彫刻家 渡辺 知平さん(再放送)  第2回 ~子供の頃、眠るのが怖かったことと、温室体験 ~ | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」


みなさま こんにちは。

彫刻工房くさか 日下育子です。


今日は素敵な作家をご紹介いたします。

彫刻家の渡辺 知平さんです。



渡辺 知平さん



前回登場の杉 英行さんからのリレーでご登場頂きます。

  彫刻家 杉 英行さん 第1回  手記   第2回   第3回   第4回   第5回  

渡辺 知平さん

第1回   ~ 自分のものを作れるようになった頃  ~ 

第2回の今日は、渡辺 知平さんの長年の制作題名(テーマ)
「子供たちの夜」の背景となった、子供の頃、強く印象に残った体験について
お話をお聴かせ頂きました。


また渡辺 知平さんが作品にガラスを取り入れ始めた最初の頃の制作についても
お聴かせ頂きました。


2014年2月13日のインタビューを再放送でお送りします。

どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。


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a1


a2


子供達の夜 2005
鉄 ガラス 布
1800×450×400





d2

子供達の夜 2009
木 鉄 ガラス 
2700×900×900




n1子供達の夜2013 

n2


子供たちの夜  2013
木 鉄 布 ガラス
2013年




u3

NU BA TA MA (ドローイング)  2014
鉛筆  400×300





u2

u4
NU BA TA MA (月)  2014
鉄 ガラス アクリル ミシン
1200×1000×450 





日下
制作テーマについてお聴かせいただけますでしょうか。
作品を拝見して、渡辺さんご自身が「素材をどんな風に使って行くか・・・」と仰る通り
表現内容と素材とが結びついて、とても多様な展開があって、興味深く感じています。




渡辺 知平さん
「子供たちの夜」というのが大体前半で、
この頃のテーマというか、題名がそうでした。
その間に別な作品も作りましたけど。



日下
渡辺 知平さんの前半というのは年代ではいつ頃でしょうか。



渡辺 知平さん
大体1990年から2010年頃までですかね。
「子供たちの夜」という題名で作っていたのは。
ここ最近ですね、違う題名になったのは。


日下
そうですか。
「子供たちの夜」の私の印象ですが
ガラスで囲ってあるので、それが被膜とか守るものとかに見えたりしたのですが。



渡辺 知平さん
そうですね、最初にガラスを使い始めたのと
「子供たちの夜」を作り始めたのが大体同じ頃です。


あの、僕が幼児期に夜寝るのが怖い時期があったんですよ。
黙っていても寝ちゃうんですけど、
何ていうのかしら、子供の時に寝てどっか向こうに行っちゃうんじゃないかしら、
もう戻って来ないんじゃないかという恐怖感があって、
朝目を覚ますと安心するというか。


その時にそこまで意識したかどうかはわかりませんが、
向こう側ということがあります。


子供の時は、ただ単に、なんか夜が怖い
寝るのが怖いという、不安だとかそういうことなんでしょうけど。

何か、ちょっとそういう時期があって、
それをあれは一体何だったんだろうかと想い出して。


だから、それを今でも引きずってはいるんですね。



日下
何か身近な方が亡くなったからとか、
そういう体験があった訳ではないのでしょうか。



渡辺 知平さん
それはないです。
ただ、大分県の湯布院というところに、小学校5年生までいたんですけれど。
祖父が医者をしていまして、そこに診療所みたいなのがあって
父親の仕事関係でしばらくそこに住んでいたんです。


別荘がたくさんあるところで、そこもちょっと祖父が別荘として使っていた建物だったんです。
風をよけるためだったんでしょうけどまわりに杉の木立にずっと囲まれているんですよ。
冬は寒いところですからね、湯布院は。


子供の時にそこで出入りするときに、杉の木立がトンネルみたいな感じになっていまして。
変な感じを受けていたんですね。



日下
おうちに入るのにトンネルみたいな感じなのでしょうか。



渡辺 知平さん
表から入る時は普通なんですけど、裏から遊びに入ったりするときは
杉の背が高いので、一角が穴があいたようになっていて、杉の間をくぐりぬけて行くような
出入りするときも何か不思議な感覚があって
「何なんだろう・・・」と。


ずっと、それはありますね。



日下
そのくぐり抜けるような感じがでしょうか。



渡辺 知平さん
ちっちゃい時、ここからあそこ、という風に世界が変わるようなことがあるじゃないですか。
子供の中にテリトリーみたいなものがあって、
こっちから向こうに行くと違う世界だとか、
自分がいつも馴染んでいる場所から
違う町内に行くときの何か違和感みたいなものとか。


そんな記憶がちっちゃい時にあった気がするんですけどね。
そんな感覚とちょっと近いかもしれないですね。



日下
分かるような気がします。
そういう感覚を想い起こしながら制作されていらしたのですね。



渡辺 知平さん
そんなことがあって、近くの旅館の庭にちっちゃな温室があったんですよ。
ガラスで覆われていて。


そこは行くのがとても好きで、たまに覗きに行っていたんですけど。
自分でも温室を作りたいなと想っていて。


温泉地ですから、自分の家にもお湯を引いていて、
雪が降っても湯元の近くは温かいですから、雪がないんですよね。


その近くに穴を掘って彫ってガラスの40センチ角ぐらいの割れたガラスを拾ってきて
それを穴の上にかぶせて、中に野バラを切って突き刺して
水を時々やっていたんですけど、ずっと。


冬ですから雪が降ったりして、ガラスの表面にあるんですけど
それをのけると、ちょっと芽が出ていたりして
とても感動的な、感動して。

毎日学校から帰ってくると、それを見に行ったりして。

その記憶もありまして。
それも同じように、ガラスの向こう側をこっち側から見ると云う世界ですからね。



日下
ええ。



渡辺 知平さん
それでガラスで何か作りたいなと想って
ガラスを通して観るというのは、敢えて考えると変な感じがするんですけど。

電車から観る風景。
いつも通っている所なのに、あれ違って見えるとかってないですか。



日下
ありますね。



渡辺 知平さん
ですよね。何か変な感じが、そういうのを面白いなと想って作り始めた時が
「子供たちの夜」って題名で作り始めた時なんですけども。



日下
面白いですね。
作品の人物像をガラスの枠で囲っているものも独特で面白いと想ったんです。



渡辺 知平さん
今回の写真には無いですが、枠は最初は多分こういう形態ではなかったんですよ。
この中でも写真Nの作品、木彫、布、洋服を着たような人体で、
これも「子供たちの夜」ていう題名の
十字架みたいにちょっと手を広げたみたいな。


これはね、実は去年の制作にはなっていますが
1990年代ぐらいの古い作品をリメイクしているんです。



日下
ええ。



渡辺 知平さん
こ90年代の頃、杉 英行さんにもちょっと相談したりして、
木をモデリングみたいにしたいんだけど、という話をしたんですよ。


「どういうこと?」と言うから
「粘土みたいに木を使いたいんだよ。」って言って。

「木はカービングだろう」
「そう、それはそうなんだけど」


寄木ですよね。木片をくっつけたり取ったり寄木細工とも違う。

古い家を壊した古材なんかを
業者さんが作業場に立て掛けてる所があったんですよ。


その前を通りかかって、埃をかぶって全体が白っぽいグレーと云うか。
木の骨のような感じになっていて
あ、綺麗だなと想ってそれで、そこの人にこの木が使えるかって聴いたら
「こんなもん、使えないよ」と言うから
「もらっていいか」ってきいたら、
「いくらでも持ってけ」と言うので。


それで古材ですから、板とか柱だとか、垂木の古いやつだとか
それをもらってきて、それを組んでいくというかくっつけて行く。
その時は等身大より大きな人体でした。


それで1年に何体か作ったんですよ。
それは布なんかないんですけど、ただの人体を

木でモデリングというかくっつけながら、

方法的にはだぼでくっつけて行くんですけど。
基本的に接着剤は使わないんですけど、寄せる程度に接着剤か何かを使いながら。


それをガラスで覆ったことがあるんですよ。
鉄で石を覆ったみたいに。



日下
はい。



渡辺 知平さん
そうですねぇ、3センチぐらいのすきまを開けながら、

ガラスを切って三角形構造みたいにして
石膏像かなんかで、面取りってありますよね。


あんな感じで、表面はあんな風になるんですよ。
中には等身大の人体みたいな物が入っているんですけど。



日下

ええ。(興味津々)



渡辺 知平さん
最初はガラスでは、それを作っていたんです。
だから、こういう箱みたいなキューブのかたちになるのは随分後になりますけど。


それまではガラスを浮かせながら、真鍮の切り板を使って、
本体から少し隙間を開けてガラスで覆うような作品を作っていましたけど。


それだと面が多すぎるので、少しずつ面を少なくしていって
最終的に今、ガラスで覆うような、箱みたいになっちゃったんですけど。


日下
はい、やっぱりその背景には温室のガラスの体験とか、
電車の窓のような体験とか、あるのでしょうか。


渡辺 知平さん
あっ、ありますよ。
でも、要するにその作って行く時に変化していきますけどね。

でも基本的には同じです。


日下
そうですか~。
とっても興味深いところをお聴かせ下さってありがとうございます。



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今回、杉 英行さんからのご紹介で、初めて渡辺 知平さんのお話をお聴かせ頂きました。


渡辺 知平さんは2010年頃まで「子供たちの夜」という題名で作品制作をされてきました。


一つの素材に限定せず、木、鉄、ガラスなどいくつかの素材から
独特の雰囲気の作品を作られています。


それは、渡辺 知平さんが子供の頃の、
眠ると向こうの世界に行ってしまうのではないか、という不安な感覚や
何かしら此岸と彼岸の意識を根底にもっていらっしゃることから来るのではないかと感じました。


そしてそれらの作品は、観る側にとっても、その人それぞれの
今現在と過去という記憶を行き来させてくれる、不思議な入り口になるように感じます。


いつも新しい作品を作るときは、手技的には荒々しくても、窮屈な感じがなくて好き、
制作はいつも楽しいと仰られていて、その制作の姿勢がとても素敵だと想いました。


みなさまもぜひ、渡辺 知平さんの彫刻作品をご覧になって見てはいかがでしょうか。・


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◆渡辺 知平さんが登場するWEBページ
  
 ◇  
自由美術協会公式ウェブサイト

 ◇  渡辺 知平さんの紹介ページ
 

 ◇  ハマ展:横浜美術協会ホームページ


本日もご訪問下さいまして、ありがとうございました。


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