彫刻家 杉 英行さん 第2回 ~再生する力(生命力)を伝えたい ~ | 幸せな人が集まる会社 株式会社みんなの学び場 公式ブログ

彫刻家 杉 英行さん 第2回 ~再生する力(生命力)を伝えたい ~

みなさま こんにちは。

彫刻工房くさか 日下育子です。


今日は素敵な作家をご紹介いたします。

彫刻家の杉 英行さんです。




杉 英行さん


前回登場の岡村 光哲さんからのリレーでご登場頂きます。

彫刻家 岡村 光哲さん  第1回  第2回  第3回  第4回 第5回  第6回 


杉 英行さん 

第1回 ~ 木は一番馴染みます ~


第2回の今日は、杉 英行さんの制作テーマについて、
「再生」というテーマ、彫刻によってメッセージを伝えたい、という想いと

作品「方舟」シリーズについてお話をお聴かせ頂きました。

巻末に杉 英行さんの手記「再生というテーマについて」も掲載いたしました。

どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。


************************



作業台ー再生 Ⅰ  

作業台‐再生 
木 57x57x93cm
2002年 



作業台ー再生 Ⅱ

作業台‐再生Ⅱ
木 60x60x80cm
2003年 



resurrection_5

RESURRECTION
160x160x45cm
2000年



RESURRECTION(’01)

予感‐RESURRECTION
200x200x45cm
2001年



閉じ込められた意思ーⅡ

閉じ込められた意思‐Ⅱ
木・鉄
2008年 



焦土から Ⅲ

焦土から

2009年 




日下
杉さんの文章を拝読しながら、作品を拝見いたしました。

その中の
 『(前略)~「再生」は、死あるいは破壊と表裏一体のものです。
  生きることは、現在という瞬間において、自らを創造し再生する事でもあります。
  過ぎた一瞬はもう既に存在しないので、死んだのと同じです。
  常に新たなる再生をしなければなりません。~』
という文章がとても印象に残りました。


この頃に作られたのが「作業台‐再生」、「作業台‐再生Ⅱ」という作品ですね。


杉 英行さん
後から送った『resurrection』という作品もそうですね。
『resurrection』というのは「蘇り」という意味なんですよ。
なので、再生と同じ意味です。


日下
そうですか。
私は特に「作業台‐再生Ⅱ」という作品に力を感じました。
上手く言えないのですが、この作品の作業台というものが
物体というよりは、彫刻を作る為の「場」として感じられます。


作業台の上に半球で、台の下からは鋭角に出てくる、
台に内包されているかたちは、まさに杉さんのクリエイティブ・スピリットというか
精神を造形化しているものなのかなと感じました。

  

杉 英行さん
そう解釈されて、その通りです。



日下
そうですか。
私にとっても「再生」は関わりあるテーマですが、
杉さんはご自身が生きることそのものを「再生」と捉えていらしゃるのが
新鮮に感じられました。



杉 英行さん
そうありたいということです。希望とか。


実際はそんなに・・・。
毎日毎日、希望としては思っていますが厳しいです。
生きるという意味では。


日下
そうですか~。それから
『(前略)~ご自身に厳しくありたいと思っています。』と書かれていますが
具体的に心がけていらっしゃることはおありでしょうか。



杉 英行さん
作品に対して、制作に対してということです。

例えば、こういう風にして見せ場を作ろうとか、
あるいはこう見せてやろうとか、何かそういう風に思いがちじゃないですか。
なんというか小手先のこと。
そういうことに絶対走らないと。(笑)


日下
ああ~。なるほど~。



杉 英行さん
ピアニストのオヤマさんと言う人が書いていた文章なんですけど
画家のゴヤについて書いていた文章なんですが
「自分の全存在をかけて、生きるということの意味を絵筆で問うていた。
 そこにはこう見せたいとか、そういう下心も作為も一切ない。」
というようなことを書いているんですよ。


自分に厳しくしたいというのはそういうことなんです。



日下
そうですか。
でもそれは凄く難しいことだなと思います。
そういう方向に走らないように自分を律しながら
かたちを作っていくというのは、とても難しいことですよね。



杉 英行さん
そうですね。



日下
凄いことだと思います。
それから杉さんの文章の中で、
『私は政治家ではないし、声高に自然保護や反戦活動をやっている訳ではもありません。
 一人の木彫作家として、作品によって伝えたい。
 少しは社会的な運動にも参加するかもしれないけど、彫刻によってメッセージを伝えたい。
 メッセージといっても、具体的な「再生」そのものではなく、また再生の説明でもありません。』
というところもとても印象に残りました。


作品で伝えていきたいというすごく強い意思がおありですよね。
というのは、学び場美術館でインタビューさせて頂いていると
メッセージを伝えたいと明言される方は、意外にそう多くはないのです。


制作プロセスから生まれてくるもの、制作を通して感じたことを
表現していらっしゃるという方が多いと感じます。
「メッセージ」と仰る方は少ないと思います。


杉 英行さん
基本的には、仰った方と同じだとは思いますけど。
だから、自分では意識しているところもありますけど、
どう受け止められるかはわからないので。


だから、上手く説明できませんが、
あまり具体的な事例に対してのメッセージではないんですよ。
「閉じ込められた意思ーⅡ」という作品がありますが。


日下
ええ、これは訴える力と緊張感が素晴らしい作品ですね。



杉 英行さん
あの作品を制作したのは、
ミャンマーの仏教徒の人たちが弾圧されたんですよね。
そのことがきっかけだったんですけど。


他にも本当は何点かあるんですけど、それもちょっと反戦のメッセージを
込めたつもりではいたんですけど。


でも内容的には、「焦土」という作品がそうですが、
戦争で焼かれた大地、焦土の中から必ず再生していく生命力みたいなものを
信じましょう、というような内容ですよね。
だから再生のテーマとずっと繋がっています。



日下
そうですね~。文章にある
『どんなひどい状況下でも、矛盾と混沌の中からいつか必ず再生する力(生命力)が
 生まれてくる事を、感じとってもらえるような表現をし、伝えたいと思います。』
ということは、すべての作品に共通しているのだなと感じました。





方舟ーⅠ

方舟ーⅠ
木 150x70x60cm(本体のみ)
1998年



方舟ーⅡ

方舟ーⅡ

1999年




忘れられた方舟

忘れられた方舟
53x44x22cm
1999年 



方舟ーⅡ

方舟‐Ⅲ
木・アクリル絵の具 90x35x35cm
2012年 



方舟ーⅥ

方舟‐Ⅵ  
木・アクリル絵の具69x69x70cm
2013年 



日下

さて、もう一つ印象的に感じる作品が「方舟シリーズ」です。
よく拝見していましたら1998年、99年、2000年と三つ作品があって
その後2012年から制作を再開していらっしゃいますね。



杉 英行さん
そうですね。



日下
私は、最初カラフルな彩色に眼が行って、楽しい彫刻だと感じていたのですが
見ているうちに、だんだんと彩色が、舟の外側、舟がわたっていく空間を反映した
ものではないかと感じました。 方舟の窓かなと思われるような部分もあります。


「方舟Ⅵ」になって来ると、舟の造形がカプセル状というか、半球の屋根になっていて、
シェルターとか潜水艦のようにも感じられます。


そうだとすると、勝手な読み込みかもしれませんが、この頃起こった出来事など、
何か特に祈りを込めていらっしゃる作品なのかと感じたのですが。



杉 英行さん
そうです。
題名は「方舟」なんですが、
1998年99年頃の作品と違って彩色をするようになったんですけど。
彩色するというのは、絵画的な手法を取り入れたかったんですね。


しかし木のもつ素材感も殺したくないと。
木のもつ素材感を活かす方法で、絵画的な手法を取り入れて制作したいなと。


それで特に意図は無いんですけど、
もともと木彫をやっていること自体が楽しいので
そういう色を彩色することも凄く楽しくて、
作品を観た人が楽しく作っているなというのを感じてもらえたらいいなと。


まあ発想、・・・発想と言うほどでもないんですが、
例えばエジプトの王家の石棺がありますよね。
で、あの棺ってやっぱり非常にきれいに模様を描いたり、色を塗ってありますよね。
金箔を貼ったり。それがちょっとヒントにもなっています。



日下
そうですか~。(感心!)
「方舟」という言葉から、キリスト教のノアの方舟をイメージしてしまうんですが
杉さんの作品そのものが表現しているのは、なにかもっと違う、
精神の方舟かなと感じました。


  

杉 英行さん
ノアの方舟も、あれは洪水、神様が洪水を起こすと、
一部の人に新たな世界へと行けるように方舟を作らせたと。
まあそれは根底にはあるんですよ。


で、そこから翻案(ほんあん)して、いろんな、もっと広い意味でいければと。
生とか死とか、いうことも含めています。


日下
素晴らしいですね。


杉 英行さん
独りよがりでなければ良いんですが。



日下
いえ、なんというのでしょうか、
カラフルな凄く、楽しく伝わってくる部分とはうらはらに
とっても真摯な想いが伝わってくる彫刻だと想います。


素晴らしいお話をありがとうございました。


*********************************


今回、岡村 光哲さんからのご紹介で、初めて杉 英行さんのお話をお聴かせ頂きました。


杉 英行さんは「再生」をテーマにした作品制作をされています。
このテーマについての手記で杉 英行さんは
「例えば、どんなひどい状況下でも、矛盾と混沌の中からいつか必ず再生する力
 (生命力)が生まれてくる事を、感じとってもらえるような表現をし、伝えたいと思います。」
と書かれています。
お話と作品から、これは杉 英行さんの作品制作の常に根底にあるものだと感じました。


 私にとっても「再生」は大切なテーマですが、杉 英行さんの「再生」にはご自身が
生きること自体を「再生」と捉えていらして、そこは新鮮に感じました。


 みなさまもぜひ、杉 英行さんの彫刻作品をご覧になって見てはいかがでしょうか。・


*********************************


◆杉 英行さんが登場するWEBページ
  
 ◇
 自由美術協会公式ウェブサイト
 ◇
 杉 英行さんの紹介ページ


◆ 杉 英行さんが出品されるグループ展 

  第10回 彫刻7人展
  2014年1月13日(祝日・月)~1月19日(日)
  11:00~18:00 (最終日は17:00)

  万国橋ギャラリー
  〒231-0003 横浜市中区北仲通4-49 萬国貿易ビル1F
  電話/FAX   045-201-8103   
 

 交通 ■地下鉄 みなとみらい線 馬車道駅下車、6番出口徒歩1分
       JR桜木町駅下車、県庁方向へ徒歩10分
       JR関内駅下車、馬車道通りを海の方へ徒歩10分
       市営地下鉄 関内駅下車、9番口 馬車道通りを海の方へ徒歩5分
       /横浜第2合同庁舎向い側



◆杉 英行さんの手記 「木材入手顛末記」


*********************************


◆ 杉 英行さんの手記 


再生というテーマについて


 最近、「再生」をテーマにした作品制作をしています。
「再生」は、死あるいは破壊と表裏一体のものです。生きることは、現在という瞬間において、
自らを創造し再生する事でもあります。過ぎた一瞬はもう既に存在しないので、死んだのと
同じです。常に新たなる再生をしなければなりません。


私にとっては、木彫という創造的作業を通して同時に自分を再生することになります。
新たなる挑戦、新しい作品制作によって新たな自分を生きる、とでも言ったらいいでしょうか。
その意味で自分に厳しくありたいと思っています。


また、「再生」というテーマは、今こそ人類にとって重要なものになっています。
戦争、自然破壊・・・人類の歴史は、近代において特に破壊の歴史だったのではないかと
思わざるを得ません。


私は政治家ではないし、声高に自然保護や反戦活動をやっている訳ではもありません。
一人の木彫作家として、作品によって伝えたい。少しは社会的な運動にも参加するかも
しれないけど、彫刻によってメッセージを伝えたい。
メッセージといっても、具体的な「再生」そのものではなく、また再生の説明でもありません。
例えば、どんなひどい状況下でも、矛盾と混沌の中からいつか必ず再生する力(生命力)
が生まれてくる事を、感じとってもらえるような表現をし、伝えたいと思います。


2003年5月21日

杉 英行


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


★☆ アーカイブス ☆★


学び場美術館登場作家リスト

学び場美術館登場作家リストⅡ



人気ブログランキングへ ←ポチッとおしてね! 


↓こちらも


にほんブログ村  ← ポチっとおしてね!


$みんなの学び場 公式ブログ-学び場美術館ヘッダーバナー画像
アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館