英行さん
難しいですよね。
一木作りには叶わないですよね。
日下
でも、杉 英行さんの作品は寄木にされていることで魅力が
増幅しているような作品が多いように感じます。
杉 英行さん
寄木にすると制作の自由度が高いんですよ。
予感‐RESURRECTION
200x200x45cm
2001年
日下
ちょっと興味のあるところのある作品があります。
「予感ーRESURRECTION(’01)」という作品の
木の使い方は面白いなと想います。
杉 英行さん
アーチ状の作品ですね。
球体の一部が地表に出ている感じですね。
日下
そうですね。
この作品の木の、くっと浮きあがっているところが
本当に「予感」だなという感じが。
杉 英行さん
でも全体的には球のかたちの一部分が上にみえるというそういう感じですから。
球というのは生命を象徴しますよね。
日下
ええ、そうですね。
杉 英行さん
それを意識したのと、ニューヨークのビルが・・・・。
あれは2001年でしたがその年に作ったのかな。
日下
ああ、そうでしたか。
杉 英行さん
ですが、私はあの事の前に作ったんですね。
跡地にモニュメントをつくるコンペがあったんですね。
建築家の安藤忠雄が出品したのがあって採用されなかったんだけど
安藤忠雄展を見に行った時にその模型があったですよ。
そしたら発想がこれとそっくり。
安藤忠雄の方は本当にツルツルした球で、
その球の一部が地表に出ているかたちでした。
僕の作品と似ているなと感じました。
私が真似したんじゃないと、私の方は前の年に作っていますから・・・。(笑)
日下
そうでしたか~。
表現しようとするものの意図が近いと
そういうことってあるんでしょうね~。
杉 英行さん
そうですね。テ―マとして同じですからね。
「ーRESURRECTION」で同じ「蘇り」というテーマですからね。
日下
そうですね。
とても興味深いお話をありがとうございました。
方舟ーⅡ
木
1999年
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今回、岡村 光哲さんからのご紹介で、初めて杉 英行さんのお話をお聴かせ頂きました。
杉 英行さんは「再生」をテーマにした作品制作をされています。
このテーマについての手記で杉 英行さんは
「例えば、どんなひどい状況下でも、矛盾と混沌の中からいつか必ず再生する力
(生命力)が生まれてくる事を、感じとってもらえるような表現をし、伝えたいと思います。」
と書かれてあり、杉 英行さんの作品制作の常に根底にあるものだと感じました。
さて、杉 英行さんは横浜市緑区の築100年の農家住宅にお住まいだそうです。
今はトタンの屋根ですが、もともとは茅葺屋根だそうで、ご自身も手伝って
萱の葺き替えをされたこともあったそうです。
冬の暖房は薪ストーブで、薪はご自身で割られるそうです。
そのような自然に近いライフスタイルも、澄んだ豊かな感性を保ち続けていらっしゃる
秘訣なのかも知れないと私は感じました。
みなさまもぜひ、杉 英行さんの彫刻作品をご覧になって見てはいかがでしょうか。・
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◆杉 英行さんが登場するWEBページ
◇ 自由美術協会公式ウェブサイト
◇ 杉 英行さんの紹介ページ
◆杉 英行さんの手記 「木材入手顛末記」
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◆ 杉 英行さんの手記
木彫は楽しい
自由美術協会 彫刻部会員 杉 英行
木彫を始めて30年近く経つ。続けて来られた事に感謝している。
木という素材は自分の姓が木の名前だからという訳でもないが、
体質に合っているようだ。
木との出会いも楽しい。
自分と同じかそれ以上の年月を生きて、
各々樹種も個性も違う、色も匂いも木目も違う、
それぞれの年輪の培ってきたものがあり木自身が発するものがある。
だから作品のイメージは自分の表現したいものと木との対話によって
変化熟成してゆく。
イメージの骨格ができたら鋸を入れ鑿を手にする。
さらに対話を続けながら彫ってゆく。
こうしたプロセスは時間を忘れて楽しい。
また肉体労働でもあるので適度に疲れる。これも心地良い。
ともかく木彫が続けていられること自体、大変幸せな事だと思う。
作家の中には、七転八倒の苦しみを経て作品を生み出す
という人もいるらしい。
自分には理解出来ない、と友人の牧師に言ったら、
その人にとってそれは快感なのだとの答えだった。
なるほど・・・。
自分の場合、制作を続けること自体が困難なのだから、
苦しかったらやめている。生活は苦しくとも、制作は楽しいからこそ、
これからも意志を強く持って続けていきたいと思う。
平成20年10月
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