MLB(メジャーリーグ)コラム「Gotta be Clutch」 -12ページ目

”パット・ザ・バット”完全開花か

”パット・ザ・バット”と言って誰のことを指すのか分かった人は、
きっとメジャーリーグに詳しい人だろう。


そう、フィラデルフィア・フィリーズのパット・バレル左翼手のことだ。

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現在31歳の彼は、今シーズンここまで打率.355(リーグ8位)、
ホームラン8本(リーグ2位)、25打点(リーグ1位)と
文句の無い成績を残している。
それではなぜこの選手に注目したのか?
確かにシーズンが始まってからすぐは勢いだけで成績を伸ばす選手もいる。
しかしバレルの場合はおそらく違うと言える。
そして彼には注目すべきキャリアがあるのだ。

バレルは1998年ドラフトの全米1位指名でフィリーズに入団した。
彼は強豪マイアミ大学時代に大学ワールドシリーズMVPに選ばれ、
98年には大学野球史上2位の長打率を残し、
全米アマチュア最優秀選手に贈られるゴールデンスパイク賞も受賞した。
その当時は「全米最高の選手」「メジャートップクラスになれる打者」という評価も受けていた。
そして「パット・ザ・バット」というニックネームは、
打者の象徴であるバットがパット・バレルの代名詞とまで言えるというところから付けられた。

バレルはプロ入りしてからも高い評価は間違っていなかったことを証明した。
メジャー1年目の2000年から規定打席に達しなかったにも関わらず17本塁打、79打点を記録。
翌年には27本塁打、89打点。2002年には37本塁打、116打点と着実にスターへの階段を上って行った。
そして誰もがこのままバレルはその階段を上り続けるものだと信じていた。

だが、翌2003年から昨年までの5年間で彼が残した成績は1シーズン平均27.2本塁打、91.4打点だった。
並の選手にしては決して悪くない数字だし、むしろ誇りに思えるほどの成績でもある。
しかしフィリーズのファンにとっては、ドラフトの時から彼はずっと「スーパースターになるべき選手」だったし、
弱小フィリーズの歴史を変えてくれる選手だと信じていた。

結果として全米で最も手厳しいと知られているフィリーズファンは彼にブーイングを浴びせた。
バレルはここ5年間大きなケガもなく、多くの試合に出場してきたのに、
”スター候補”にしては平凡な成績しか残せなかったとみなしているからだ。
また彼の打率が低い(通算で.258)ことや、三振が多い(年平均142個)のも印象を悪くしているように思える。

しかし客観的にバレルの成績を見てみると、スーパースターとまではいかないものの、
非常に素晴らしい成績を残していることも分かる。

彼のバッターとしての特徴は、なんといっても選球眼に優れる出塁マシンであるということだ。
前述の通り打率は低いものの、通算出塁率は.367だ。
例年4割を超える出塁率を残すアルバート・プーホルス(カージナルス)や
トッド・ヘルトン(ロッキーズ)と比べると見劣りするが、彼らは通算打率も大きく3割を超えており、
バレルは”打率が低いにも関わらず”というカテゴリーの中ではトップクラスの出塁率を誇る。
昨年は.400という出塁率を残し、リーグ3位の114四球も記録した。
この出塁率はリーグ9位で、これは本塁打王のプリンス・フィルダー(ブリュワーズ)や
チームメイトであり2006年MVPのライアン・ハワードをも上回る数字だ。
出塁率の高い選手は塁に出る回数、可能性が増えるため、必然的にチームの得点能力も上がる。
よってバレルのような選手は、本来チームに重宝される選手なのだ。

このように目立たないながらに優秀な成績を残していてもフィリーズファンはバレルにブーイングを送る。
これは「スーパースターになってほしい」という彼への大きな期待の裏返しなのかもしれない。
実際バレル自身もこの地元ファンを毛嫌いしているわけではなさそうだ。
バレルは2003年に移籍のチャンスがあったものの、6年5000万ドル(約50億円)でチームに残った。
バレル自身もこのブーイングを大声援に変えたいという思いがあったのだろう。
「元全米ナンバー1打者」としての意地もあったのかもしれない。

そして迎えた今シーズン、現在のところバレルはチーム、いやメジャーで最高の打者になっている。
この勢いがいつまで続くかは分からないが、元々実力はある選手なので、急ブレーキということはないだろう。
もしかすると、昨年アリーグの首位打者を獲得したマグリオ・オルドニエス(タイガース)のように
スタートダッシュからシーズン終了まで好調を維持できるかもしれない。
そうすれば念願の個人タイトルも見えてくる。

バレルがその実力を本当に開花させられれば、
元々ハワードを始め、昨年MVPのジミー・ロリンズ、現役最高二塁手のチェイス・アトリーらがいるだけに
フィリーズ打線はり間違いなくリーグ最高のものとなるだろう。
”元”全米最高の打者が、再びその称号を手に入れ、チームを優勝へ導くのを見れるのは今シーズンなのかもしれない。(4/24/2008)

写真:John Biever/SI