彫刻家 山本 哲三さん 第7回 ~「おもかるサン」シリーズ、作品の台座について | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさま こんにちは。
彫刻工房くさか 日下育子です。


今日は素敵な作家をご紹介いたします。
彫刻家 山本 哲三さんです。




10
山本 哲三さん

(2010年頃)



前回までの片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんからのリレーでご登場頂きます。
     
彫刻家 片桐 宏典さん
  
第1回   第1回続き  第2回目  第3回   第4回   第5回   第6回

  第7回   

  第8回      第9回   第9回リンク    第10回  第10回リンク  


彫刻家 ケイト・トムソンさん

  第1回   第1回続き  第2回   第3回   第4回   第5回   第6回   第7回  第8回  番外編


山本 哲三さん 

第1回  ~バウハウスのカリキュラムに倣って、彫刻を始めました~

第1回続き  略歴のご紹介   

第2回  ~道具作りも含めて、石に魅力を感じました~

第3回   ~フランス留学で五月革命に遭遇しました~

第4回 ~伝説の彫刻シンポジウム 作品「ジャパン・ライン」について①~

第5回 ~伝説の彫刻シンポジウム 作品「ジャパン・ライン」について②~

第6回  ~伝説の彫刻シンポジウム後、個人制作についての想い~


 
第7回の今日は、山本 哲三さんの近年のシリーズ作品「おもかるサン」についてお伺

いします。
神社などにおいてある、願いが叶うかどうか占う「重軽石(おもかるいし)」に題材を得

た作品群です。
目で見るだけでなく、触って持って重さを体感するというユニークな彫刻作品です。

インタビュー最後には、山本 哲三さんの個展作品のパンフレットより「力石と重軽石」

という
山本さんの手記を全文引用で掲載させて頂きました。

どうぞお楽しみいただけましたら幸いです。


********************************



1
「おもかるサン」

大理石+木材+和紙+玄武岩、H80cm

2005年、

AD&Aギャラリー個展(京町堀)





2
「かみさんのカミサン」
大理石+安山岩+木材+和紙+玄武岩、H120cm
2005年
AD&Aギャラリー個展(京町堀)







11
「見通し石」
大理石+木材+和紙、H65cm
2005年
AD&Aギャラリー個展(京町堀)








「芽の出る石/見通し石」

大理石+木材+和紙+玄武岩、H75cm

2005年

AD&Aギャラリー個展(京町堀)









「おもかるサン/梟石」

大理石+木材+和紙+玄武岩、H75cm

2005年

AD&Aギャラリー個展(京町堀)







6
「たまごがさきかにわとりがさきか」

大理石+玄武岩+木材+和紙、H48cm

2007年

ギャラリー揺個展
(ギャラリー企画“いのち”シリーズ)







7
「たまごがさきかにわとりがさきか」

大理石+玄武岩+木材+和紙、H29cm

2007年

ギャラリー揺個展

 (ギャラリー企画“いのち”シリーズ)








8
「2558gに280g」

大理石+和紙+木材、H35cm

2007年

場所:ギャラリー揺個展

(ギャラリー企画“いのち”シリーズ)








日下
私がユニークと感じた作品は「おもかるサン」というタイトルの作品群です。
作品を持ったり、触ったりするという見る側の感覚と体験で捉える作品はとっても面白いなぁと

思いました。
ちなみに、おもかるサンの“おもかる”というのは、重軽石(※)からきていると記録集に書いて

ありましたね。


  ※重軽石⇒インタビュー記事末尾の山本哲三さん手記「力石と重軽石」参照






山本 哲三さん
そうそう。



日下
サンがカタカナなのは、敬称のサンなんですか、それとも太陽の意味でしょうか。


山本 哲三さん
京都の方では豆をお豆サンていう、“サン”付けるじゃないですか、親しみを込めて。
そういう意味合いで、それもあんまりかしこまったというよりも何気なくっていうかね。

そいで、その全部をひらがなにするか、全部をカタカナにするとなると、まとまり過ぎるって感じがする。
どこかで、こう、ちょっと分割するというか、はずしてしまうというか、そういう感覚が好きやなぁっていうか
面白いなぁって、ですね。



日下
なんか、凄くユニークというか、軽味があるような感じで不思議な感じがします。



山本 哲三さん
そうなんですね、軽味ですね。



日下
そこがとても凄く独自な感じがします。
やはり、石というのは伝統的で、重厚な素材でもありますし、地球の骨なんて言われる位なので、

何か軽く扱っちゃいけないような気がして、重厚なテーマを思いがちですけど。



山本 哲三さん
そうそう。そうなんですね。
よく言われますよ。展覧会してるとね、ゴージャスな素材をえらい無造作にあつこうてますねって。
だから、大理石から人が受け取るイメージが、金持ちさを演出するために、ステータスを上げるために
大理石を使っているとかね。
だから、僕が大理石を使うとそんな風に上等の素材のように扱っていないなぁっていう風に

言われますね。



日下
そうですか。
作品を鑑賞者に積極的に触らせることに誘導していらっしゃる作品でとても面白いなぁと思いました。
美術彫刻では、特に展覧会の場では、鑑賞者は作品に手を触れられない、という設定が多いように

思います。

山本さんがこの「おもかるサン」という作品群を作ろうと思ったのはどんな思いからでしょうか?



山本 哲三さん
素材を駆使して形をつくる彫刻てなにやろう、と言う思いは前からもっていました。
絵画や映像の様なイメージの表現以上に彫刻には物質性がよりつよくあるわけですよ。
それなら、もっとそれを強調した形はなにかないか、と思っていて、重さを体感する、

そして、見た目の判断の重さの感覚と実際に持ってみて感じる重さのギャップを感じてもらえれば

面白いいなあ。
そんなところが「おもかるサン」です。


それで、この個展では、重さ当てクイズもやりました。
来廊してもらった人に、おもかる石の目方を当ててもらいました。
かなり正確に目方を当てた方が2~3人おられました。



日下
それから私が、とてもユニークだと感じたのが、石の作品の台座です。
木の台座にもかたちがあってが凄くオリジナリティーがある感じがします。



山本 哲三さん

それを意識したのがね、フランクーシ(※)の作品からでね。
京都美大の時に習った先生が、堀内正和っていう先生なんですけども。
   
  ※ブランクーシ
コンスタンティン・ブランクーシ


日下
私は、堀内さんの著作の
「坐忘録」  を読みました。


山本 哲三さん
あの本や
「ユーレーカ」  の中に、どこかに出てくるんですけど、
堀内先生はフランクーシのことをよく研究していて、書いたりするんですけれども、

ブランクーシの作品っていうのは、台座も作品なんです。



日下
えぇ。



山本 哲三さん
で、だいたい普通の彫刻の概念で言えば、台座があって、上に乗っかってるのが作品であって
あくまでも台座というのは、額縁のように空間を限定したり作品を引き立たせたりするものですけれども、
フランクーシの作品というのは、台座も作品のうちだっていうね。
そういうことを知って、僕も何かやっぱりそれがそういう風にしたいなぁと思いました。



日下
木の台座に、和紙を張りこんでいらっしゃるものなどは、すごく手が込んでいると思います。
その質感が大理石の柔らかい印象に、マッチしていて、すごく魅力的だなぁと感じました。


山本 哲三さん
台座というのは、やっぱり重要だと思いますね。あのそれもね。やっぱりあの考えてみると、
結局、野外彫刻の場合、まわりの空間ということが、かなり関係してくるという風な捉え方ですね。


ちょっと違うかもしれないけど、日本のお庭の石なんかでも、ぽんと置いているだけじゃなくって、
氷山みたいに、下にかなり埋めこんでて、上をチョコっと出してたりとかね。


そういうことが、見る人には埋めこまれて見えないんやけど、なんか石の山のように見えるという。
山に例えて見えるというのは、そこまでのなんか下にあるものを、

なんとなしに感じさせるからだということとかね。
そういうふうに、こう作品のひとつの部分だけが作品じゃなくて、なんかいろんなものも含めての
作品にしたいということは、意識にありますね。



日下
そういう意味では、作品「たまごがさきかにわとりがさきか」の放射状の木の台座に
和紙が貼り込んであるものは、何かを表現したいという具体的なものがおありなのでしょうか?


また写真の「かみさんのカミサン」の何段かに重なった台座にも興味をひかれますが
こちらについてはいかがでしょうか。


山本 哲三さん
視覚的な意味ですかね。内側から外に向かう流れやね。極端ですが、爆発のイメージを線で

中心から外に向かってシャッシャと何本も勢いよく描くあの感じやと思うんです。
また、「かみサンの“かみ”さん」は、普通奥さんが家の中で一番強いやないですか、

日下さんのご家庭でもそうではないですか?
テレビドラマで何時も“でもね、かみさん言うんですよ・・”と言う決めセリフを言う探偵さんが

活躍しますね、あれですわ。



日下
そうですか。
今日も素敵なお話をありがとうございました。




9
 (重さ当てクイズに挑戦する観賞者)



※「山本 哲三 作品集」(2005年 AD&Aギャラリー個展作品のパンフレット)より

「力石と重軽石」(全文引用)


日常の労働を殆ど人力で行っていた昔に「力石」と言う力自慢が全国的に行われていたそうです。
それに使われた石を全国区にわたって調べている人が書いた「東京の力石」「三重の力石」「大阪の

力石」などを見るとそれらの石には、重量が刻まれたもの、人名が刻まれたものの他にも石に名前が

つけられ、刻まれたものがあって「虎龍石」「瓢石」「小牛石」などなど、その楕円形の米粒を大きく

したような形とともに親しみが出てきます。


力自慢とは別に「重軽石」が神社やお寺で石占いとして行われていて、こちらは人の心と重さが

関係するものとして興味をひかれます。「力石」の今宮神社境内には神占社があります。


 小さな屋根の軒には「阿呆賢さん」と墨書きした板カンバンが掛かっています。

中央の座布団の上には黒い色の一抱えほどの石が鎮座しています。 

その背後の壁に「今宮の奇石」という石についての神主さんの解説が書かれています。


それによると阿呆賢(あほかし)さんには病気平癒の霊験と重軽石の占い力がそなわっているそうです。


占うには作法があって、「手のひらで三度石を打ち、持ち上げるに、たいそう重く成り、

再度願い事を込めて三度手の平で撫でて持ち上げる。」その時に軽く感じて持ち上げれば

願いが叶うということです。


私も作法通りやって見ました所、大層軽く感じられましたので願いは成就することの様です。



********************************


編集後記

今回、片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんのご紹介で、初めて山本 哲三さんにお話をお伺いしました。
山本 哲三さんは大阪芸術大学の教授を数年前にご退職された、活動歴豊富で多彩な彫刻家で
いらっしゃいます。


片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんからは、1969年にオーストリアのサンクト・マルガレ―テンの

採石場で開催された日本人のみ5人での共同制作の伝説的な彫刻シンポジウムに参加された

素晴らしい彫刻家のお一人としてご紹介を頂きました。


山本 哲三さんはその彫刻シンポジウムをオルガナイズされた、彫刻シンポジウムの父と呼ばれる
彫刻家カール・プランテルさんに贈る冊子「ARIGATO PRANTL SAN」という、
日本人の参加した彫刻シンポジウムの記録冊子編纂にも尽力されていました。


今日は、神社やお寺の石占いにもちいられる重軽石に題材を得た作品「おもかるサン」の

作品と台座についてのお考えについてお伺いしました。


「おもかるサン」のように鑑賞者が実際に持って体感をする、自分の願いを占う作品の

スタイルというのは、とっても楽しそうだなぁと感じました。


そして、またそのスタイルは、鑑賞の対象物としての彫刻を超えて、
何か媒体・メディアとしての彫刻の在り方が内包されているようで、とっても興味深く感じました。

次回は、山本 哲三さんの社会との接点という視点から、内容の濃いお話をお聴かせ頂きます。


どうぞお楽しみに。


********************************



◆ 山本 哲三さんのホームページ 

 

◆ 山本 哲三さん著
 「彫刻シンポジウムと共同制作
  ―日本人の参加した彫刻シンポジウムの記録冊子編纂の機会を得て―」

(大阪芸術大学 紀要)



◆山本 哲三さんが編集の一員を勤められた資料集
 
冊子「ARIGATO PRANTL SAN」のプロジェクトホームページ
 

 ビバ! 彫刻シンポジウム
 日本人彫刻家が参加した世界の彫刻シンポジウム 参加記録・作品写真集のホームページ
 


◆ 山本 哲三さんの展覧会情報

  ホームページ展覧会情報

  アートでびっくり!干支セトラ(午)展

  前半2014年12月5日(金)-23日(火)

  後半2015年1月9日(金)-25日(日)
  毎週、金・土・日と祝日のみ開廊/AM11時-PM5時
 

 Art-Setスタジオ

 〒489-0042瀬戸市中切町3TEL0561-83.0484(開廊日のみ対応)
 
Art-Setスタジオのfacebook  


山本 哲三さんの略歴


◆山本 哲三さんお薦めの彫刻シンポジウムに関するレポート

 文化資源学,文化経営学の研究者 柴田葵さんのホームページ

  彫刻回帰線
  彫刻家カール・プランテルさんを訪ねて



本日もご訪問くださいまして

ありがとうございました。



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