彫刻家ケイト・トムソンさん(再放送)第7回 ~近年の活動 POST CARD TO JAPAN | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさま こんにちは。

みんなの学び場美術館 館長 日下育子です。

 

今日は素敵な作家をご紹介いたします。

イギリス人の女性彫刻家 ケイト・トムソンさんです。


 

ケイト・トムソンさん
片桐 宏典さん
お二人とも彫刻家であり、ご夫妻でもいらっしゃいます。


以下、2014年10月の再放送でお届けいたします。
前々回の日下育子からのリレーで、片桐 宏典さんに引き続き、ご登場頂きます。
     
片桐 宏典さん
     

第1回   、第1回続き  、第2回目  、第3回  、第4回  、第5回   、第6回  、第7回 

第8回  、第9回  、第9回リンク    、第10回  、第10回リンク  

 

ケイト・トムソンさん 
 
第1回  ~~6歳で彫刻家になると決まりました!~

 第1回続き   略歴のご紹介
 第2回  ~制作の素材と想い 石を彫り始めたきっかけと作品の中のスペースについて~ 

 第3回  ~制作テーマ① リレイティブ・パーセプションズについて~

 第4回   ~制作テーマ② 光(LED)を使った大理石の作品群について~ 
 
第5回   ~社会との接点 彫刻で遊び場を創っています~
 第6回    ~共働制作の体験から描いた夢、公会堂アートショウのこと


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第7回目の今日は、近年の活動として東日本大震災後にケイトさん、片桐さんのお二人が
発起人をされた展覧会、「POSTCARDS TO JAPAN」とその姉妹企画「POSTCARDS FROM 

JAPAN」についてお伺いします。

 

大災害の後、ポストカードサイズのアート作品が人々の心にとても響いて、海外からの反響があった

ことや、姉妹企画「POSTCARDS FROM JAPAN」が東北のアーティストにとっても、被災からの

再起の一歩になったというお話を、運営面も併せてお聞かせ頂きました。


どうぞお楽しみいただけましたら幸いです。

 

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kate

「Under The Same Sky」
ケイト・トムソン
コラージュ

(POST CARD FROM JAPANの作品)





 


katagiri

「Black Sun」
片桐宏典
黒御影石

(POST CARD FROM JAPANの作品)






 


PFJ-St.Johns

「Postcards From Japan展」
エジンバラ、セントジョンズ教会での展示
2011





 


PFJ_NY

「Postcards From Japan展」
ジャパンソサイエティ・ニューヨークでの展示
2012





 


PTJ_fukushima

「Postcards To Japan展」
福島県立美術館での展示
2012





 

PTJ_田の浜2

「Postcards To Japan展」
岩手県山田町田の浜コミュニティセンターでの展示
2013




 


TH

「Tohoku - Scotland展」
エジンバラ芸術大学スカルプチャーコートでの

スコットランド警察合唱隊のオープニング・パフォーマンス
2011





 




ポストカード展のポスター
宇夫方康夫氏デザイン

盛岡市の印刷業者が毎回、

ボランティアで印刷してくださったそうです。


 



 




「セブン・デイズ」、「ベンチ」
バルカンホワイト大理石
40x5x60cmH, 45x20x70cmH
堀医院震災復興アートプロジェクト
2012




 


迷宮への入り口

「迷宮への入り口」
イエローオニックス
36x33x86cmH,
みらかホールディングス株式会社所蔵
2012





 


ケルティック・チェーン/ボラード


「チェインリンク」、「ボラード」
ビアンコカラーラ大理石
180x130x65cmH, 65x65x50cmH

神奈川県横浜市みなとみらいアートプロジェクト

「風と潮流」

2011


 



ライトエコー

「Light Echo」
オニックス
14.5x14x11cmH
2009



 

 

ニューライフ


「新しい命の輝き」
バルカンホワイト大理石、LED
80x65x190cmH

2003

坂井医院モニュメント
(岩手県立美術館所蔵)




 


「タイム・イズ・ア・リバー」
ポルトガル大理石
30x75x5cmD
2002




 


ごばんしょ公園

「月の響き」
白御影石
250x10000x120cmH
宮城県牡鹿町コバルトライン御番所公園
1992

メモ
月の引力で潮の満ち引きが起こる。そして海面が波立つ、という作品。
作品のある公園は3面を海に囲まれた岬、
海の向こうに田代島、網地島が見える素晴らしい景色の場所です。

 

 


記憶の河

「記憶の河」
スコットランド産砂岩
240x250x55cmH
ミラー・ホームズ・アーバン所蔵
1988

 

 

 

※インタビューに先立って、展覧会趣旨のご紹介をさせて頂きます。
 「POSTCARDS TO JAPAN ー東北の人々へ 」 カタログより抜粋


(前略)東日本大震災後、多くのライフラインが途絶えた。~そんな中、郵便は数日中には復旧し、
荒れ果てた中でも人から人へ貴重なメッセ―ジを届けている事を聞いた。
一枚の絵に込められた想いは言葉を越える。ここからポストカードプロジェクトは始まった。

 

震災復興の励ましになるように被災地にアート作品を送ろうというわれわれの呼びかけに応じて、

(中略)世界10カ国304名から370点以上の作品が美術家に限らず一般の人や子供達からも

送られてきた。またスコットランドのコーラスグループからは22分間の合唱縁相を収めたCDが1枚のミュージカル・ポストカードとして届いた。

 

同じくカタログより抜粋
「芸術は付加価値や気休めでは決してない、人間にとってなくてはならないもののはずなのだ。
 人間が芸術を必要とする真の価値が問われている。冷徹な現実を見据え、傷ついた心を癒し、
 疲弊し衰弱した信念に情熱を取り戻す。人生の可能性を信じ、またもう一歩踏み出す勇気を与える。
 たった一枚の絵が人生を変える。 そんな素晴らしい経験をこういう時こそ多くの人に体験してもらい

 たい。」


 

 

 

日下
「POSTCARDS TO JAPAN」のステートメント(※上記文章)が
とっても素晴らしく感銘をうけました。
この展覧会は、ケイトさん、片桐さんのお二人が発起人をされていますが、
どんなふうに始められたのでしょうか。
 
 

片桐 宏典さん
これはケイトのアイディアです。
最初は海外のみなさんからポストカードを送ってもらう展覧会をスタートしているうちに
イギリスで展覧会の話があって。

 

ケイト・トムソンさん
そう。向こうの教会の「Festival Of Piece(『Edinburgh International Festival』のひとつ)」という

フェスティバルで「『POSTCARDS TO JAPAN』の展示ができませんか?」と

問い合わせが来たのです。

 

けれども、「POSTCARDS TO JAPAN」は、私たちが海外のアーティストに、
自分の国から東北に直接ポストカードを送って下さいと頼んだ企画なのです。
海外アーティストから日本へ送られたポストカードをイギリスに持ってくるのはおかしいじゃない?
だから最初は「無理じゃないでしょうか。」と返事したのです。

 

でも、考えてみたら姉妹企画をやれるって思って、すぐ電話しました。
「『POSTCARDS FROM JAPAN』はどうですか?」と伝えたところ
「ああ、最高ですね!」と相手は大変喜んでくれました。
そこで、すぐに東北の作家たちに呼びかけをしました。

 

それで最初は、「POSTCARDS FROM JAPAN」を
エディンバラ・フェスティバルにやりましょうと考えました。

 

会場は教会で、礼拝堂の椅子の上に絵を飾れる専用の額がありました。
それでみんなにそのサイズとイメージを伝えて作品を作ってもらいました。

 

日下
すごいですね~。動きが早いですね!

 

ケイト・トムソンさん
それから、カタログを作るときに
展覧会のオルガナイザーに来場者が何人くらいか聞いたところ
約二万人ということだったので、
それならばと、カタログは5千冊ぐらい作ったのです。

 

カタログはイギリスの印刷屋さんに頼んだら、
スポンサーとしてすごく安く作ってくれることになりました。
そして私たちは作品を全部教会に飾り付けてすぐ日本に戻ったんです。


そして、私は展覧会がオープンして1週間ぐらいたった頃、
エディンバラに戻って、会場に行ってみたら
5千冊のカタログは会場ではなく教会の倉庫に入っていました!
1冊も出してなかったんです!(苦笑)

 

片桐 宏典さん
だから、もう~!!(怒)
現場に居ないとこれだからね。

 


日下
うわ~、それは惜しいですね~!!

 


ケイト・トムソンさん
カタログが全部残って、もったいないし、どうしようという感じの時に
丁度、ニューヨークのジャパン・ソサイエティーから電話をもらいました。

 

「『POSTCARDS FROM JAPAN』の展覧会の話を聞いたのですが
ニューヨークでもできませんか?」という内容でした。
私は「もちろん出来ますが、いまは教会の額を使っているので、
スポンサーを見つけて新しく額を作らないとないといけないのですが、
ニューヨーク・ジャパン・ソサイエティーがスポンサーできますか?」と聞いたところ
「全部は無理ですが、半分くらいは出せます。」と言いました。

 

それで、エディンバラの若い人達のやってる小さい会社を見つけて、

結構安く、でもすごくきれいに額を作ってもらって
残りの半分私が急いで払って、
すぐに全部ニューヨークに発送しました。

 

日下
それは良かったですね。

 

ケイト・トムソンさん
カタログも一緒にニューヨークに送りました。

それで、額装してあるしカタログもあるし、
展覧会は一箱に入るからいつでもすごく簡単にできます。
展示も結構簡単です。

 

そのあとロンドンの日本大使館、バーミンガムのアイコンギャラリー、
スコットランドのスターリング大学、ドイツのケルンの日本基金と
ハンガリーのブダペストの日本文化センター、東京の国際文化会館などで発表しました。


片桐 宏典さん
エディンバラでやった「POSTCARDS FROM JAPAN」は
とにかく急いで何かというので、公会堂アートショウに参加した作家、プラス、
岩手県美の大野さんという学芸員に福島の作家を何人か紹介してもらって。
というのは東北6県の作家に描いて欲しいということだったので。
それで3~4人足して、急いでパッケージ作って送って持って行ったんです。

 

だから、ほかにもいろんなかたちは考えられるけれど、
その時に急いで出来る形としては、こんなもんかな。

 

ケイト・トムソンさん
急ぎの企画だったことで逆に面白い味が出たと思います。

というのは、地震と津波と福島の事故のあと、
20人の作家ほとんどみんな作品を創るのは震災以来初めてだったのです。

 

その状況で作った作品にはすごいエネルギーとショックな気持ちと
インテンシティ(密な、濃い)な感じが入っていました。

 

ですから、ポストカードサイズの小さい、シンプルな作品にもかかわらず、
すごい大変なインパクトがありました。

 

どの作家も皆、ストレートな気持ちと感情とエネルギーが入っていますから、
あちこちに展覧会をツーリングして良かったです。

 

日下
本当にとても素晴らしい活動をされていると思います。

 

ケイト・トムソンさん
その20人ぐらいの作家たちも、
直接被災して苦しい状態にいた人と、私たちみたいに海のそばじゃないけど
友達と家族が海のそばに住んでいるとか、どこかに強い関係があってみな苦しい状態だったね。

 

作品のテーマも20人みんな違うテーマになりました。
でも「POSTCARDS FROM JAPAN」という一つの傘の下で、
『ART CAN CELEBRATE LIFE(アートが人生を讃える)』が
テーマとなって、大変面白かったです。
みんなすごく良い作品を出してくれました。

 


片桐 宏典さん
そうそう。

 


日下
作家にとっても、震災後初めて作品に取り組む機会を提供されて
とても素晴らしいことでしたね。

 


ケイト・トムソンさん
今、私がやりたいのは、
10年後、また同じ作家に同じフォーマットの作品をまた頼みたい。
それで1回ぐらい、またツーリング出来れば良いけど。
10年後、どの位まで復興出来たかを考える展覧会をしたいです。

 


片桐 宏典さん
「POSTCARDS FROM JAPAN」  の紹介文はケイトが書きました。
このカタログは海外だけ巡回するものだから英語だけで書いてあります。

「POSTCARDS TO JAPAN」 の文章は僕が書いて
これは日本を回すものなので日英両方にしたんです。
「POSTCARDS FROM JAPAN」は、エディンバラだけで発表する予定だったし。
でも日本語にも訳した方が良いかもしれない。

 


片桐 宏典さん
それにしても結構まわったよね。
あとは記念日の前後に毎年1回やっていこうかなと。
10年位はもっともっと巡回したいなと考えています。

 

日下
素晴らしいですね。
私も継続されることを心から応援させて頂きたいと思います。
今回は、たくさんの充実したお話をお聴かせ頂きまして
本当にありがとうございました。

 


海への旅

「海への旅」
宮城県産玄武岩
140cmW

1988


**************************

 

編集後記

 

私が片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんに初めてお会いしたのは、
私が大学の副手1年目の冬に、お二人の住む岩手県岩手町にある㈲浮島彫刻スタジオを

訪問した時でした。

 

ケイト・トムソンさんは、片桐 宏典さんと共にお二人のお子さんを育てながら、
着実に精力的に創作活動を展開してこられました。

 

東日本大震災の後、多くのアーティストが自分たちに何ができるのかを自問自答したと思います。
私自身は妊娠7ヶ月でしたが、その時は、このブログで作家インタビューの掲載を継続するのが精一杯

だったと思います。

 

ケイト・トムソンさん、片桐 宏典さんのお二人はお話をお聞かせ頂いた通り、

展覧会活動を起こされて、受け手にとっても作り手にとっても、「アートが人生を讃える」 (「~冷徹な現実を見据え、傷ついた心を癒し、 疲弊し衰弱した信念に情熱を取り戻す。人生の可能性を信じ、

またもう一歩踏み出す勇気を与える。~」 冒頭掲載カタログ文章より)
機会を作られて素晴らしいと思いました。

 

次回はこれからの女性彫刻家へのメッセージ、「あなたにとってアートとは?」
についてお話をお聞かせ頂きます。

 

どうぞお楽しみに。

 

浮島彫刻スタジオ 片桐 宏典さんとケイト・トムソンさん

岩手県岩手郡岩手町浮島

 

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◆片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんのホームページ
 
浮島彫刻スタジオ 


 

 ケイト・トムソンさんのエッセイ集 (英語です。)
 

スターリング大学(イギリス)での展示
 

 ケイト・トムソンさんの紹介ページ


 スターリング大学 Corridor of Dreams  (「夢の回廊」 インタビュー動画)

 (全23分中、お二人と作品が映るのは11:30~15:30頃です。)

  

スターリング大学アートコレクション 
ケイト・トムソンさんのインタビュー  (約2分)

スターリング大学のFacebook ⇒Art Collection at the University of Stirling

        

                    ⇒ケイト・トムソンさん、片桐 宏典さんの作品

                        

 

日本・石の野外彫刻―ストーンアート写真集
  藤田観龍 著(写真)  本の泉社

  ケイト・トムソンさんの作品写真、片桐 宏典さんの作品写真と手記が掲載されています。

 

※2017年1月より Kindle版も発売になりました。

⇒ https://www.amazon.co.jp/dp/B01N25WLQ8

 

ケイト・トムソンさん 第1回続き 略歴のご紹介


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★☆ アーカイブス ☆★

学び場美術館登場作家リスト
学び場美術館登場作家リストⅡ
学び場美術館 登場作家リスト Ⅲ ー2014

 


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